第三十六話 漆黒の龍
私は職員室へ全力で走った。
職員室のドアを勢いよく開けたせいでかなり先生たちの驚きの眼差しが一斉にこちらを向いたが、そんなことは気にしていられない。
「校長先生!今すぐ全校生徒を校庭に避難させてください!」
「何を急に言っているのかね」
「不審者がいきなり教室に入ってきて担任の後藤先生がやられたんです!!」
「・・・わかった。教頭先生、全校に避難指示を」
「ありがとうございます!!」
信じてもらえるか心配だったけど、尋常じゃない必死さが伝わったようだ。
私は先生たちと一緒に校庭に走った。
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後藤をおぶって保健室に行くと先生がこちらを見て目を丸くして言った。
「後藤先生!?君、何があったんだい!?」
「そ、それが・・・」
『全校生徒に告ぐ。不審者が校内に侵入した。全員直ちに校庭に避難しなさい。繰り返す。不審者が・・・』
「だいたい事情は分かったよ。だけどここにいるより外に逃げた方が安全だ。外に出よう」
「は、はい」
俺は他の生徒たちと一緒に校庭に避難した。
その瞬間、俺たちの教室が一瞬燃えたと思ったら窓ガラスが一気にくだけ散った。
一斉に避難組の視線が校舎へ向かう。
そして数秒後、物凄い音ともに三階にあった俺たちの教室とその下の教室が壊れた。
原型はとどめているものの、窓から見える教室の中が崩れ、壁中に亀裂が入っている。
俺を含め、皆、まさに開いた口が塞がらないといった状況だった。
楓ちゃんとさっきの男が戦っている。
この間、化け物を焼き払う楓ちゃんを見ていた俺はそう確信していた。
そう考えると、俺はまだ落ち着いていられたのかもしれない。
だけど・・・、
少し間があって、突然炎が一階から吹き上がり、屋根を突き破って空が燃え上がった。
・・・ここまで来るとさすがに頭がついていかない。
さっきまで悲鳴をあげていた人も、黙ってその状況を見るしかないくらいだった。
あとで知った話だが、この時点で何人も気絶していた人がいたらしい。
超常現象はこれでは終わらなかった。
今度は巨大な炎を纏った鳥が校舎に止めを指しながらどこからともなく現れたのだ。
「どうなってるんだよ、これ・・・」
呆然としていると一瞬のうちに校舎が火の海に包まれてしまった。
校舎が完全に炎に包まれてしまってからしばらくすると、校舎の中からボロボロになったさっきの男が飛び出してきた。
屋根から目の前までジャンプしてきたようだが、もうそれくらいじゃ驚かない。
「おのれ小娘が。まさか不死鳥の力を使うとは・・・。しかし、こちらも負けてはいられないですね」
男の周りに巨大な魔方陣のような白い紋様が写し出された。
「させない!」
ほぼ同時に赤毛の女の子が燃える校舎から飛び出してきた。
空中で手から火の玉を連続で繰り出す姿には見覚えがあった。
「楓ちゃん!!」
「みんな!もっと離れて!!」
「手遅れですよ」
男の魔方陣的な白かった何かが黒い光を放ち、中から巨大な化け物が現れた。
恐竜のような身体に大きな羽を生やし、血に飢えた目でこちらを見る。
「ヴオオオオオオオオ!!!」
地響きをたてながら吠えたソレはゲームや漫画でお馴染みソレだった。
漆黒の身体の中で輝く双眼がこちらを見据えている。
「ド、ドラゴン!?」
「ドラゴンこそ全ての魂霊の頂点!私はついにドラゴンの力を手にいれたのです!フハハハハハ!」
男が自慢気に言葉を続ける。
「さぁ、私のドラゴンよ、この人間どもを殺し尽くてしまいなさい」
ドラゴンは楓ちゃん目掛けて突進していく。
楓ちゃんはそれを軽やかにかわして、刀でドラゴンの身体を切りつけた。
ドラゴンが苦痛の声をあげる。
「烈火桜塵・初式」
一旦鞘に収めた刀を一気に引き抜き、ドラゴンの首筋を襲う。
赤く光った刀身がドラゴンの硬い皮膚に当たった瞬間、炎が弾けてドラゴンを四方八方から攻め立てる。
一瞬でドラゴンは炎の海に包み込まれてしまった。
「す、すげぇ」
楓ちゃんってこんなに強かったのか。
「ドラゴンは魂霊の頂点にある存在ですよ?これで終わりなはずがないでしょう」
その男の言葉と同時にさっきの炎が弾け、こちらに極太の炎が向かってきた。
「させるかあああ!」
そこに楓ちゃんが割り込んできた。
「散り乱れろ、灼華桜火!!」
物凄い量の炎が楓ちゃんの前から吹き出し、極太炎と衝突する。
が、僅かに楓ちゃんの炎が弱かったのか、少しの間の拮抗が崩れ、楓ちゃんは炎をもろに受けてしまった。
ちょうど俺の目の前に吹き飛ばされた楓ちゃんは息も絶え絶えに言った。
「はやく・・逃げて・・・」
「で、でも・・・!」
そうこうしているうちに、ドラゴンは真っすぐに俺たちの方へ向かってきた。
ヤバイ!殺られるッ!!
俺は逃げるのか?
女の子が目の前に倒れているのに?
時間が凄く遅く感じる。
目の前のドラゴンが超スローモーションで近づいてくる。
俺には逃げることしかできないことは分かっている。
けれど楓ちゃんを置いていくのも駄目だと思った。
もう楓ちゃんを連れて逃げるしかない。
ドラゴンの口が大きく開かれ、鋭い歯が剥き出しになっていた。
動け動け動け!!
あまりの恐怖で身体が言うことを聞かない。
楓ちゃんを連れて逃げないといけないのに!
実際には一瞬だろうその時間が何時間にも感じた。
ついにドラゴンが自分の目と鼻の先まで来たとき、俺は死を覚悟して目を強く瞑った。
「・・・失せろ」
聞き覚えのある声が聞こえた。
とっさに目を開けると、すぐ目の前にいたドラゴンが軽く50mは吹き飛ばされていた。
「真二・・・!!?」
声のした方を向くとしばらく見なかった親友が空に立っていた。