第三十五話 突然の決戦
真二が学校に来なくなってから3週間が経った。
クラスのみんなは真二が休んでいるのを凄く心配していた。
体調不良で休みってことにはなっているけれど、3週間も休んでいたらただの体調不良じゃないことくらい誰だって分かる。
楓ちゃんはある日を境に身体中に傷をつけてくるようになったし、同じ頃から悠樹君は元気がない。
二人に何かあったのかと聞いても、何でもないとはぐらかされてしまう。
「やっぱり、魂霊絡みなのかなぁ」
真二、無理してなければ良いんだけど・・・。
そんなことを考えながら朝のホームルームで担任の話を聞いていると、いきなり大きな音をたてて、ドアが開かれた。
クラス中が一斉にそちらに意識を向ける。
開かれたドアの前には、なんとなく嫌な感じがする若い男が立っていた。
「だれだ君は。見たところ生徒でないようだが―――」
ガシャン!!
担任が注意をしようとした瞬間、楓ちゃんが勢いよく立ち上がった。
「フフ、見つけましたよ。火嵐楓」
「・・・どうしてお前がここに・・・・・」
楓ちゃんの知り合い?
その割には雰囲気が重い。
男は笑っているが、楓ちゃんは物凄い顔で睨み付けている。
「君、生徒以外はここに来ては・・・」
「うるさいですね。少し黙っていてください」
その瞬間、先生は見えない何かに吹き飛ばされ、教室の壁に勢いよく打ち付けられた。
「キャアアアアアア!!」
「せ、先生!!」
「な、なんなんだアイツ!?」
教室がざわめく。
あの人、もしかして霊術師!?
でも霊術師がこんなことするなんて・・・。
「みんな逃げて!!」
楓ちゃんが叫んだ。
「誰か先生を保健室に!校長先生にみんな外に避難するようにお願いしてきて!!」
「う、うわあああああ!!」
「逃げろおおおお!!」
楓ちゃんがみんなに指示を出すけれど、誰も聞く耳を持たない。
自分のことで精一杯なんだ。
「悠樹くん!先生を保健室に!」
「・・・あ、ああ!」
呆然としていた悠樹くんに指示を出す。
悠樹くんが先生を担ぐのを確認すると、私は職員室へと走った。
□■□■□
みんなが教室を出ていくと、私は霊刀を構えた。
「あなた、ここに何をしにきたの?」
「決まっているじゃないですか。あなたたちを倒すためですよ。私の計画にあなたたち霊術師は邪魔なのでね」
「だからってわざわざ学校に来ることはないんじゃない?」
「良いじゃないですか。何も知らない者が右往左往するのは見ていて楽しいものです」
「っ!!」
「フフフ。怒らせてしまいましたか?」
ダメだ。
相手の挑発に乗っちゃダメ。
冷静にならないと。
「まあ、お話はこれくらいにしますかね」
そう言って、恐一郎はいきなり斬りかかってきた。
私は咄嗟に霊刀で弾く。
間髪入れずに黒い風の刃が私を襲う。
「火嵐」
私を中心に炎が渦を巻き、風を凪ぎ払う。
気が付くと、恐一郎の姿が消えていた。
「どこ!?」
「こちらですよ」
声のする方―――天井を見ると、恐一郎が天井に張り付いて、こちらに手をかざす。
「終わりです」
「しまっ!!」
どす黒い突風が私目掛けて吹き荒れる。
いくら風とはいえ、風速何十メートルにもなれば、その威力は計り知れない。
風は私もろとも吹き飛ばし、何層にもなっている学校の床をぶち抜いて、私は一階の廊下へと叩きつけられた。
「がはっ・・・」
「まったく、大したことはないですね」
「まだ・・・終わりじゃ、ない・・・」
「!?」
穴の空いた床から極太の火柱があがる。
炎はそのまま天井を突き破り、空高く炎が吹き出す。
「はぁあ!!」
一気に元の教室にジャンプ。
恐一郎と対峙する。
「あれで少なくとも動けなくなるとは思ったんですけどねぇ」
「残念だったわね。ここからが私の本気よ」
不死鳥の力を使うと学校への被害が心配だったが、そうも言っていられないようだ。
「行くわよ!」
恐一郎へと急接近して、霊刀を降り下ろす。
恐一郎はそれを風を纏った腕で受け止める。
「その刀も叩き割ったはずなんですがね。どうしたんですか?」
「これが答えよ」
一旦引いて距離をとる。
そして霊刀に霊力が集まり、炎を吹き出す。
「火烏!」
刀をその場で振ると、霊刀から吹き出していた炎が烏の形となって超高速で飛んでいく。
恐一郎は黒い風の刃を飛ばして応戦するが、火烏の方が威力が高いゆえに防戦一方だ。
私はさらにそこに技を畳み掛ける。
「我と契約しせし不死鳥よ、大いなる力をもって敵を焼き払え」
教室の床に組み立てられた術式から不死鳥が召喚される。
巨大な身体を持つ不死鳥は天井、床、壁を破壊して宙に浮き、鋭い眼光が恐一郎を射抜いた。
「灼火不滅の息吹」
不死鳥がキエェェェェェと鳴くと、恐一郎目掛けて灼熱の炎が吹き出される。
息吹、と言っても、直径3メートル近くある極太の火炎放射だ。
しかも、私が術を止めない限り、この炎が消えることはない。
恐一郎は必死に風で相殺させようとするが、こちらの炎は弱まることを知らない。
あっという間に炎は恐一郎を飲み込み、その空間ごと焼き付くしたのだった。