第三十四話 永遠の炎を宿す時
———不死鳥。
全身に業火を纏い、天を赤く燃やす伝説の不死の鳥。
その姿はなんとも神々しく、美しかった。
「———私の眠りを妨げたのは誰だ」
突然、頭の中に直接声が聞こえてきた。
おそらく不死鳥の思念が伝わってきたのだろう。
「私よ」
「私の眠りを妨げるとは、それなりの覚悟があるのだろうな・・・?」
「私は火嵐家の次期当主よ。それくらいの覚悟はしてるわ。」
「・・・火嵐の娘か。以前私の力を使いこなす覚悟の無かった男の子孫の言葉を、そう易々と信じられるものか」
覚悟が無かった?
実力不足だったからではなくて?
「どういうこと?」
「良いだろう。教えてやる。あの男は若いときから優秀で次期当主として期待されていた。だが、それゆえに自分の力を過信し、私の力を使うということを甘く見ていたのだ。いざ私の力を使った時、奴は強大過ぎる力に恐れをなして、あろうことか私を封印しおったのだ」
「・・・」
それだけの実力を持った術師でさえ恐れ感じるほどの力・・・。
ようは私にそれを受け止める覚悟があるかということね。
「さっきも言ったとおり、覚悟ならあるわ。私は仲間を守らなくちゃいけない。いや、町のみんなを、クラスのみんなを、家族を、・・・そして真二をっ、守りたい!!!」
半ば叫びながら、覚醒した。
髪が轟と燃え上がり、私を中心に地中から炎が吹き出した。
いつもとは違う、凄まじい量の霊力が体中を駆け巡る。
それを見た不死鳥は私目掛けてとてつもない霊力を浴びせてきた。
「うぁ・・・!」
咄嗟に霊刀を抜いて受け止めようとする。
が、私の霊刀は恐一郎との戦いで折れたままだった。
私は不死鳥の霊力を受け止めることができず、思わず膝をついてしまったが、全身の霊力を放ち、なんとか耐えていた。
「どうした。お前の皆を守るという覚悟はその程度のものなのか」
私の覚悟が弱い・・・。
私の覚悟はまだまだ足りないっていうの?
その時、真二の顔が脳裏をかすめた。
そうだ。
真二だって頑張っているのに、私がこんなところで屈する訳にはいかない!
「はああああああああああっっっ!!!」
身体中で霊力がぶつかり合い、霊力がより一層弾け飛ぶ。
不死鳥の霊力をどんどんと押し返し、私は立ち上がった。
「これが私の覚悟よ!!!」
ズドオォォォォォォン
凄まじい地響きをたてて、激しい風が吹き抜ける。
私はついに不死鳥の放つ霊力を吹き飛ばした。
「・・・お主の覚悟、しかと受け取った。では、最後の試練だ」
「はぁ、はぁ、最後の、試練・・・?」
「さあ、その指輪を出すがいい」
少し間をおいて、私は言われるままに霊刀を指にに戻し、右手を差し出した。
不死鳥が炎に包まれたかと思うと、指輪に埋め込まれた赤い石に吸い込まれるかのように入ってくる。
「!?」
物凄い霊力が体に流れ込んでくる。
体が、熱いっ!
「これが私の力だ。受け止めてみよ」
不死鳥の声が頭に響く。
これが不死鳥の力!?
さっきの霊力とは全然違う。
燃え盛る炎が身体中の流れ込んでくるのが分かる。
真二と出会う前の私なら耐えられないかもしれない。
けど、今ならできる!
ゆっくりと不死鳥の霊力と私の霊力が混ざりあっていく。
不死鳥の炎と私の炎が溶け合って一つの炎のなっていく、そんな感じ。
死ぬほど熱いけど、なんだか心地好い。
やがて不死鳥の霊力は完全に私と一体となった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
・・・やったの?
さっきまで物凄い力が私の中で渦巻いていたのに、今は普段と何にも変わらない。
ただ、疲労感だけが重くのしかかってくる。
少しここで休もう。
近くにあった木に背中を預け、そのまま座り込んだ。
ふと手に持っていた霊刀に目を向けると、元通りに戻っていた。
「不死鳥の霊力で元の形に戻ったのね・・・」
その直後、遠くから消防車のサイレンが聞こえてきた。
音はどんどん大きくなっている
正面を見ると、地面には大穴が空き、所々に火がついて、そこから煙があがっていた。
・・・
逃げよう。
いや、別に悪いことをしたわけではないのだけど、放火魔と間違われたら厄介だ。
私は地面に炎を逆噴射して、空に飛んだ。
木から木へと次々に飛び、一気に山の麓へと降り立つ。
もう歩くのも億劫だったが、例のごとくタクシーやバスは通っていない。
私は駅に向かってトボトボと歩きだした。
「・・・やっぱり私、放火魔で間違ってないかな」
さっきまでいた山から煙がモクモクとあがっているのを見て、そう呟いた。