第三十三話 火烏の地へ
「これで終わりよ」
私は父の首筋に刀を当てて言った。
「・・・良いだろう。教えてやる」
私は一気に緊張が解けて、その場で脱力した。
「この近くに火嵐家の先祖が不死鳥を封印した場所がある」
「封印?」
「以前は不死鳥を火嵐家の化身として祀って、度々その力を借りてきたそうだが、時の当主が不死鳥をうまく扱うことができなかったらしくてな。不死鳥が暴走を始めたために封印してしまったのだ」
「つまり、私がその封印を解くってことね」
「うむ」
「で、その封印の場所は?」
「お前の学校の近くにある火烏という場所だ。霊力が強いから行けば分かるだろう」
「分かった。行ってみる」
ちょうど金曜日ということもあり、その日は我が家に泊まって翌朝、私は電車ですぐに火烏の地に向かった。
すると、なるほど確かに微かに霊力が漂っていた。
「この霊力の発生源は・・・」
僅かな霊力の流れを感じる先には、ちょっとした丘があった。
「あそこね・・・」
まだ12時だし、今行っても誰かに見られるかもしれない。
日が沈むのを待とう。
とりあえずお昼ご飯でも食べよう。
駅の近くにあったバーガーショップに入って、チーズバーガーセットを頼んだ。店内の席に座ってポテトを食べていると・・・
「あれ、伊藤さん?」
声のする方に振り返ると、見知った顔がそこにいた。
「霧島さん?」
「伊藤さんって家この辺なの?」
「家は違うわ。今日はたまたま用があっただけ」
「そうなんだ。私はこの辺りに住んでいるの」
まさか、こんなところでクラスメイトに会うとは思わなかった。
しかもこの近くに住んでいたとは・・・。
・・・それにしても、
「・・・」
「・・・」
話すことがないっ!
何か良い話題は・・・
「あっそういえば霧島さんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「もちろんよ。なんでも聞いて」
「この辺りで火とか鳥に関する伝説とか言い伝えってある?」
昔そんな大きな不死鳥が暴れたなら、なんらかの言い伝えが残っているかもしれない。
情報は多いに越したことはないわ。
「うーん、伝説っていうかこの土地の名前の由来にそんなような話があるわ」
「本当!?ちょっと聞かせてくれる?」
「いいわよ。ここの土地一帯が火烏って名前なのは知ってるでしょう?」
「うん」
「百年以上前にここに大きな怪鳥が現れたんだって。とても大きくって、その鳥はずっと燃えていたらしい。すると町中の鳥が燃えながら空を飛びはじめて、町中で家が焼けてしまったの。その鳥の中でもカラスが一番多く飛んでたってことから、火烏っていう地名が付いたみたい」
なるほど、不死鳥の力で他の鳥も燃えながら飛ぶってことか。
「そんな話があったんだ」
「まあ、所詮伝説なんだけどね」
「だね。私はもう行くわ」「あ、そう?じゃあね!」「うん。また来週」
私はお店をでて霊力の発生源に向かった。
「夜までに現地調査しとこう」
しばらく歩いて丘の麓までくると、だいぶ霊力がはっきりと感じられた。
とは言っても弱いことには変わりないが。
目の前にある丘は、遠くから見ると丘にしか見えなかったけど、近くで見ると丘というには少し高かった。
実際には分からないが、標高は2、300メートルはありそうだ。
「これを登るのはちょっと大変ね・・・」
見た感じ車道は整備されているから、タクシーでも拾おうか。
そう思ってその場で少しタクシーが通るのを待ってみるが、全く通らない。
「仕方ないわ。駅にはたしか乗り場があったはず」
そうして今来た道を戻って、駅へ向かった。
やっとのことでタクシーに乗って、運転手に行き先を伝えた。
すると・・・
「お客さん、あんな何もないところに何をしにいくんです?」
「え、何もないってどういうことですか?」
「知らないんですか?あそこは山の中腹に小さい祠があるだけで、あとは自然しか無いですよ」
「祠・・・。その祠のところまで行ってもらえますか?」
「わかりました」
そう言って、運転手はどんどん山道を登っていった。
運転手の言ったとおり、その山にはこじんまりとした祠があるだけで、あとは人の手が入っていない、自然そのものだった。
あれから数時間、祠の前で霊力の調査をしているが、ほとんど何もわからなかった。
たしかに霊力の発生源はここで間違いないのだが、それ以外はまったくなのだ。
「しっかり封印されているようね・・・」
そういえば、封印を解くにはどうすれば良いんだろう?
祠の中には掌くらいの大きさの石が置いてあるだけ。
おそらくこの石に封印されているんだろうけど、御札とかも全く貼ってないし・・・。
ということは、この石が封印しているのであって、石に封印されているわけではないと考えるのが自然か・・・
するとこの石をこの場所から移動させれば良いのだろう。
だいぶ日も暮れてきたし、そろそろ始めようか。
私はゆっくりと祠の中の石に手を伸ばし、祠から取り出した。
数秒空けて、ゴゴゴゴゴッという地響きと共に祠の真下から天高く火柱が上がったかと思うと、次の瞬間、地面が盛り上がり、中から炎を纏った巨大な怪鳥が現れた。
ーーー不死鳥!