第三十一話 訪れる危機
そろそろ帰ろうかと体を持ち上げると、そこには巨大なカブトムシの幼虫みたいな気持ち悪い化け物が湧いていた。
その大きさは俺より少し小さいくらい。
あまりの恐怖とキモさに腰を抜かして逃げられない。
俺、半泣き。
ゆっくりと俺と化け物の間が詰められていく。
「た、助けて・・・」
俺はここで死ぬのか。
まだやりたいことはたくさんあるのに。
「くっ、もうダメか・・・!」
自分の死を覚悟したそのとき、俺に一番近付いていた化け物が突然燃えた。
続けざまに2匹3匹と化け物が燃え上がる。
「いったい何が起こって・・・?」
よく見ると、炎の塊が別の場所から飛んできているようだ。
反射的にそちらを向くと、木の幹の上に見知った顔が立っていた。
「はあ、気づかれちゃったかー」
「楓ちゃん!?」
そこに立っていたのは、まさしく伊藤楓であった。
え、どゆこと?
俺が混乱していると楓ちゃんは木の上から俺の目の前にスタッと飛び降りた。
足、痛くないのだろうか?
「波焔」
左右に向けた手のひらが赤く光ったかと思うと、炎の塊が化け物めがけて飛んでいく。
「・・・」
俺がぼーっとその光景を眺める中、楓ちゃんは次々に残りの化け物を燃やしていく。
あっという間に化け物を全滅させた楓ちゃんはこっちを向いて言った。
「・・・私のこと、恐い?」
「え?」
「だって私、手から火だせるのよ?普通じゃないでしょ?」
そこでようやく俺は自分が置かれている状況を把握した俺は、楓ちゃんと目が合うと反射的に一歩退いてしまった。
それを見た楓ちゃんは少し寂しそうな顔をして言った。
「そうよね・・・。私みたいなのは化け物と似たようなものだもの。やっぱ、恐いよね」
「・・・」
俺は何も言えなかった。
頭では楓ちゃんは良い人って分かっているのに、恐怖を拭うことができない。
「それじゃあ、また明日ね」
「・・・ああ」
楓ちゃんは少し俯きながら帰っていった。
一人取り残された俺はしばらく空を見上げてから来た道を戻った。
□■□■□
洞窟に籠ってからどれくらい経ったのだろう?
食料は魚と狼を狩って食べた。
霊術で肉を焼いて食べるのだが、正直旨いとは言えなかった。
俺はここで何をすればいいのだろう?
ここに来てからというもの、専ら野生的な生活をしているだけだ。
精神的にはかなり追い詰められているが。
「はぁ、温かいご飯が食べたい・・・」
洞窟の中を宛もなく、だらだらと歩いていると、来たことのない場所にたどり着いた。
広かった道が急に狭くなり、奥の方から僅かに霊力を感じる。
「行ってみるか」
周りに注意をはらいながら、足早に道を進んでいく。どんどんと奥に進んでいくと、そこは行き止まりになっていた。
「あれ?おかしいな・・・」
しかし、前に立ちはだかる壁の先からは確かに霊力を感じる。
どうする?
壁を壊してこの先にあるものを確かめるか。
しかし、それだとこの洞窟そのものが崩れる可能性もある。
しばらく悩んだすえ、俺は好奇心に従うことにした。どうせ死ぬ覚悟はできているし、霊術で防ぐこともできるだろう。
「炎華!」
拳に炎の華を纏い、思いっきり壁に右ストレートをかました。
が、壁には俺の拳の型がつくだけで、びくともしなかった。
「くっそ。なんつー硬さだ。荒れ狂う風!」
少し離れて、刃を持った風の渦を放つ。
しかし、それも岩を少し削るだけにとどまった。
「なんだこの壁!?普通じゃねぇ。にゃろー、これならどうだよ!激風爆水槍!!」
風と水の巨大な槍が壁に突き刺さる。
ガガガガガッと岩を削る音が響く。
その槍はいっそう鋭さを増し、激しく岩に穴を開けていく。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁ」
さらに出力を上げる。
ついに硬い岩の壁に大きい亀裂が入ったと思ったその瞬間、物凄い音をたてながら一気に壁が砕けた。
壁の先には空間があったようで、道が続いていた。
しかし、今の衝撃で同時に周りの壁や天井も崩れてくる。
俺は反射的に加速し、目の前に続く道を駆け抜けた。少し開けた空間に出たところで、轟音と共に岩が崩れ、今来た道は完全に塞がれてしまった。
「ふぅ、危ねぇ危ねぇ・・・」
さて、ここはどこだろうか。
さっきより少し広い空間だが・・・。
とりあえず足を一歩進めると、急に笛と和太鼓のような音が聞こえてきた。
祭りの囃子とは少し違う、何か怪し気で人の不安を煽るような・・・。
と、だんだんと周り僅かにあった霊力が強くなってきた。
ふと気付くと、まるでどこかの貴族のような着物を纏った人がどこからともなく現れた。
いや、違う。
人なんかじゃない。
あれは、骸骨だ!
「なっ!?」
それも一体じゃない。
無数の骸骨がゆらゆらと揺れながら近づいてくる
よく見ると、奴等は身体が浮いている。
まあ、つまりは見るからに幽霊とかそういった類いのものだ。
「あの霊力の正体はこいつらかッ!」
「炎の矢!」
向かってくる骸骨に一斉に矢を放つ。
が、矢は骸骨の体をすり抜け、後ろの壁に突き刺さる。
「なんなんだ、こいつら・・・」
風刄、水銃なども乱射気味に撃ちまくるが全てすり抜けていく。
その間に奴等は完全に俺を囲み、近づいてきた。
「やめろよ・・・来るな・・・来るなってッ!」
そんな叫び声が通じる筈もなく、俺は大量の骸骨の中に埋もれていった・・・。