第二十九話 改めて質問を
洞窟に入って数時間、俺はとりあえず水を探した。
何日もここで過ごすんだ。
水飲み場を探さなければならない。
川か湖のようなものがあれば魚もいるかもしれない。
食料も手に入って一石二鳥だ。
するとまもなくしてどこからか水の流れる音が聞こえてきた。
「こっちか?」
音のする方へ歩いていくと、そこにはかなり大きめの池があり、少し高いところから滝のように水が流れてきていた。
「うおっ こりゃすげぇぜ!」
中を覗いてみると、そこまで深くなさそうだ。
だいたい太ももくらいの水かさだ。
「しかしこの水飲めるのか?」
異空間の水だから科学薬品で汚染されてるとかはないだろうけど・・・。
まあ、現実世界でもこんな洞窟の中の水が汚染されてるところは無さそうだが。
少し手ですくって恐る恐る飲んでみる。
ゴクッ
「・・・うまい!!」
これは下手なミネラルウォーターよりうまいぞ!
「ううぅ」
ゴクゴクと水を飲んでいると、後ろの方で物音がした。
グルルルゥゥ
なにやら獣唸り声のようなものもしているのだが・・・。
恐る恐る振り返ってみると、そこには狼のような獣、というかまんま狼なんだけど、そいつが鋭い眼光を光らせていた。
・・・え?
なんで狼?
頭が真っ白になっている隙にやつらは俺に襲いかかってきた。
「ちょっ!日本狼って絶滅したんじゃなかったのか!?」
俺は音速で逃げる
いや、狼になんか捕まったら確実に死ぬだろっ
洞窟内を疾走し、狼をまいて周りをみると、さっきとは違う開けた空間に立っていた。
「この洞窟、案外広いんだな」
さっきからずっと動いているのに新しい空間が迷路のように永遠と広がっている。
これじゃあ、修行が終わっても出られないんじゃないか?
細い道に入り、前へと進んでいくと、木で作られた扉のようなものがあった。
かなり前に作られだもののようで、扉は壊れかけていた。
「どういうことだ?誰かがここにいたってことだよな」
あるいは“いる”のかもしれない。
恐る恐る扉に手をかけると、湿度が高いせいか、取っ手に苔がついている
ゆっくりと扉を開ける。
「ゴクリ・・・!」
ギィィィィ、と木が軋む音がする
警戒しながら中を覗き込むと、ものすごい異臭が鼻をついた。
「っ!!・・・」
急いで鼻をつまむが、今吸い込んだだけで吐き気がする。
中の様子をよく見てみると、そこには幾つもの骨―――おそらく人間のものだろう―が大量に転がっていた。
骨だけならまだ良い。
しかし、そこには肉が中途半端に残った腐りかけの死体まで転がっていたのだ。
そこまで見て、俺はついに胃の中のものを地面に吐き出した。
そしてその自分の汚物が目に入ると、さらに吐き気を誘った。
とりあえず・・・ここを離れよう・・・。
俺は時折、リバースしながらその場を離れた。
□■□■□
みんな家に戻ったあと、私はもう一度真二の家に行った。
チャイムを押す。
ピンポーン
さっきと同じ音が鳴る。
そしてドアが開いた。
「どちらさ・・・あ、楓ちゃんじゃない」
「あ、どうもです」
「どうかしたの?」
「あの、真二の修行について話を聞きたくて」
「ああ、良いわよ。立ち話も難だし中に入って」
「あ、お邪魔します」
私はリビングに通された。
ソファーには真二のお父さんが座っていて、私はその向かいのソファーに座らされた。
「おお、楓ちゃんじゃないか」
「どうも、お久しぶりです」
「しばらく会わないうちに女の子らしい体つきになって。もしかして真二と夜の愛を深めにでも来たのか?残念ながら真二は愛しの楓ちゃんを守るために厳しい修行へ・・・ヒッ!?」
「あなた、冗談もほどほどにしなさい・・・」
「いや母さん。包丁はやめよう。刺さったら洒落にならん」
「ハハハ・・・」
急に台所から包丁が飛んできて、真二のお父さんの顔を掠めて、壁に刺さったのだ。
「自業自得です」
おばさんが冷たい声で答える。
おじさんは相変わらず下ネタっていうか、そういうのが好きみたい。
「で、真二はどんな修行をしてるんですか?」
「ん?今話した通りだが」
「へ?あ、いや、本当のところはどうなんですか?」
「別に修行の話しは間違ってはいない。まあ、楓ちゃんだけのためにって訳でもないだろうがな」
「え、じゃあ・・・」
「本当に危なくて死ぬかもしれない修行をしている」
おじさんは話を続けた。
「仮に奴の覚醒が成功したとしても、今までの真二のままで帰ってこれる可能性は低い」
「え、それってどういう・・・」
「極限状態に精神が耐えることができず、精神に異常をきたす可能性があるってことだ」
「そんなっ!どうしてわざわざそんな酷い修行をやらせるんですかっ!」
「あれがそれを望んだからだよ。楓ちゃんは覚醒を修得するのにどれくらいの時間を有した?」
「え・・・3年弱くらいだったと思います」
「しかし、真二はそれを1ヶ月で完成させようってんだ。厳しい修行になるのは当たり前だ」
「だったら初めから普通に修行させれば良かったんじゃ・・・」
「確かに、それが一番良かったのかもしれないな。しかし、俺は真二を普通の人間として育てたかった。こっちの世界など知らないままでいてほしかったんだ。幸い、風雲家は所詮分家だ。やろうと思えばそれも可能だった」
そこでおじさんはお茶を一口飲んで話を続けた。
「しかし、奴は自分の力を目覚めさせてしまった。そうなればもう、多少無理してでも術者として育てざるを得なかったんだ。そして今回の闘いは覚醒無しで挑むのは厳しいようだからな」
「・・・」
「でも、真二はそれを嫌がることもなく、自分から覚醒の修行をさせてくれと言ってきた」
それって、もしかして私が覚醒なんて見せちゃったからなんじゃ・・・。
そう思うとなんだか申し訳ないような気がしてきた。
「楓ちゃん。もし、真二がおかしくなって帰ってきても、あいつを受け入れてやってくれ」
「・・・」
私はその申し出に答えることができなかった。
だって、真二がおかしくなって戻ってくるなんて、信じたくなかったから。