第二十七話 闘いに向けて
「まったく、一体何があったってんだ?」
「それが、斯々然々で・・・」
俺と楓はさっきあったことを話始めた。
「・・・ふうむ。それはまた大変だな・・・」
「俺は奴の足下にも及ばなかった・・・ッ!」
「私も、全然歯が立たなかった・・・」
そう、俺たちは完敗したのだった。
俺たちの間に暗い空気が流れる。
「しかし、相手が人間とは珍しいな・・・」
「あの力、霊術にだいぶ似ているのに、纏っている空気は魂霊と殆ど変わらないっていうのが引っ掛かる」
「操る風が黒いっていう点でも魂霊に近く感じる理由かもしれないわね」
そうこうしているうちに俺たちの手当てが終わった。
「さ、治療は終わりだ。あとはさっさと家に帰ってよく寝りゃあ良くなる」
「ありがとうございます仲内さん」
「おう」
そう言って仲内さんはとっとと帰っていった。
「・・・そんじゃあ俺らも帰るとするか」
「そうね・・・」
残された俺たちはそれ以上言葉を交わすことなく、家に戻った。
家に着くと、急に自分を嘲笑うかのように雨が降りだした。
俺はそれに気付くと、外に出た。
いっそのこと全部洗い流してしまいたい気分だった。
雨に打たれる中、キッと雨雲を睨み付ける
風も強くなってきて俺は風雨に晒される形になった。
「・・・お前も、俺を笑うのか・・・」
自然と口が動く。
「・・・・ショウ・・畜生ォォォッ!!!!」
頬を水滴がつたう。
涙なのか、雨なのか、俺には分からなかった。
しばらく雨に打たれた後、俺は家に戻り、親父が寝てる寝室のドアを開けた。
「親父、起きてくれ」
親父は目を擦りながら「こんな夜中になんなんだ?」とぶつぶつ言いながら体を起こした。
「親父、頼みがあるんだけど」
「別に今じゃなくても良いだろう」
親父はふぁ~とでかい口を開けて欠伸をしている。
「・・・頼む。覚醒のやり方を教えてくれ」
「・・・」
その台詞を聞いた途端、親父の顔が険しくなった。
「・・・とりあえず今日は寝ろ」
「でも俺は、早く強くならなきゃいけないんだ!」
「そんなに霊力をすり減らしたお前に何ができるっていうんだ?」
「くっ・・・!」
「分かったらさっさと寝ろ。話はそれからだ」
そう言って親父は横になって布団を被り直した。
仕方ない。
今日はもう寝よう。
正直なところ、もう疲労感が半端なく、修行ができるだけの体力も無かったのだ。
ただ、気持ちだけが先に行ってしまって、いてもたってもいられないのだ。
だが布団に入ると――やはり疲れているせいだろう――すぐに意識が暗闇の中へと引きずられていき、俺は意識をスッと手離した。
□■□■□
眩しい光が降り注ぐ中、俺は目を覚ました。
窓の外からはかなり高いところにある太陽が見えている。
・・・え?
「今何時!?」
バッと上体を勢いよく起こして時計を見ると、すでに短針が12を指していた。
「な!?」
真っ昼間じゃねえか!!
俺は部屋から飛び出して、台所にいる母さんに抗議した。
「どうして起こしてくれなかったんだよ!学校はどうしたんだ!?」
「何言ってるの。今日はお父さんと修行するんでしょ?」
「ぇ?」
俺は反射的にリビングで座っている親父を見た。
「覚醒、修得したいんだろ?」
「・・・親父」
「さあ、さっさと飯を食え。1時から修行開始だ」
「お、おう」
起きたばかりにも関わらず即効で食べた俺と親父は修行場に向かった。
□■□■□
私が家を出ると、いつも私を待っている真二の姿が見えなかった。
いつだかのように変な夢でも見ているのかもしれない。
「ふふっ」
あのときのことを思い出すと、少し笑ってしまった。
大谷家の文字が刻まれた表札の下に設置されたチャイムを鳴らす。
ピンポーン、とごく普通の音が家中に鳴り響いている。
すると、すぐに真二のお母さんが出てきた。
「あら咲ちゃん。おはよう」
「おはようございます。真二はまだ寝てますか?」
「まだ寝てるわ。昨日は遅かったみたいだから今日は寝かせといてあげようと思うの」
「・・・そう、ですか。じゃあ、私は先に行ってますね」
そう言って私は真二の家を後にしようとした。
「あ、待って、咲ちゃん」
その時おばさんに後ろから呼び止められた。
「これからも真二をお願いね」
「え?・・・はい!」
私はおばさんの言葉の本当の意味は分からなかったけれど、なんとなくおばさんに認められたような、そんな気がした。
□■□■□
「覚醒がどんなものなのかはもうわかっているな?」
「ああ、だいたいしっている」
基本的には運動能力の飛躍的アップ、自信の限界値を越えた爆発的な霊力の放出らしい。
見たのは一回だけだが、楓の覚醒した戦闘も脳裏に焼き付いている。
「じゃあ、始めに忠告しといてやろう。本来なら覚醒の修行に必要な期間は3年だ」
「・・・」
「だが、お前が今から挑戦しようとしているのは、それを1ヶ月で修得しようというものだ」
「1ヶ月・・・」
普通3年かかることを1ヶ月で・・・。
それならまだ間に合うはずだ。
「ただし」
親父は釘を刺すように話を続けた。
「この過酷な修行に耐えられなければお前には死あるのみだ。仮に成功したとしても、人格が大きく変わってしまうことも少なくない。」
「死ぬって・・・」
しかも人格が変わるってどんなことやらせるつもりだ。
「それでもやるかどうかはお前次第だ。どうする?」
死んじまったらもともこもないし、人格が変わっちまったら何をしだすか分からねぇ。
・・・でもっ!
「・・・親父、さっさと修行を始めようぜ」
まだ奴の目的は分からねぇが、敵には違いない。
何かある前にあいつを倒すだけの力を手に入れなければ・・・!!
俺と親父は二人してニヤリと笑う。
「「さあ、修行開始だ!!」」