第二十六話 強敵
男が俺たちに向けられた右手から黒い風が吹き出した。
「な!?」
俺たちはそれぞれ左右に転がって避ける。
あいつは何者だ!?
今のは、霊術・・・?
いや、違う。
似ているが、もっと禍々しい――そう、まるで魂霊のような力だった。
どうする。
戦うか?
俺は男の警戒を緩めずに睨み付ける。
「さあ、まだまだこれからですよ?」
男は黒いオーラを見に纏い、俺に突っ込んできた。
とっさに術式を展開し、風刃を繰り出す。
が、それをいとも簡単にかわして再び黒い風が襲いかかってくる。
――それも、まるで風刃のように刃を持った風が。
「くっ!」
音速でそれをなんとか避ける。
「まだまだですね」
「な!?」
ふと気がつくと男は俺の背後に立っていた。
そして、避ける間もなく黒い竜巻が俺を吹き飛ばす。
「がはっ!!」
空中に吹き飛ばされた俺にトドメを刺さんといった風に、男は腕に風を纏わせ、刀のように俺に切りつけてくる。
まずいっ!
避けられな・・・っ!!
その時、俺の視界は真っ赤に染まった。
□■□■□
あの男が動き出してからの戦闘は、目にも止まらね速さだった。
あの男が何者かはわからないが、風が速さの象徴であることは間違いないだろう。
風を操る者同士の戦いは目で追うのがやっとだった。
その時、真二が竜巻に吹き飛ばされたのがはっきりと見えた。
「真二!!!」
私は叫ぶと同時に霊刀の柄を握り、一気に引き抜いた。
私の刀から激しく燃え盛る炎が吹き出し、男を空間ごと焼き払った。
もちろん、真二には当てないように気をつけて。
男はギリギリで避けたのか、少し焦げた服を見ながら私の前に降り立った。
「どうしてくれるんですか?このスーツ、高かったんですよ?」
「よくも真二を・・・!」
「まあまあ。そんな怖い顔しないでくださいよ。せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」
「うるさい!!」
私は霊刀に炎を纏わせて男に切りかかる。
風の刀と炎の刀がぶつかり、その衝撃が空気を僅かに震わせる。
「なかなかやりますね。だが、あなたもまた、まだまだのようですね」
男が私と一旦距離をおく。
と思ったときにはすでに男の姿は消えていた。
「!・・・どこに」
「楓!うしろだ!!」
反射的にうしろを向くと、腕にドリルのように風を巻き付けた男が私に突っ込んできた。
「うっ」
とっさに霊刀でそれを受け止める。
でも、風の勢いは止まらない。
霊刀にヒビがはいる。
「!!・・・やばっ!!」
霊刀は簡単に砕け散り、男の腕は私の腹部を貫いた。
「っ!!!!」
「楓ぇぇぇ!!!」
私は膝から地面に倒れこんだ。
真二が私の名前を読んでいるが、体が動かない。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!!!」
それまで倒れていた真二が立ち上がった。
真二を纏う霊力が急激に増していく。
「し・・・んじ・・・」
ダメッ
いくら真二でもそんな大量の霊力を使ったらただじゃすまないはず・・・!
そう言いたいのに言えない。
声が出ない。
「炎を司りし神よ、我が魂を燃やし、聖なる力を与えよ!
――聖火龍炎!!」
真二の前に巨大な術式が構築され、神々しい巨大な炎の龍が飛び出す。
龍は男に逃げる隙を与えず、そのまま男を喰らい、公園は焼け野原と化した。
「ぐわああああっ!!!!」
術が解け、龍が姿を消すと、そこには服は焼き焦げ、身体中からプシュ~と煙を出している男が膝を着いていた。
真二も、その場に膝をつく。
「はぁ、はぁ、なかなかやりますねぇ」
男はゆっくりと立ち上がる。
「まさか・・・まだ、戦えるっていうの」
「ちくしょう。ここまでか・・・!」
「大丈夫ですよ。今は殺しません。ここで殺してしまうのは勿体ないですからね。あなたたちとはもう少し楽しめそうです」
「・・・お前は何者だ!いったい何が目的なんだ!!」
男はフッと微笑み、口を開いた。
「私の名前は白神恐一郎と申します。以後お見知りおきを。目的は今は話せません。あなたたちに邪魔されては困るのでね」
・・・分からない。
白神は何らかの計画を企てているようだけど、その内容、目的、どれを取っても予想もつかない。
「では、また今度会いましょう」
男は暗闇の中へと消えていく。
「ちょっと待・・・うっ」
真二が追いかけようと立ち上がるが、すぐにその場に倒れ込んでしまう。
ついに男は姿を消してしまった。
「真二、大丈夫?」
「ああ、なんとかな。楓こそ大丈夫なのかよ」
「術で傷口はとりあえず塞がったし、大分楽にはなったわ」
「そうか」
その時、遠くの方から消防車のサイレンが聞こえてきた。
近くの住民も騒ぎに気付いて外に出てきている。
まあ、あれだけ派手に公園を燃やしたのだから当然っちゃ当然だが。
「まずいな。早く退散しないと・・・」
「そうね。でもどうやって・・・」
「なんしか公園から出ればなんとかなる。楓、飛ばすぞ」
「え?でももう霊力が・・・」
「少しくらいなら大丈夫だ。行くぞ。ちゃんと掴まれよっ」
「う、うん」
「音速移動」
私たちは風となって、一気に公園を抜け、近くの空き地で術を解いた。
「はあ、はあ、はあ」
「大丈夫、真二・・・」
「ちょっと、はぁ、厳しい、な・・・」
たいしたものだ。
さっきの攻撃で霊力の使いすぎてを失うんではないかと心配したが、さらにここまで私を運ぶだけの力が残っているのだから。
そこから動けそうにもないので、私たちは仲内さんを呼ぶことにした。
傷ついた私たちを見て、仲内さんは言った。
「・・・はあ。全く何があったってんだ?」