第二十三話 その力を胸に焼きつけて
私はアパートに帰る途中、ずっと咲の言葉が信じられなかった。
真二が小学校3年生まで霊術師のことを知らなかったなんて・・・。
しかも、感情に任せて霊術を使うだけでなく、魂霊を倒してしまうなんて、そんなことがあるの?
普通じゃない。
本来なら数年の修行を経て、ようやくその頃に使えるようになるもののはず。
私だって2年も修行して初めて使えたっていうのに。
物心ついた頃から霊術師と魂霊の知識を植え付けられ、お父さんに恥じない霊術師になろうと必死に修行をした。
そういえば、あいつ2属性の技を使ってたっけ。
修行無しで2属性の霊術を操る霊術師・・・。
素直にすごいと思う。
でも、それ以上に羨ましい。
真二に対する嫉妬が募る。
「覚醒の方法なんか教えてあげないんだから」
□■□■□
飯の後、俺は珍しく自室で勉強をしていた。
恨めしいことに3日後は整理テストなのだ。
まったく、なんで休み明けにテストなんかやるかねぇ。
「こちとら必死こいて宿題終わらしたってのに」
「真二は私のノートを写しただけでしょう」
「む、俺だって少しくらい自力でやったさ」
「少し、ねぇ」
少しを強調しないでくれ。
悲しくなってくるから。
なんでここに咲がいるかと言うと、俺が無理言って家庭教師を頼んだのだ。
始めは渋っていたが、何度も頼んだら引き受けてくれた。
本人曰く、
「勉強を教えるのは自分の勉強にもなるから」
だそうだ。
まあ、コツコツと勉強するタイプの咲は自分の見直しにもなるのだろう。
俺の場合、見直すほど勉強してないからなぁ。
で、どうやってやっているかというと、咲が出そうな問題に印をつけてくれたから、俺はそれを片っ端から解いていく。
が、事がそんなに上手く運ぶはずもなく・・・
「咲~、ここがわからないんだが」
「えー?ここは1学期にやったじゃん」
「3ヵ月も前にやったことなんてもう忘れた」
「ここは解と係数の関係を使って――」
ほぼ全ての問題に躓いてる俺。
「・・・こんなのやったっけ?」
「やった!!」
そんなこんなで時間が流れ、11時くらいに咲は家に帰っていった。
咲のお陰でだいぶ数学が理解できた気がする。
「さて、今日はもう疲れたし寝r・・・っ!!」
身体中に悪寒が走る。
魂霊ッ!!
俺は家を飛び出し、邪気を辿った。
□■□■□
邪気を辿った先には下級、中級の魂霊が群れていた。
「なんだ、雑魚ばっかりか」
ゴブリンから始まり、ワーム、キメラ、名前も知らないやつ、エトセトラ、エトセトラ。が大量に目の前にいる。
こうやって見るとかなりキモいな。
「へー。今日は簡単そうね」
「うわっ。お前いつの間にこんなところに!?」
うしろを振り返ると、楓が立っていた。
今日は髪が黒いままだ。
どうも、戦闘時は毎回紅くなるっていうわけでもないらしい。
「ん?今来たところだけど」
「そんな気配消して登場しないでくれ・・・」
いきなり声かけられたらびっくりするじゃないか。
「さっさとこんな雑魚片付け・・・」
「あぁ!!忘れてた!!」
「なによもう!いきなり大きな声出さないでよ」
さっきの俺の気持ちがわかったか。
なんて、考えているほど俺は落ち着いてない。
「親父に覚醒の修行方法聞くの忘れた・・・」
「ったく、そんなの今はどうだっていいじゃない」
「えー、だって俺くらいの年の奴はみんなできるものなんだろ?」
「また今度教えて貰えばいいでしょう」
「確かにそうだが・・・。あ、そうだ。ちょっと覚醒見せてくれよ」
「えぇ?まあ、別に構わないけど」
そう言って楓は意識を集中させる。
刹那。
楓の放つ気配が一転した。
同時に今まで黒かった楓の髪が紅く染まった。
それはまるで、薔薇が髪に咲き乱れてるかのように美しい。
「じゃあ、本領発揮よ」
そのまま、人外の速さで魂霊目掛けて突っ込む。
「あいつ、あんなに速く動けたのか・・・!」
どうやら音速移動をする俺にはそれを感じることができなかったらしい。
目の前に散らばる魂霊を炎を灯した拳で次々に落としていく。
「散り乱れろ、灼華桜火!!」
十分に群れに接近してそこで楓は足を止める。
短い詠唱によって楓の前に形成された術式から無数の細かい炎が噴き出す。
細かな炎一つ一つはまさに桜の花弁そのものだった。
1枚の花弁が魂霊に当たると花弁が弾ける。
その爆発の連鎖は止まることを知らず、完膚なきまでに敵を焼き殺す。
魂霊の群れが全滅するその間、僅か十数秒。
俺はただ驚きを隠せないでいた。
こんな大技をあの短い詠唱で済ませる力。
これが覚醒か・・・!!
一瞬で魂霊を片付けた楓はこっちに戻ってきた。
「どうだった?」
「スゲーよ!あれが覚醒の力か!!」
「まあ、まだ本気じゃないけどね。御六の力を使えばもっと色々できるし」
「マジかよ・・・」
俺なんかがかなう相手ではないと思った。
さすが御六の次期当主と言ったところだろうか。
「こりゃあ、俺も頑張らないとなぁ」
「真二だって今でも十分強いじゃない」
「え?そうかな?」
その時ふとキマイラに戦闘不能状態まで追いやられた瞬間が脳裏に蘇った。
「いや、まだまだ駄目だ。こんなんじゃ、まだ・・・」
こんなんじゃまだ、自分の命さえまともに守れない。
強くならなきゃ・・・。
もっと、強く・・・!!