第二話 術者
自己紹介が遅れました。
俺は大谷真二北泉高校二年生。
さっき俺の顔面に踵卸を決めやがった奴は、桜井咲だ。一応俺と同い年で幼馴染だ。家も隣だから学校も同じだ。
小学生の頃から一緒に登校している。よく恋人だといわれるがそんな関係ではない。
ん~なんていうか、昔から近くにいすぎて、そういうのは意識したことが無い。
と、まあ自己紹介はこのぐらいにしておいて、俺は今登校中だ。
「どうしたの?ボーっとして」
「ああ、今読者のみんなに自己紹介をだな・・・・」
「読者?自己紹介?・・・・ねえ、真二、朝からなんか変だよ?」
「な、なんでもない(汗)」
そんな適当な話を交わしつつ徒歩十五分。俺たちが校門を通ると同時に俺たちは話しかけられた。
「やあ、おっはよー」
「おす、悠樹」
「おはよう、悠樹君」
こいつは俺の中学からの親友で相川悠樹だ。
身長は162cmと小柄だが、めちゃくちゃ足が速い。俺も運動は出来るが足の速さだけはコイツに勝てない。
「ねえ聞いてよ悠樹君。真二ったら今日の朝ね」
「だーーーっ!!早まるな咲。それ以上は俺の個人の尊厳にかかわる!」
「ゴニョゴニョゴニョ・・・・」
咲は悠樹の耳元で小声で話している。ああ、終わった。これで一ヶ月はコイツにからかわれる。→クラスに広まる→俺の好感度が下がる→冷たい目で見られる
これは基本的人権の侵害だ!民事裁判を起こすしかない!
「どんな被害妄想をしているのか知らないが、大丈夫だって。誰にも言わないって」
悠樹は明らかに笑いをこらえている。・・・・だめだ。信用できねぇ
俺は一人沈みながら二人が教室に行くのをついていった。
「あれ、大谷どうした?なんかものすごく重い空気を放っているんだが・・・・」
「もう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだもう終わりだ」
「・・・・・・朝っぱらか何があったんだ・・・・」
と首をかしげるクラスメイトの男子一名。
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授業が終わり、みんなそれぞれ帰っていく。悠樹はみんなに今朝の出来事を教えることは無く、俺の心配は杞憂に終わったようだ。
「真二、このあと一緒にゲーセンいかねえか?」
「ああー悪い悠樹。俺ちょっと用事があるんだ」
「そうか、そいつは残念だな。・・・・桜井、いかねえか?」
「私はちょっとそういうのは・・・」
「はあ、二人ともだめかぁ。しゃあねえ、今日はおとなしく帰るかな」
そういって悠樹は一人でとぼとぼと教室を出て行った。
ちょっと可哀想な気もするが、しょうがない。今回は一人で帰ってもらおう。
「さて俺らも帰るか」
「そうだね」
帰宅途中、俺たちはアイスを食べながら歩いていた。なにしろ今は7月の夏真っ只中だ。おそらく今の気温は37℃だ。俺の体内温度計がそういっている。
ふと横を向くと咲がおいしそうにアイスをなめている。
ペロペロ、ペロペロ、ペロペロ
・・・・・・異様に艶かしい気がするのは気のせいだろうか。ついつい見とれてしまう。
ダメだダメだ!咲はただアイスを食っているだけだ!煩悩退散煩悩退散!!
「どうしたの?真二。そんなに頭を振って」
「い、いやなんでもない・・・・」
なぜか沈黙が続く・・・うわ~、俺こういう空気は嫌いなんだよね。な、何か話さなければ・・・・・
俺が何を話そうかと悩んでいる時、ふと咲が言った。
「さっき言ってた用事って、また修行?」
「え?ああ、まあそうだな」
「・・・・そっか」
「それが、どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないよ。ほら、もう着いたよ」
咲は笑顔で「じゃあ、また明日!」と言って家の中へと姿を消した。
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私は自分の部屋の天井を見ていた。
私の幼馴染、大谷真二は代々術師としてその力を受け継いできた大谷家の末裔だ。真二の話によると、この世には魂霊と呼ばれる化物が数多く存在するらしい。真二たち、術師たちは魂霊の退治をしているらしい。
基本的に、魂霊は一般人の眼力でも見ることが出来るらしいが、ほぼ全ての魂霊が真夜中に人気の少ない場所で活動するため、一般人は滅多に見ることが無い。
十七年間真二の幼馴染をしてきた私でも一度しか見たことが無い。
真二は、毎日とまではいかないが頻繁にその身に秘めている力を使いこなす修行をしているのだとか。真二は修行のあと、よくあちこちに傷を作ってくるから相当厳しい修行であることは想像できる。
「真二、大丈夫かな・・・・」
私は真二が修行をするというたびに心配になる。できれば修行なんかしないで、みんなと同じように生活してほしい。でも、私達の知らないところで私達を守ってくれている真二にそんなことはいえない。
「・・・・・差し入れ、持っていってあげよう」
私はそう思ってとりあえず何を作ろうかと考えながら台所へ向かった。
■□■□■
俺は動きやすい服に着替えて、某猫型ロボット宅程度の広さの庭に出た。腰の辺りまである大きな石の前に立ち、両手の指を複雑に絡め付け印を結ぶ。
すると、石の前の空間が急に裂け始める。人が通れるくらいに穴が広がったところで俺はその中に入った。この穴は大谷家に代々受け継がれてきた秘密の修行場につながっている。
やがて、真っ暗だった視界が明るくなり俺はどこかの山の滝つぼの前に立っていた。
「さーてと、今日も始めるかな」