第十七話 二学期スタート
その日、俺のクラスに火嵐改め、伊藤楓が転校してきた。
これは偶然か?
まさか、楓が俺と同じクラスだなんて・・・
ふと咲を見ると、なんというかこう・・・、一言で言えば驚いている。
もっと具体的に言うならば、俺に敵意剥き出しだった赤髪の美少女と同じ顔をした黒髪の美少女がそこに立っていることに理解が追い付かないといったところだろう。
そして俺も疑問に思う。
なぜ楓の頭は黒いのだろうか?
昨日の夜の時点ではまだ真っ赤だったのに。
「伊藤。お前の席は一番後ろの窓側だ」
「はい」
担任が指示した席に楓は座る。
「よし、じゃあ連絡からするぞー」
一時限目が終わり、休み時間になると楓の周りには人だかりができていた。
俺はそれを自分の席から眺める。
そこに悠樹が人だかりの中から戻ってきた。
「おい、真二!あの伊藤さんって、めちゃくちゃ可愛いな!!」
「ああ、そうだな」
「それに家は古い由緒ある家柄なんだそうだ」
「ふーん、それにしちゃあ普通な名字だけどな」
「なんだよ真二。興味無さそうだな。やっぱり咲ちゃん一筋だからか?」
「なんでそうなる。俺と咲はただの幼馴染みだよ。」
「はいはい。で?なんでそんなに興味無さげなんだよ?」
「え~っと、それは・・・」
何回か会ったことあるからとはさすがに言えない。
そんなこと言ったら深く追及されるに決まっている。
何て言ったらいいものか・・・
「べ、別に興味がないとか、そういうんじゃなくてだな」
「・・・ほぅ、なるほどな。お前、そういうことか」
悠樹が急に変な顔をして俺をジロジロと見てきた。
「な、なんだよ。気持ち悪いな・・・」
「ズバリ、伊藤さんに一目惚れしたんだろう!!」
人差し指でビシィィィ!!と俺を指差す悠樹。
「・・・」
「・・・」
つい、はぁ?お前頭おかしいんじゃねぇの?
みたいな顔をしてしまった。
「バカかお前は。そんなわけねーだろ」
俺は席をたって、教室を出た。
今日はもうめんどくさいし、授業サボろ・・・
俺はとりあえず屋上へと向かった。
■□■□■
屋上に上り、睡眠不足だったぶん、ぐっすりと眠っていた俺だが、チャイムの音で目が覚めた。
携帯で時間を確認すると、ちょうど三時限目が終わって昼飯の時間だった。
「ふわぁぁ。ふぅ、腹へったな」
購買でパンでも買おうか。
と、そのとき、屋上のドアが開いた。
「ん?」
霧島か?とも思ったが、そこに立っていたのは楓だった。
「ようやく見つけた。まさか、2学期早々に授業サボるとは思わなかった」
「昨日は宿題やってて寝てないんだよ。だから寝てたんだ
「そっか」
楓はフェンスにもたれ掛かる俺の隣に来て、そこから見える景色を眺める。
「分かってると思うけど私の名字は伊藤が表名だからね」
「ああ、分かってるよ。俺は大谷だ。風雲なんて呼ぶなよ?」
「大谷ね。わかったわ」
俺たち霊術師は、表名と裏名を持っている。
俺だったら、大谷が表名で風雲が裏名。
表名は普段の生活に使う姓で裏名は霊術師の間で使われる姓だ。
昔はその人智を越えた力を狙う者がいたことから霊術師だということを隠す必要があったらしい。
「なあ、楓。聞きたいことがあるんだが」
「ん?何?」
「お前の髪の毛、なんで色が違うんだ?」
楓は何言ってんの?みたいな顔をしている。
え?俺なんか変なこと聞いた?
「あんたもしかしてまだ覚醒してないの?」
「覚醒?」
「はぁ、まさか覚醒も知らないなんて・・・」
楓はため息をついて、説明を始める。
「霊術師にとって、術を使えることが第一段階だとしたら、覚醒は第二段階ってこと」
「そんで?」
「覚醒は自分の霊力を内面に向けることにあるの。そうすることで、身体能力の向上が一番のメリットね」
「それってどんなことができるんだ?」
「そうね・・・・。例えば、動くスピード、動体視力、瞬発力の向上とかかな」
「なるほど。基本的な身体能力が跳ね上がるってことか」
「そう。他にも、1回で3メートルくらいなら普通に跳べるようにもなるし、パンチでコンクリートの壁を窪ませるくらいにはパワーが上がるわ」
「・・・・それは、すごいな」
楓には殴られたくないなぁ。
だって、もし殴られちゃったら肋骨が折れるどころじゃ済まないもんなぁ。
「で、その覚醒は霊力を内側に向けているから身体がそれに反応して髪の色が変わるってわけ。わかった?」
「覚醒状態でも、霊術は普通に使えるのか?」
「ああ、それは全く問題ないわ。霊術は通常時と同じように使えるわ」
「へ~、そいつは便利だなぁ。で、どうやったらできるようになるんだ?」
「まず、自分の身体に流れる霊力の流れを感じることから始めるの。そうしたら、霊力の流れを掴んで、自分の内側に向けさせる。まあ、後は修行あるのみかな」
霊力の流れか。
意識したことはなかったなぁ。
まあ、とりあえず家に帰ったらやってみるか。
「ところで楓、もう飯は食ったか?」
「ん?まだだけど」
「よし、じゃあ食堂行こうぜ。俺もう腹減ってやばい」
「そうね。私もお腹空いたわ」
俺たちは食堂へと足を進めた。