第十六話 初めての共同作業
8月31日。
長いようであっという間だった夏休みが幕を閉じようとしていた。
今、俺が何をしているかというと、ずばり夏休みの宿題だ。
毎日少しずつ進めてきたものの、どうやらやる量が少なすぎたらしい。
まだ半分以上残っている。
「く、くそ。わからねぇ・・・・これはどの公式だ?」
俺が自室で四苦八苦している間、さっさと宿題を終わらせていた咲は友達とショッピングだというじゃないか!!
「は~、俺も遊びて~」
咲の両親は俺の親父たちが帰ってきた次の日に帰ってきたので、俺はお役ご免。
我が家へと戻ってきたのだ。
嫌々ながらも、残った宿題を片付けていく。
今夜はマジで徹夜かもな・・・
まあ、魂霊退治で毎日徹夜しているようなものだが。
ふと気がつくと、外は暗くなっており、机にはよだれが垂れていた。
つまり、どういうことかというと・・・
「ああぁぁ!!!寝ちまったぁぁ!!!!!」
嘘だろ!?まだ全然進んでねえじゃねえか!!
現在時刻PM7:00。
俺が最後に時計を見たのは4時くらいだったから、3時間ほどぐっすりと寝てしまったようだ。
いやしかし、よだれがプリントにかかっていなくてよかった~
ってそうじゃなくて、どうしよう!
これはかなりのピンチだ。
「真二~晩ご飯出来たから降りてきなさ~い」
腹が減っては戦は出来ぬ。
うん、とりあえず飯を食ってきてから考えよう。
俺は部屋を出て、台所へと向かった。
そして夕飯を食べ、とりあえず咲に宿題を見せてもらうことにした。
さすがにもう買い物から帰ってきてるだろ。
てな訳で咲に電話をかけてみる。
トゥルルルル トゥルルルル
『・・・真二?どうしたの?』
「宿題を見せてください。お願いします」
『サボってばっかりだからそういうことになるんだよ~』
「ぐっ、と、とにかくやばいんだよ。これじゃ絶対に終わらないんだ」
『しょうがないな~。今回は特別だよ』
「ありがとうございます!じゃあ、今から取りに行くから」
『うん』
無事、咲の宿題を借り、自室で咲の宿題の丸写し作業に入る。
もちろん、咲の方が成績が良いのでところところわざと間違えながら。
カリカリカリ、カリカリカリ
ふと気がつくと、既に11時を過ぎていた。
「ふ~、もうこんな時間か・・・だが、このペースならあと2,3時間で終わる!」
そのとき、全身に一瞬衝撃が走る。
――魂霊!!
俺はすぐに家を飛び出し、邪気の気配をたどる。
目的地にたどり着くと、巨大な怪蛇が存在していた。
太い胴体から、二回りほど細い首が9本ものびている。
「これは・・・ヒュドラか?」
キマイラといい、ヒュドラといい、戦ったことのない奴ばっか出てきやがって。
でもまあ、とりあえず・・・
「倒す!!」
俺は一気に急接近する。そして、
「炎の矢!」
無数の矢がヒュドラの胴体に刺さる。
が、傷ついた身体はみるみるうちに再生されていく。
「くそっ、なんて回復力だ・・・」
だったら、頭を狙う!
を切り落とせば回復もできねえだろ!!
「荒れ狂う風!!!」
無数の刃を持った嵐がヒュドラを襲う。
次々と身体が切り裂かれ、3本の首が切り落とされる。
しかし、それをものともせずに回復を始める。
ボコボコと細胞が急速に生成されていく。
首を切り落とされ、6本となっていたヒュドラの首は切り落とされたところから2本ずつ生えて、12本となった。
「う、嘘だろ!?切断された数の倍になって回復されるなんて・・・!!」
ヒュドラは完全に俺を敵と判断し、襲いかかってくる。
12個の口から氷の塊が飛び出す。
俺の身長ほどもある氷の塊が俺を囲み、逃げ道を塞ぐ。
そして、俺を食らわんというがごとく大きな口を開けたヒュドラが俺めがけて突進してくる。
やばい!氷を溶かしてる時間もないし、絶対に逃げられない!!
くっ!!
ヒュドラが俺に噛み付くその瞬間。
噛み付こうとしていたヒュドラの頭が横から発せられた極太の火炎によって消し飛ぶ。
とっさにその方向を見るとそこには火嵐楓が立っていた。
「風雲真二!油断してんじゃないわよ!!」
「お、お前は・・・火嵐楓!?もしかして助けてくれたのか!?」
「・・・そ、そんなことはどうでも良いから、早く奴を倒すわよ」
「あ、ああ」
俺は炎を使って周りの氷を突破して、火嵐楓のところに向かう。
首が消し飛んだところには既に新しい2本の首が生えている。
「あいつ、どこを攻撃してもすぐ回復するから全然効かないぞ」
「確かに、あの再生力はちょっと厄介ね」
「アイツを完全に焼き尽くすのはさすがに一人じゃ無理だろうしなぁ」
「・・・それで行くわよ」
「へ?」
「あれの身体を完全に焼き尽くす。あなたならできるわ」
「いやいや、さすがにあんなでかい蛇を完全に焼き尽くすのは無理だから」
いくら霊力があるとはいえ、ビル並みの高さを持つ蛇を完全に焼き尽くすのは不可能だ。
「ううん、できるよ。その腕輪、霊刀をもらったのね」
「あ、ああ」
「霊刀を使えば、霊力を増幅させることができるのよ」
「そ、そうなのか?」
知らなかった。
ていうかあの親父俺に霊刀の使い方何にも教えてくれなかったじゃねえか。
「で、それはどうやるんだ?」
「刀に霊力を込めて、あとはそれを術として放出するだけ。基本敵には普通の霊術と一緒よ」
「なるほどな。よし、やってやるぜ!」
俺は腕輪に霊力を流し、日本刀の形状へと変形させる。
さらに、霊力を霊刀に流し込み、必殺の一撃に備える。
「私も一緒に行くわ。準備は良い?」
「ああ、いつでも良いぜ」
「行くわよ!」「行くぜ!」
俺たちはヒュドラに向かって駆ける。
ヒュドラが氷の塊を撃ち込んでくるが、炎を纏った霊刀で切り捨てながら、さらに接近する。
霊刀はさらに霊力を吸収し、巨大な炎の刀と化す。
「「二重灼熱斬り!!!」」
俺と火嵐楓は思いっきりヒュドラを斬りつける。
そこから炎がどんどん燃え広がり、あっという間にヒュドラの全身を包み込んだ。
そして、俺たちの炎はヒュドラを完全に焼き尽くし、勝利を掴むことに成功した。
「はあ、はあ、何とか倒せたな」
「まったく、あんなのが出現するなんて聞いてないわよ・・・」
「まあ、気にすんなって。これからも一緒に倒していけばいいだろ?」
「・・・そうね」
「・・・えーと、火嵐、さん」
「楓で良いわ」
「じゃあ、俺のことも真二でいいよ。よろしくな、楓」
「よろしくね。真二君」
「そういえばさ。お前すげーフレンドリーな感じになったよな」
「い、良いの!あのときはちょっと緊張してただけ!」
火嵐楓。
俺の新しい仲間になった紅い髪の女の子。
俺は新しい仲間ができたことがとても嬉しかった。
ふと、腕時計を見ると、既に2時を切っていた
「ああ!!まだ、宿題終わってねぇぇぇぇぇぇ!!!」
□■□■□
翌日。
結局徹夜することになった俺は朝の5時に宿題を終わらせ、眠気眼でホームルームに出席していた。
「え~今日は転校生を紹介するぞ~」
ザワザワザワ、ザワザワザワ
みんなが一斉に近くの席の人と話し始める。
「じゃあ、入ってきなさい」
担任の指示に従って、教室に入ってきた転校生は、長くて綺麗な黒い髪を首のあたりでくくっていて、意志の強そうな切れ長の目をした女の子だった。
どこかで見たことのあるその顔は、まさに大和撫子と言うのにふさわしい顔立ちである。
ってアイツ・・・楓!?
俺はあまりの驚きに開いた口がふさがらない。
「私は伊藤楓です。みなさん、これからよろしくお願いします」
その日、俺のクラスに火嵐改め、伊藤楓が転校してきた。