第十四話 謎の少女
プールから帰る途中、電車から降りて近所の公園を通りかかるとき、俺たちの前に同い年くらいの女の子が目の前に現れた。
見る人を魅了するような綺麗な緋色の髪。
首のあたりでくくった長い髪は腰のあたりまで伸びている。
意志の強そうな切れ長の瞳の色も、まさに炎がその中で燃えているかのように紅く、これで髪と瞳が黒かったらまさに大和撫子という、まあ、一言で言い表せば容姿端麗な美少女である。
「・・・あの子、こっち見てるけど真二の知り合い?」
「いや、少なくても知り合いではないな」
咲の友達かなんかとも思ったがどうも違うらしい。
それにしても紅い髪とはまた珍しい。
染めたにしてはあの髪は綺麗すぎる。
地毛・・・では無いと思うのだが、実際紅い地毛が存在するのかはわからんからな。
「あんたが風雲真二・・・見た感じは、たいしたことなさそうね」
「・・・咲、先に戻ってろ」
「え?でも・・・」
「いいから。こいつは霊術関係者だ」
「・・・わかった」
咲は少し驚いたような顔をして、心配そうな顔で家に向かった。
「驚いた?その名で呼ばれるのは久しぶりでしょ?」
「・・・お前は誰だ」
「私は、火嵐楓。あなたと勝負がしたいの」
「勝負?どういう意味だ」
「私とあなた、どっちが強いかはっきりさせようってこと。異空間の中でなら人目につくこともないし、思いっきりやれるでしょ?」
「なぜ俺と戦おうとする?」
「それはもちろん一緒に戦うかもしれない相手がどんな人なのかが知りたいからよ」
「・・・どうも俺とお前には持っている情報量に大きな差があるようだ。その説明からしてもらえると嬉しいのだが」
「いやよ。だって説明するのめんどくさいし。というか私はあなたと手合わせができればそれで良いんだけど」
ふーむ、どうしたものか。
いきなり手合わせとか言われてもなぁ。
「じゃあ、俺が勝ったらそこんとこ詳しく教えてもらう。それでどうだ」
「いいわよ。じゃあ、私が勝ったら私の手下になってねっ☆」
楓が印を結ぶと目の前の空間が裂け、穴ができる。
まさかどこでも好きなところで異空間を開けるとは・・・
俺にはできねえな。
俺たちは異空間へと通じるその穴に入っていった。
ふと気がつけば俺は森の中の開けた場所で楓と向かい合ってたっていた。
「それじゃ、行くわよ」
無言で俺が構えると、楓は俺に正面から突っ込んできた。
両手の拳から炎が吹き出している。
その拳でいきなり殴りかかってくる。
それを避けようと俺は即座にしゃがむ。
が、それを見越した楓は拳をその場で止め、思いっきり、俺を蹴り上げる。
「ぐわっ」
女のくせになかなか蹴りが重い。
しかも、俺がひるんだのを確認すると、一気に追撃を仕掛けてくる。
回し蹴りから裏拳、正拳へと回転しながら技を繰り出してくる。
もちろん、手足に炎を灯したまま。
俺もやられっぱなしではいられない。
いったん距離をとり、術式を展開する。
複数同時術式展開――
「――炎の矢!!」
俺の前に小さな術式がいくつも展開され、無数の矢が放たれる。
「嘘、一度にこんなに!?」
放たれた矢の数に驚く楓だが、所詮低級霊術。防ぐ方法は山ほどある。
「くっ、火嵐!」
大量の矢が巨大な炎の渦に飲み込まれる。
より一層炎の勢いを増した火嵐が俺を襲う。
俺はとっさに音速移動で楓の後ろに回り込み、炎華を放とうとする。
「きたわね、風雲・・・!」
にやりとを笑った次の瞬間、いきなり楓の脇から刀が突き出る。
その刀は俺の左腕を突き刺し、その刀身を赤く染める。
さらに、その刀身から激しい炎が吹き出す。
「華炎槍波」
燃える刀がより一層激しさを増し、幾本もの槍となって俺を襲う。
そう、その炎は植物の茎のように、何本にも枝分かれしながら伸び、俺に当たると同時に花を開く。
巨大な炎の衝撃が俺を後方に吹き飛ばす。
「ぐあああ!!くっ、か、刀だと!!?んなもんどっから・・・」
あいつはついさっきまで俺と同じように何も持っていなかったはずだ。
どこにも、刀なんて隠し持っておける場所なんて見あたらない。
それにあの攻撃、結構やばいぞ・・・。
「あれ?これ、知らないの?霊刀っていってこうやって霊術者は指輪や首輪に変形させることができるのよ。私は指輪型にしてるけどね」
「くそっ、そんなの反則だろ・・・。しかたねえ、お前は刀もってんだ。それなら俺も本気を出させてもらうぞ・・・!!」
「本気?さっきから私に押されっぱなしのあなたが?まあ、これが本気とはさすがに思えないけど、それで私との力の差を埋められると?」
「ああ、やれるさ。行くぞ!!」
俺はさっきと同じく音速で楓の背後に回る。
「それじゃあ、さっきと同じじゃない。芸のない奴ね」
「それはどうかな?」
さっきと同じく脇から後ろに刀を突き出す楓だが、今度は音速移動を解くことなくそのまま空中に飛んで大きめの術式を展開する。
「!?」
「地獄柱!!」
5本の極太の炎柱が楓めがけて降り注ぐ。
楓はとっさにそれを回避するが、音速移動を続ける俺は楓の周りを動き回りながら風刃、炎の矢を絶え間なく繰り出す。
「――炎風乱舞」
その名の通り、楓には炎と風の乱れ撃ちのように見えているはずだ。
音速で移動する俺が視認できるはずはないから、あらゆる角度から炎と風が突然現れるのだ。
さらに俺は攻撃を続けながら詠唱を始める。
「集え、冷たく重い、沈静なる水の精霊よ」
「え?嘘、待って、これは・・・」
「集え、速く激しい、狂乱なる風の精霊よ」
「くっ、火嵐!!」
楓は火嵐で炎と風をなぎ払い、自分を渦の中心にして炎を盾とする。
「我に集う精霊たちよ。我にその大いなる力を分け与え給え」
詠唱を済ませた俺は両手から巨大な槍を楓に向けて放つ。
「激水爆風槍!!」
風によってコーティングされた鋭くとがった水流は火嵐をいとも簡単に突き破り、楓を吹き飛ばした。
「きゃああああ!!」
周りにある木を一本折って、次の木にぶち当たりようやく止まる。
やべ、ちょっとやり過ぎたかも。いくらか込める霊力は少なかったはずだがあの技はまずかったかなぁ・・・
「おーい大丈夫か~?」
「・・・・」
返事がない。気絶しちまったか?死んではいないと思うが、一応様子見に行くか。
折れかかっている木の下で倒れている楓の肩をもって声をかけようとしたそのとき、楓は突然指輪を刀へと変形させ、斬りかかり、俺の首に当たる直前で止める。
俺の首と刀の間はわずか数ミリ。
「これでお相子ね」
そういって刀を指輪へと戻し、立ち上がった。
次の瞬間、俺と楓は元の世界へと戻っていた。
「今回は引き分け。よって賭けは無効。じゃあね、風雲真二」
「え、ちょっと待てよ!おい!!」
俺の呼びかけに反応することもなく、楓は去っていった。




