第十一話 恐怖の料理
朝、俺は目覚ましの音に起こされた。夏は日が昇るのが早く、すでに強い日差しが窓から注ぎ込んでいた。
「あー、眠い」
二度寝しても良いのだが、時間ももったいないから起きることにした。
顔を洗い、台所に行くと、咲が朝食の準備をして、出来た料理を霧島が運んでいた。
昨日は咲の勧めで霧島が家に泊まっていったのだ。
「あ、真二。おはよう」
「おはよう。今朝は霧島もなんか作ってくれたのか?」
「・・・」
「?」
「あはは・・・小百合ちゃん、料理できないんだって・・・」
「別にいいでしょ!!まだ修行中なのよ!!だいたい、あんたには関係ないじゃない!!」
霧島は顔を真っ赤にして捲し立てた。
「そ、そうか。まあ、いいけど、修行頑張ってな。じゃあ、食べようぜ」
「そうだね。いただきまーす」
「いただきます」
「いただきます・・・ねえ、大谷」
「ん?なんだ?」
「昨日も思ったんだけどさ、あんたって本当に羨ましい生活してるよね。こんな美味しいご飯毎日食べて、どんだけ幸せなのよ」
「ははは・・・そう、かな。これでも、結構大変なんだけど・・・」
「あんた・・・ちょっと感覚が麻痺してんじゃない?」
「・・・そうかもしれないな」
確かに魂霊退治の仕事が無くなれば俺の生活はかなり幸せな方に分類されるのだろう。
でも、霧島に魂霊の話をするわけにはいかない。
その後、しばらくお喋りをして俺は部屋に戻ってきた。
昨日のゴブリンの行動は明らかにおかしかった。
早い時間帯に現れても自分の力を十分に発揮できずに退治されるだけなのに。
「一応、親父に報告しておくか」
携帯のアドレス帳から親父の番号を探す。
プルプルプル
プルプルプル
『真二か。どうした?』
「昨日、魂霊が妙な動きを見せる出来事があったんだよ」
『・・・何があったんだ?』
「ゴブリンが夜の7時もまわらないうちに現れたんだ」
『何?それは本当か?』
「ああ、咲が襲われた」
『・・・もちろん、無事なんだろうな?』
「当たり前だ。一般人になんか手を出させるものか。咲なら尚更だぜ」
『そうか、ならいいけどな。その件については俺も頭に入れておくとしよう。ところで真二』
「なんだ?」
『お前、ガス欠でぶっ倒れたんだってな』
「な、何故そのことを!?」
『ガハハハ。仲内から聞いたよ。お前がガス欠なんてらしくねえじゃねえか』
「う、うるせえ。しょうがねえだろ。相手はキマイラみたいだったし、炎が全然効かねえんだ」
『キマイラ?珍しいな。キマイラは滅多に出現しないのだが。あれは炎系統中心のお前じゃあ、難しかったかもな』
「ああ。親父はいつ頃帰れそうなんだ?」
『そうだなぁ・・・来週くらいには帰れるだろ。土産もあるから楽しみにしとけよ』
「・・・ああ、期待しないで待ってるよ。じゃあな、親父」
『じゃあな、真二』
「はあ、親父の土産ってろくなもんねえからなぁ」
今までの土産といえば、気味の悪い木の置物とか、道路で拾ったギザ10とか、この間は肌色成分多めの本を買ってきたっけ。
何しろ親父はろくな土産を買ってきた事がない。
どうせ次もくだらないもの持ってくるんだろうなぁ。
「さて、報告もしたし、さっさと宿題でも片付けるかな」
問題集、ノート、筆記用具を取り出し、机に向かう。しかし、日頃勉強なんて全然やらない俺は30分もしないうちに睡魔に襲われ、意識を手放した。
夏の昼間の暑さによって目を覚ました俺のノートはまだ半分も埋まっていなかった。
「・・・昼飯の時間だな」
俺は部屋を出て、台所に向かうと、そこには紫色というか黒っぽいと言うかこんな色って存在するのかっていう色の鼻をつまみたくなるような異臭を放つ液体がお椀に盛られていた。
・・・え?ナゼコウナッタ?
顔をあげると、苦笑いをしている咲と見たことがない謎の液体の入ったお椀をもった霧島がいた。
「まさか、霧島が作ったのか・・・?」
「そ、そうよ。どう、かな」
どうって、これは誰がどう見てもトイレの住人確定コースでしょ。というかそのレベルじゃ追いつかない気がする。あ
「き、霧島。味見は、したのか?」
「ううん。怖くて出来なかった」
「・・・」
どうやら作った本人はこの禍々しさを認識した上で感想を聞いているようだ。
ならば、答えは1つのみ!!
「死ぬ気で修行することを心よりおすすめします。」
「・・・咲。私に料理教えてくれる?」
「えーっと、その前にこれはどうすれば適切処理できるか聞いていいかな?」
「・・・家に持って帰ります」
「よし、これからナポリタン作るから、真二手伝って」
「お、おう」
そして、俺が麺を茹で、その間に咲が手際よく野菜を切っていった。
「あ、あの。私もなんか手伝・・・」
「「断る」」
「・・・はい」
よくあのこのタイミングで手伝う気になれるな。
そのやる気は素晴らしいんだけどなぁ。
あっという間にできたナポリタンを皆無言で黙々と食べ、霧島は帰っていった。
もちろん謎の液体を持って。
「まさか、霧島の料理があそこまで壊滅的だったとはな」
「そ、そうだね。私もビックリしたよ」
「一体なんでああなったんだ?」
「一緒に料理の練習しようかってことになったんだけど、私がちょっと目を離したら水野色がだんだん赤くなってきて、最後にはあの色になっちゃった」
「・・・ちなみに何を作ろうとしたんだ?」
「味噌汁」
・・・
・・・
・・・
・・・霧島。なんていうか、こう・・・おまえはもう料理をしない方がいいかもしれない。
俺、さっきのコメント間違えたかも・・・。