世界をググる能力(スキル)で、異世界のバグをデバッグします。
「おい、佐藤蓮。お前は今日限りでクビだ」
ギルドマスターの冷酷な声が、薄暗い執務室に響いた。机を挟んで俺を見下ろす男、バルザックは、隆々とした筋肉を誇示するように腕を組んでいる。
ここは剣と魔法の異世界。
現代日本で、来る日も来る日も深夜までデスマーチ(超過酷労働)を強いられていたシステムエンジニア(SE)の俺が、過労死の末に転生して半年が経つ。
神様から授かった固有スキルは、『万物検索』。
頭の中でキーワードを唱えるだけで、この世界のあらゆる情報、仕組み、他人のステータスを「検索結果」として脳内に表示できる能力だ。
現代日本でいえば、ネット検索(ググる行為)を世界そのものに対して行うようなもの。だが、この世界の人間にその価値は理解されなかった。
「戦闘スキルもなし、魔法の才能もゼロ。毎日ブツブツと虚空に向かって『検索』とかいう奇行を繰り返すだけの無能など、我が国内トップギルド『鉄の牙』には必要ない。お前の代わりなど、いくらでもいるんだよ」
「……そうですか。わかりました。お世話になりました」
俺は引き止めなかった。
引き止める理由がなかった。
彼らが言う「魔法」の正体を、俺はすでに『万物検索』で知っていたからだ。
この世界の人間は、魔法を「神聖な奇跡」や「丸暗記の呪文」だと思っている。だが、俺の目には全く違って見えていた。
この世界の魔法の本質は、世界を管理するシステムが走らせている「欠陥だらけのプログラム(ソースコード)」だ。
(※神が世界を構築した際の設定ミスや記述漏れが、そのまま魔法の燃費の悪さや、魔獣の発生というバグに繋がっている)
そして俺の『万物検索』は、そのコードの脆弱性や記述ミスを見つけ出す、最強のデバッグツールだった。
無能と罵られ、あっさりとギルドを追い出された俺は、冒険者酒場の片隅で一人、安酒を舐めながら今後のライフプランを練ることにした。
「さて、まずは『効率的な資金調達』でもググるか」
脳内で検索窓をイメージし、キーワードを入力する。キーボードを叩く感覚が頭の片隅でよみがえる。
【検索ワード:効率的な資金調達 / ソロ / 初心者向け】
検索結果:1件ヒット
【案件名】 東の森・隠し地下迷宮の踏破
【報酬】 白金貨10枚(現代レートで約1000万円)
【備考】 人類未発見の隠しダンジョン。ボスは『炎の魔人』。
【攻略法(デバッグ手順)】 ボスの行動ルーチンに致命的なバグ(記述ミス)あり。
「よし、ここにするか。白金貨10枚あれば、しばらくはホワイトなスローライフが送れる」
俺が立ち上がろうとした、その時だった。
酒場の厚い木製の扉が、悲鳴のような音を立てて勢いよく開いた。
「助けてくれ! 誰か、回復魔法の上級使い(上級ヒーラー)はいないか! 誰でもいい、金を惜しまむ!」
飛び込んできたのは、全身傷だらけの大柄な騎士だった。
彼の腕の中には、ぐっぱりと息を絶え絶えにしている金髪の少女が抱えられている。身につけているのは、最高級のシルクで編まれた聖職者のようなドレス。その顔は土気色に変色し、呼吸は浅い。
「エリシアお嬢様が、呪いの魔獣の毒に……! ギルドのヒーラーたちじゃ、いくら回復魔法をかけても毒が抜けないんだ!」
酒場が一気に騒然とする。
偶然居合わせた、さっき俺をクビにしたギルド『鉄の牙』の専属ヒーラーたちが少女の元へ駆け寄り、呪文を唱え始めた。
「光の慈悲よ、癒やしを与えよ――『キュア』!」
まばゆい光が少女を包む。しかし、少女は苦しげに顔を歪めるだけで、一向に回復する兆しがない。
「ダメだ! 上級の『キュア』を3回かけたが、毒の進行が止まらない! これ以上の連続発動は魔力(MP)がもたないぞ!」
「くそ、呪いが強すぎる! これはもう手遅れだ、システムの仕様(世界のルール)には逆らえない!」
ヒーラーたちは口々に言い訳を並べ、諦め顔で手を引いた。
「仕様、ねぇ……」
俺は小さくため息をつき、少女に近づいた。
そっと彼女の額に触れ、脳内でスキルを発動する。
『検索:対象のステータス、および異常状態の原因』
検索結果:
【名前】 エリシア・レムリア(レムリア王国 第一王女)
【状態】 ディープ・ベノム(重複エラー状態:致命的)
【原因】 解毒魔法『キュア』の連続実行により、システム内の解毒処理が「無限ループ」を引き起こしている。
【解決策】 パッチの適用。特定の魔力振動を与え、バグった処理を強制終了(Kill)させる。
やっぱりだ。元SEの直感が、世界のシステムのバグを捉えていた。
この世界のヒーラーたちは、魔法を深く理解していない。だから「効かないなら、もっと強い魔法を連発すればいい」という脳筋な発想に至る。
それがシステム内でサーバー負荷のようなエラーを引き起こし、毒が消えないどころか、過剰な負荷で少女の命(HP)を直接削り続けているのだ。
「どいてくれ。俺が診る」
「ハァ!? お前はさっきクビになった無能のレンじゃねえか! 魔法も使えないくせに引っ込んでろ、死体に触るな!」
『鉄の牙』の冒険者が俺の肩を掴んで突き飛ばそうとする。
「黙ってろ。仕様だの何だので諦めるな」
俺は元SEの、数々の過酷なデスマーチを生き抜いてきた「本物の修羅場の声」で一喝した。
「仕様が悪いんじゃない。お前たちのコードの書き方(魔法の使い方)が汚いんだよ」
あまりの気迫に、周囲の冒険者たちがビクリと身体を震わせ、静まり返る。
俺は少女の胸元にそっと手をかざした。
俺に魔法の才能はない。だからこそ、俺は魔法という名の「プログラム」へ直接、強制割り込みコマンドを打ち込む。
『コマンド実行:Kill -9 [Process_ID: Deep_Venom]』
俺の指先から、バチバチと青い火花のような魔力が走った。
それは魔法ではない。暴走した処理を強制終了させるための、システム・コマンド。
「……あ、……ぅ」
少女の顔から、どす黒い土気が一瞬で霧散した。
バラ色の赤みが頬に戻り、深く、穏やかな呼吸が静かに始まる。
「な、なんだと……!? 呪いが、一瞬で消えた……!?」
「呪文も唱えずに、一体何をしたんだ!?」
騒ぎ立てる元同僚たちを無視して、俺は身を起こした少女に視線を合わせた。
彼女のサファイアのような瞳が、驚きと深い感謝で揺れている。
「ありがとうございます……。冷たい闇から、引き戻されたような感覚でした。貴方は、一体……?」
「ただのしがないデバッガー(システムエンジニア)ですよ。お姫様」
俺はそう言って不敵に笑い、彼女の手を取った。
これが、のちに世界を救う「最強の検索魔導師」と呼ばれる俺と、レムリア王国の第一王女エリシアとの、最悪で最高の出会いだった。
第二章:世界のソースコードはスパゲティ
「レン様、本当に一人で東の森の迷宮へ行かれるのですか?」
翌朝、王都の城門前。
すっかり体調が回復した王女エリシアは、護衛の騎士たちを下がらせ、俺の前に立っていた。彼女の瞳には、昨日の一件以来、俺に対する尋常ではない関心と敬意が宿っている。
「ああ。ちょっとした『資金調達』と、世界のバグの調査を兼ねてね」
「バグ……ですか? 昨夜も、不思議な言葉を使っておられましたね」
「簡単に言えば、この世界を作った神様の『書き置き』が雑だったってことさ」
俺は苦笑しながら答えた。
『万物検索』で世界の成り立ちを調べた結果、とんでもない事実が分かっていた。
この世界を作った創造神は、おそらく現代地球のプログラマー、それも信じられないほどズボラな奴だ。
世界の物理法則や魔法システムは、すべてプログラムで動いている。だがそのコードは、長年のツギハギ(仕様変更)によって、複雑怪奇に絡み合った「スパゲティコード」と化していた。
だから、この世界にはおかしな現象――人々が『魔獣の呪い』や『不可解な天変地異』と呼ぶバグが頻発するのだ。
「私、エリシア・レムリアは、命の恩人である貴方に同行します! 王家の血を引く者として、世界の真実を知る義務がありますから」
「お姫様が迷宮入りなんて、普通なら止められるぞ?」
「ふふ、私はこう見えても光魔法の使い手です。お邪魔にはなりません!」
こうして、なぜか王女様を仲間に加えた俺は、東の森へと向かった。
森の奥深く、誰も気づかないような巨木の根元に、空間が歪んだ「バグの隙間」があった。これが『万物検索』で見つけた隠しダンジョンだ。
「……空間が、ねじ曲がっています。神話に聞く、失われた古代迷宮……!」
エリシアが息を呑む。
「入るぞ。足元に気をつけて」
一歩足を踏みいると、そこは青白い結晶が壁を覆う、幻想的で冷徹な空間だった。
しかし、俺の視界には、壁の至るところに赤文字のエラーメッセージが浮かび上がって見えている。
[Warning: Wall texture coordinates out of bounds](警告:壁のテクスチャがズレています)
[Error: Gravity variable uninitialized](エラー:重力変数が初期化されていません)
「ひどいな。突貫工事で作った個人開発のゲーム並みだぞ、このダンジョン」
思わず愚痴がこぼれる。
「レン様、何か見えているのですか?」
「いや、こっちの話。それより、さっそくお出ましだ」
暗闇から、炎をまとった巨大な犬――魔獣『ヘルハウンド』が3匹、牙を剥いて飛び出してきた。
「レン様、下がってください! 『光よ、我が命じに応え、敵を討て――ライト・アロー』!」
エリシアが凛とした声で詠唱を始める。
しかし、彼女が呪文を唱え終わるまでに、丸々5秒はかかっていた。光の矢が放たれ、ヘルハウンドの1匹を撃ち抜くが、残りの2匹がすでに目の前に迫っている。
「危ない……! 詠唱が間に合いません!」
「慌てるな」
俺は前に出た。
『検索:ヘルハウンドの行動ロジック、および脆弱性』
検索結果:
【オブジェクト名】 Hell_Hound_02
【バグ】 ターゲット捕捉時の移動ベクトル計算において、Z軸(高さ)の処理が考慮されていない。壁にぶつかると位置座標がフリーズする。
「お前たちのAI(人工知能)、ルーチンが甘すぎるんだよ」
俺は向かってくるヘルハウンドを避けることなく、横の壁に向かって一歩ステップを踏んだ。そして、壁を軽く叩く。
ヘルハウンドが俺に飛びかかろうとした瞬間、俺が壁に触れたことで、世界の「接触判定」がバグった。
ドゴォン!
ヘルハウンドは俺を通り越し、壁の中に下半身が埋まった状態で完全に硬直した。足をバタバタとさせているが、1ミリも動けない。
「えっ……? 魔獣が、壁に挟まって……動けない?」
エリシアが呆然と口を開けている。
「3Dゲームでよくあるバグさ。壁の判定をちょっとイジって、ハメ技を使っただけ。エリシア、動けないうちにトドメを」
「は、はい……! 『ライト・アロー』!」
動けない魔獣を、エリシアの魔法が安全に処理していく。
「レン様、貴方は魔法を使っていないのに、まるで世界そのものを操っているようです……」
「操っているんじゃない。ただ、世界が勝手に自滅するバグを、ちょっと突っついているだけさ」
俺たちは危なげなく、迷宮の最深部へと進んでいった。
第三章:バグまみれのボス戦
最深部の扉を開けると、そこは広大な溶岩の広間だった。
中央の台座から、圧倒的な熱量と共に、炎で形成された巨大な巨人が姿を現す。
この隠し迷宮のボス、『炎の魔人』だ。
「グラァァァァァッ!!」
凄まじい咆哮。空気そのものが燃えるような熱風が押し寄せ、エリシアが顔を伏せる。
「なんという魔力……! レン様、これは国災級の魔獣です! 私たちの手に負える相手では……!」
「大丈夫だ、エリシア。事前に『仕様書(検索結果)』は読んである」
俺は冷静に、頭の中でイフリートのデータを再確認した。
【オブジェクト名】 Boss_Ifrit_Final
【行動パターン】
『フレイム・ノヴァ(全体範囲攻撃)』を詠唱。
終了後、自身のMPを10%回復。
再び『フレイム・ノヴァ』を詠唱。
【致命的なバグ】
行動ルーチンの条件分岐において、割り込み処理の考慮漏れあり。特定の魔力干渉を受けると、MP回復処理が走らず、MPが「マイナス(負の数)」に突入する。
「よし、デバッグ(戦闘)を開始するぞ」
イフリートが巨大な両腕を天に突き上げた。
「ガァァァッ!」
その頭上に、太陽のような巨大な火球が形成される。迷宮全体を焼き尽くす、超広範囲の破壊魔法『フレイム・ノヴァ』だ。
「レン様、防壁魔法を展開します! 私の後ろへ!」
エリシアが必死に魔力を練り上げる。
「いや、エリシア。防御は不要だ。お前はただ、俺の指示するタイミングで、あのボスの『胸のコア』に一番弱い光魔法を当ててくれ」
「えっ!? 弱い魔法ですか!?」
「そうだ。タイミングは――今だ!」
イフリートが火球を放とうとした、まさにその一瞬。
俺は『万物検索』を介して、イフリートのMP管理コードに直接アクセスした。
『干渉コマンド実行:Inject_Negative_Value [Target: Ifrit.MP]』
「エリシア、撃て!」
「『ライト・ボルト』!」
エリシアの放った、パチパチと小さな光の弾が、イフリートの胸のコアに命中する。
本来なら、蚊に刺されたほども効かない一撃。
しかし、俺のコマンドによってMP回復処理が走る瞬間に、その一撃が「割り込みエラー」としてシステムに認識された。
ピキィィィン。
世界に、ガラスが割れるような奇妙な音が響いた。
イフリートの動きがピタリと止まる。頭上の巨大な火球が、シュルシュルと萎むように消えていく。
「ガル……? ガガガガガ……ガッ!?」
イフリートが、壊れたロボットのように頭を左右に激しく振り始めた。
その目から炎が消え、身体のあちこちから煙が吹き出す。
「な、何が起きたのですか……!?」
驚愕するエリシアに、俺は平然と説明する。
「このボスのプログラムは、MPが0になった時の処理が書かれていなかったんだ。そこに俺がマイナスの値を流し込んだ。
結果、システム内部で『整数オーバーフロー』が発生した。現在のボスのMPは――マイナス1から反転して、最大値の『21億4748万3647』になっている」
「最大値……!? では、もっと強くなってしまったのですか!?」
「逆だよ。この世界の最大魔力保持量は、システム上、21億までしか想定されていない。
想定外の超巨大な魔力を一瞬で持たされたせいに、ボスの制御回路(AI)がパンクした。
要するに――フリーズ(ハングアップ)したのさ」
「ガ……ガガガ……」
イフリートは完全に動きを止め、指一本動かせなくなっている。ただの巨大な炎の彫像と化していた。
「よし、仕上げだ。セーフモードで強制終了させる」
俺は動けないボスの足元まで歩いていき、その巨大な足の甲を、コン、コン、コン、と3回、特定のテンポで叩いた。
現代地球における『Ctrl + Alt + Delete』――タスクマネージャーを起動し、プロセスを強制終了する魔力のサインだ。
パァァァァァン!
イフリートの巨体が、まばゆい光の粒子となって四散した。
炎の魔人は、何の苦しみも、何の破壊ももたらすことなく、世界のシステムから「消去」されたのだ。
溶岩が消え去り、静寂が戻った広間の中心には、きらびやかに輝く白金貨が山積みになった宝箱が残されていた。
そしてその隣に、もう一つ。奇妙なモノが落ちていた。
「……これは、何でしょうか? 金属で作られた、平べったい板のような……」
エリシアがそれを拾い上げようとする。
「待て、触るな!」
俺は慌てて彼女を制し、その物体に『万物検索』をかけた。
それは銀色の金属でできた、現代地球の「USBメモリ」に酷似したパーツだった。だが、そこに表示された検索結果を見て、俺は背筋が凍りつくのを感じた。
検索結果:
【オブジェクト名】 ルート・アクセス・キー(断片:01)
【解説】 世界を統治するマザーシステム『ロゴス』の、最高管理者権限(Root)を強制奪取するための鍵。
【備考】 「世界を再起動し、現存する人類の全データを初期化する」プログラムの一部。
「世界の、初期化……?」
呟いた俺の言葉は、乾いた迷宮の空気に消えた。
神が残した単なるバグだと思っていたこの世界の歪みは、もっと意図的で、悪質な「何か」に繋がっているのではないか。そんな予感が頭をよぎる。
俺は無言でその銀色のパーツをポケットにしまい、白金貨の山を回収した。
第四章:新たな謎と、ホワイトな居場所
無事に隠し迷宮を踏破した俺とエリシアは、王都へと戻った。
「おい、見ろよ。無能のレンが帰ってきたぞ」
「隣にいるの……まさか、エリシア王女殿下か!?」
王都のギルド酒場に入ると、そこには俺をクビにした『鉄の牙』のギルドマスター、バルザックが、苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。
「レン、お前……王女殿下をたぶらかして、どこへ行っていた?」
バルザックが威圧的に一歩踏み出す。
「どこって、東の森の隠し迷宮だけど。資金調達さ」
「ふん、嘘を言うな! あそこはSランクの冒険者でも生きては戻れない超高難度ダンジョンだぞ! お前のような無能が、王女様の護衛もなしに行けるはずがない!」
バルザックが俺を怒鳴りつけようとしたその時、エリシアが毅然とした態度で前に出た。
「無礼を許しません、バルザック! レン様は、私を呪いの毒から救い、さらに隠し迷宮のイフリートを、指一本触れさせることなく討伐した本物の英雄です!
無能なのは、彼の真の価値を見抜けず、ただの事務作業員として扱っていた貴方たちの方です!」
「な……王女殿下、それは何かの間違いでは……!
!?」
バルザックの顔が驚愕で引きつる。周囲の冒険者たちも、信じられないといった様子でざわつき始めた。
「これ以上の問答は無用です。私はレン様を、レムリア王宮の『最高魔導システム責任者(CTO)』としてお迎えします!」
「しー、てぃー、おー……?」
呆然とするバルザックたちを置き去りにして、俺とエリシアはギルドを後にした。
それから数日後。
俺は王宮の特等席で、贅沢なホワイト生活を送っていた。
仕事内容は、この世界のバグ(魔獣の異常発生など)を、気が向いた時に『万物検索』でググってデバッグするだけ。可愛いお姫様がすぐ隣で紅茶を淹れてくれる、前世のブラック企業とは比べものにならない天国だ。
しかし、俺の心は晴れきっていなかった。
ポケットの中にある、あの銀色のパーツ。
俺はエリシアが淹れてくれた紅茶を口に含みながら、静かに脳内で検索窓を開いた。
『検索:ルート・アクセス・キーの残りの断片の場所』
画面に表示されたのは、この世界の地図。
そして、レムリア王国を遥かに超えた先にある、世界中の超高難度ダンジョンの位置に、いくつかの赤い光点が灯っていた。
「……あと4つ、か」
この世界のバグは、誰かが意図して仕組んでいる。
そして、すべてのパーツが集まった時、世界を初期化するプログラムが起動する。
「レン様? どうかされましたか? 難しいお顔をして」
エリシアが心配そうに覗き込んでくる。
「いや、なんでもないさ。ちょっと、次の『大型アップデート』の予感がしてね」
俺は不敵に笑い、彼女にウインクした。
ブラックSEから転生した俺の異世界デバッグライフ。
世界のシステムを裏からハッキングしようとする奴がいるなら、本物のエンジニアの恐ろしさを教えてやるまでだ。
俺たちの、世界の命運を賭けた「デバッグの旅」は、ここから本格的に始まっていく。
続きが読みたい!応援したいという方は、ブクマと高評価お願いします!
50ポイントを超えたら短編じゃなくて、連載版にしようと思います。よろしくお願いします。




