ツンデレは親にとっては、ただのイジメっこ。もしくはストーカー
ヒロキ 主人公
メイ ヒロキの彼女
アズサ ヒロキの事が好きな幼馴染
でも素直になれなくて……
トシコ ヒロキの母
ヒロキは久しぶりに実家に向かっていた。県外の大学に通っていたので一人暮らしをしているが、就職先は東京に決まったので、引っ越しの準備も進めており、多忙な毎日を送っている。
「お土産、やっぱり和菓子の方が良かったかな」
「うちは好き嫌いないから大丈夫だよ」
隣を歩くメイが緊張した顔で尋ねる。今日は大学二年から付き合っているメイを初めて実家に招待したのだった。母からは駅まで車で迎えに行くと言われていたが、断った。実家は駅から20分と歩けない距離ではないし、メイに自分が育った町を見て欲しい気持ちもあるからだ。
しかし、親の言う事は素直に聞いておけば良かったと後悔した。
地元で唯一、会いたくない人物に遭遇してしまったのだ。
「ヒロキじゃん、何でいんの? うざ」
保育園、小学校と一緒だったアズサ。美人で成績も良く、口も達者で気が強かったから女子のリーダー格だった。そして、何故がヒロキには当たりが強い。
「うっわ、相変わらずダッサ。ヒロキのくせに女連れとかキモイんですけど。レンタル彼女?」
「いや、普通に付き合ってるし。じゃあ、さようなら」
「はぁ? 何勝手に行こうとしてんの、生意気なんですけど。てか、この女、ビッチ顔じゃん。アンタ、絶対フラれるから」
とにかくディスりが止まらない。メイの事まで酷い言い掛かりを付けてきたので、流石に怒ろうとした時。
「お前、良い加減にしろよ……」
と、言いかけた時、見覚えのあるミニバンが止まった。
「やっぱ、迎えに来ちゃったー! アッハッハッハー!」
運転席から顔を出したのは救世主オカン。またの名を母、トシコ。
「さあさあ、乗っちゃって、乗っちゃって!」
オカンはアズサに気が付いていないようで、ヒロキとメイを車内に促す。うん、さっさと乗ろう。
「おばさん! お久しぶりです」
シカトこかれてる事に気が付いたアズサは、トシコの視界に無理矢理侵入するかのようにスライドしてきた。アズサは昔から大人の前では猫を被っていたが、今でも変わらないようだ。
「ごめんね、誰?」
「え……あ、私、アズサです。ヒロキ君と小学校の同級生でぇ」
「そうだったっけー?」
「家もご近所ですし、あの、ご迷惑でなければ、その」
さりげなくミニバンに乗ろうとするアズサ。相変わらず図々しいな。
「あー、お家の場所忘れちゃったみたい。最近物忘れが激しくって、またねー!」
母はアズサの送ってアピールを見事にぶった斬ってミニバンを発進させた。ブラボー・オカン。
だが、母の行動にヒロキは少し違和感を覚えた。母はむしろお節介なタイプだし、やたらとヒロキの同級生の事を覚えていたりするのだ。
少しモヤモヤしたが、すぐに実家に着いてしまったし、メイがいる。ヒロキは疑問を一旦おいて、切り替える事にした。その後はメイの歓迎の食事会が行われ、和やかな団欒が始まった。
ヒロキは実家に泊まるが、メイは駅前のビジネスホテルに泊まる。再び、母が送ると言うので今度は素直にお願いした。メイは遠慮したが、夜道は危ないという事で押し通す。
メイをホテルに送った帰り道。
「メイちゃんもウチに泊まっても良かったのに」
「いきなり彼氏の実家に泊まるなんて気を遣うだろ」
「そりゃそうね」
隣で運転する母に聞いてみた。
「あのさ、アズサの事なんだけど」
「アンタ、あの子、苦手でしょ」
アズサへの思いをアッサリと言い当てた母に驚きつつ、ヒロキはさらに言った。
「うん、正直、嫌い」
「ママンも嫌い」
一人称、ママンはやめい。
だが、母もアズサを嫌っているとは思わなかった。
「何よ、意外?」
「あー、ちょっとね」
「何でよ? あの子、性格悪いでしょ」
母は、さも当然のように言う。アズサは、外面というか教師や同級生の保護者には愛想良くしていたのに。
「あのねぇ、あの子、保育園の時からヤバかったのよ」
知ってたんかい。
「ヒロキも22歳だもんね、もう教えてもいいかな」
母が話し始めたのは20年もさかのぼる保育園時代のこと。共働きの両親の元に生まれたヒロキは2歳の頃から保育園に通っていた。だが、3歳くらいになった頃。
「最近、怪我多くないか?」
子供は怪我をするものだけれど、それにしても擦り傷や痣らしきものが多い。不審に思っていたある日、目撃してしまったのだ。女の子が息子を突き飛ばす光景を。その時は、保育士がすぐに注意をしてくれたし、子供同士は多少ケンカするものだと納得した。だが、すぐに異様さを察知する。
迎えに行くと必ず、ヒロキにべったりとくっつく女の子がいるのだ。その女の子こそアズサだった。
「もうね、幼児の時から悪質だったのよぉ」
突き飛ばした事でしかられたアズサは学んだらしい。目立つ行為は先生に叱られると。
「つねられた痕や引っかかれた痕があってね。先生に様子みてくれるようお願いしたわけ」
早々に現場を押さえられ、アズサは再び、しかられる。でもって、保育士達により、やんわりと引き離される事になったらしい。
「マジか、昔過ぎて覚えてない」
だが、所詮は幼児。自制が利かず、再びヒロキにちょっかいを出すようになり、それは保護者の前でも行われるようになる。
「先生達も配慮してくれたし、あの子のご両親にも伝えてくれてたんだけどね」
改善はされない。頭にきた母は直接アズサの母親に伝えたらしい。
「女の子はか弱いしぃ、男の子は強いからぁ大丈夫ですよぉ。ヒロくんママってば気にし過ぎぃ。アーちゃんはぁ、ヒロ君がだーい好きなんですぅ。2人ともお似合いでしょぉ、幼馴染で結婚なんて素敵ですよねぇ」
まともな会話ができない。
転園する事も考えたが、当の本人は他の友達と離れるのは嫌だと、転園を拒んだらしい。また、翌年は違うクラスにしてもらったので、ひとまず落ち着いたと思われた。しかしアズサはしつこかった。他のクラスにも関わらず、ヒロキのクラスにやってきては「のろま」だの「うっとおしい」だの悪口を言って、さらにヒロキの粘土工作や絵を破壊して帰っていく。
「あ、その辺は覚えてるかも」
「その頃から、あの子、私に媚び売ってくるようになったのよ」
何それ、怖い。ただ、その内容はヒロキが転んで泣いただの、うまく積み木ができなくて泣いただの、かけっこで負けて泣いただの。大体がヒロキの失敗談である。
「それで、自分の事気に入ってもらえると思ってるところが子供よねぇ」
5歳になる頃には、母のアズサへの評価は最悪だった。また、オカンはオカンでアズサの母親に付き纏われていた。
「あの子のお母さんから、ヒロキの誕生会に呼んでくれとか、逆に来てくれとか、休みの日に遊ばせようとか、誘いを断るのが大変だったんだからね!」
「こえー」
「あげくに母親だけでママ友会しようとか言われてさぁ!」
「まじこえー」
そして小学校入学。1年から4年までは同じクラスになる事はなかったが、度々絡まれ、叩かれたり蹴られたりする事もあり、ヒロキにとってアズサはただの災難でしかなかった。
「実は、出来れば、同じクラスにならないようお願いしてたんだよね」
モンスターペアレントにならないよう、事情を説明して可能な限りでと伝えていたとの事。だがアズサは成績も良く、体育も得意、外面も良い、それから利発そうな容姿もあって優等生扱いされていた。
そのせいか、5年生に進級した際に、とうとう同じクラスになってしまった。クラス替えは2年ごとのため、卒業まで一緒だ。
「ヒロキ、5、6年生時、虐められてたの知ってる?」
「え? そんな事ないけど?」
まったく身に覚えがない。それに今でも小学校時代の友人達とは連絡を取り合っている。
「他のクラスの女の子のママさんに聞いたのよ」
なんと、ヒロキはクラスの女子からハブられていたのだ。
「全然気が付かなかった」
「あはは、そうだったみたいねぇ」
母は笑いながら語る。当時、気の強いアズサは女子のリーダー格で、自分以外がヒロキと話す事を許さなかった。だが、アズサの影響力は女子のみ。ヒロキの親しい友達は男子ばかり、しかも、どちらかというと腕白小僧でアズサの命令なんぞ従う訳がない。
「トモヤ君もヨウスケ君も、ヒロキと仲良くしてると自分まで虐められるぅなんて心配する子達じゃなかったもんね」
だが、アズサは気に入らなかった。手下に命じて嫌がらせを始めたのだ。しかもヒロキではなくヒロキの友達に。
ある日、昼休みが終わって校庭から戻るとトモヤの机の中が荒らされていた。キレるトモヤに女子は言った。
「ヒロキがやっていたのを見た」と。
それを聞いたトモヤはさらにキレた。
「俺とずっと一緒にいたヒロキがいつ出来るんだよ! 適当こいてんじゃねぇぞ! ブス!」
また別の日の朝、ヨウスケの上履きがヒロキの机に隠されてると言う事件が発生。女子達はヒロキの仕業だと言うが。
「昨日、俺と一緒に帰って、朝、一緒に来たヒロキが隠せる訳ねぇだろ。馬鹿じゃねぇの」
ヨウスケは割と冷静に論破してた。
それから、トモヤやヨウスケの悪口がスマホのメッセージに送られてきたと言ったらしいのだが。
「ヒロキ、スマホ持ってねーよ」
二人は揃って信じなかった。
むしろ、女子の行動は担任から問題視され、かなりキツめに指導を受けていた。そこでアズサの指示だと伝えたらしいが、当のアズサはしらばっくれた。結局、実行犯の女子達だけが叱られ、保護者にまで連絡されたと言う。
「そんな事あったなぁ」
「アンタがあまり気にしてないみたいだから、わざわざ言わなかったけどさ。良い友達もったわよねぇ」
確かにトモヤとヨウスケが女子の話を真に受けていたら、ヒロキの小学生時代は暗いものになっていた。
「それからねぇ」
その実行犯の女子達はトモヤとヨウスケの事が好きだったらしい。ヒロキをハブる事で親しくなろうとしていたが、むしろ嫌われる結果になった。
「何で知ってんの?」
「伊達にPTAやってなかったのよ。ママ友情報網なめんな」
「すげー」
そんな事もあり6年の中盤からは、アズサは女子から恨まれ、距離を置かれるようになる。
「そういや、アイツ。あの頃から、すっげぇ文句言いながら絡んでくると思ってたけど、ハブられてたのか」
遠足や社会科見学、修学旅行で同じ班になろうとしてたから、他のクラスメイトを入れて全力で拒否したんだった。
そして、小学校を卒業する頃にはアズサには友達が一人もいなくなっていた。ヒロキ以外。
「いや、友達じゃないけどね」
「あの子は友達と思ってたのよ。だから中学になって来るようになったのね、きっと」
「どこに?」
「ウチに」
「はあ?」
ヒロキは全く知らなかったが、毎朝、我が家に迎えに来るようになったそうだ。
「俺、地元の中学行ってないじゃん」
そう、ヒロキは中学受験をして、学区外の中高一貫校に進学したのだ。アズサとは別の中学だ。男子校だし。にも関わらず。
「ヒロキ君と一緒に登校する約束しててぇ」
堂々と嘘を吐いてやって来たらしい。
「ヒロキなら、もう学校行ったよ」
100%嘘だと分かっていたが、母は騙されたふりをして、突っ込まなかった。突き詰めてしまったら、ヒロキの進学先を教える事にもなりかねないからだ。
ちなみにヒロキは電車通学となったので、家を出る時間が早く、アズサとかち合う事はなかった。
「マジで、怖いんだけど」
「2ケ月くらい、時間を変えて突撃してきたんだけど。ヒロキが家を出る時間を聞いてきたのよ。だから“約束してるんじゃないの?”って、尋ねたら、“学校で確認してみます”って言って、翌日から来なくなったわね」
おそらく、同じ中学にヒロキがいない事にやっと気がついたのだろう。つまり2ヶ月間も勘違いしていたのか。
「同じ小学校出身の子達には距離を置かれてたからね、教えてくれる人がいなかったんじゃない?」
「なるほど」
こうして、ヒロキの家に平穏が……訪れなかった。
「何故か、私と親しくなろうとしてきたのよ」
「何で、オカンと!?」
「外堀を埋めたかったんじゃない?」
思わず「ヒェッ」と言ってしまう。サッカー部の練習で多忙なヒロキは、朝早く家を出て、帰宅も遅い。そして高校からは寮に入っていたのだ。全く、会えないヒロキとの接点を作ろうと、アズサは母をストーキングし始めた。
会社帰りの母を待ち伏せしたり、母がよく行くスーパーに出没したり、我が家の周りをうろついたり……
「あまり、お料理が得意じゃないんですけどぉ、ヒロの好きなものを作ってあげたいんですっ」
料理を教えてくれと言って来た事もあったらしい。
「“コレで、大体なんとかなる!”て、麺つゆ渡しておいた」
またある時は、仕事で忙しい母に代わって夕飯を作っておくので、合鍵をくれと言ってきたらしい。図々しいし、料理苦手じゃなかったのか。
「自分のおうちのお手伝いをしなさいねって言っておいた」
「ごもっとも」
そして、またある時は、己の母を使う事もあった。
「あーちゃんはぁ、ヒロ君と一緒の高校に行きたいんですってぇ。はい、これ二人が行く高校のパンフレットでっす」
「ヒロキは別の高校に入学します。パンフレットはいりません」
話の通じない相手には端的に断るべしと、ヒロキの母は学んでいた。そして、大学受験シーズン前にもアズサの母はやって来た。
「ヒロ君のいく大学教えてくださぁーい」
「個人情報は教えません」
もはや面倒になった母はインターフォンごしに対応したそうだ。
「ちなみに高校の寮から、ヒロキの親戚だって言う女の子が訪ねてきたって何度も注意を受けたわ。名前を確認してもらったら、あの子だった」
「怖過ぎるんですけど!」
「そんな親戚はいませんって伝えておいたわよ」
ヒロキの入っていた寮は規則が厳しく、決まった曜日と時間に保護者のみが入館を許されるのだ。だから、学校側から迷惑行為を慎むよう連絡がきたらしい。
恐ろしい事に、中学、高校と、殆ど会うこともなかったのに、ヒロキはアズサに彼女ヅラされていた。
「てか、アイツ、アレで俺のコト好きなの!? あの態度で!?」
「執着されてる事は確かね。アンタは県外の第一志望の大学に合格したから、ひとまず、安心してたんだけど」
思い起こせば年に一度くらいは遭遇した気がする。しかし、会話をしたとしても、今日のように罵倒されるわ、ローキックされるし、ただのチンピラとしか思えない。
「まだ、諦めてないって事ね。くれぐれも連絡先や住所、就職先を知られないようにね」
「分かった。そういえば、親父も知ってんの?」
「あの子、ほぼ毎日、ウチの周辺をうろついてたのよ。それがバッチリ防犯カメラに録画されててね」
毎日同じ少女が録画されてることに気付いた父は恐怖におののき、妻に「お、お祓いをした方がいいかもしれない」と涙目で相談したらしい。親父はホラー映画大嫌いなオッサンだ。
ところが、その少女は生きた人間で、オカルト現象ではなく人怖だ。幽霊じゃなくて良かったと安心したが、それはそれで気持ちが悪いし、不審が過ぎると、父は警察に届け出てくれたらしい。ところが、この程度では犯罪にはならないと言われてしまった。
「物を壊す訳でもなく、ゴミを撒き散らす訳でもない。ただ、うろつくだけだからね」
見回りを増やしてくれるくらいだった。
「あと、メイちゃんにも事情を話しておいた方がいいんじゃない?」
「そうしておく」
それにしても、最悪だ。性格の悪い、嫌な奴だと思ってた人間が自分の事を好きだったなんて、気持ちが悪いとしか思えない。
「苛めっ子からストーカーに進化しちゃったねぇ」
「おえ」
気分は最低だが、家族のおかげで20年間、気色の悪い女からヒロキは守られていたのだ。
「これからは自衛しなさいね」
「了解」
これが22歳の頃の話。
その後、ヒロキは社会人として3年間勤め、大学から付き合っていたメイと結婚する事になった。
念のため、小学校の時の同級生には事情を話してアズサに情報を漏れないようにし、結婚式は無事に終える事が出来た。
しかし、その後。
「お世話になっております。ホテル・ビラコスタの田村で御座います」
式場のプランナーから電話がかかって来た。
ヒロキの式から丁度一週間後の日に白いドレスを着た女がホテルで暴れたと言う。その女はヒロキの名前を呼び、自分が花嫁だと叫んでいたらしい。
「……警察に通報して下さい。ストーカーです」
ここまでされたら、接近禁止に出来るかな。
「弁護士に相談しよ」
ロマンスが始まらない青春ストーリー
20年デレるタイミングを逃しつつけたツンデレ。
ちなみにヒロキはアズサを幼馴染とは思ってません。むしろ、保育園から一緒でずっと仲の良かったトモヤとヨウスケを幼馴染と思っています。




