EP 9
357マグナムは魔法を貫く
「へっ、デカブツが! 俺様たちの邪魔をするなら、スクラップになる覚悟はできてんだろうなぁ!」
鮫島の合図と共に、イグニスが吠えた。
彼は口から紅蓮の火炎を吐き出し、それを自らの両手斧に纏わせる。
さらに全身の毛穴から、真紅の闘気が噴き出した。
「舐めんじゃねぇぜ! これが俺様の……俺流! 必殺! 『大火炎旋風』ッ!!」
ゴォォォォォッ!!
イグニスは炎のコマのように高速回転しながら、ゴーレムの懐へと突っ込んだ。
遠心力と重量、そして爆発的な熱量が乗った連撃。
ガガガガガッ!
先ほどまでは傷一つ付かなかった古代の装甲が、飴細工のように斬り刻まれ、溶解し、剥がれ落ちていく。
「ヴ、ヴヴ……装甲破損。近接防御、突破サレ――」
ゴーレムが体勢を崩したその瞬間。
倉庫の壁を蹴る音が響いた。
「私の本気、見せてあげる!」
キャルルだ。
彼女はクラウチングスタートの姿勢から、瞬発力だけで音速の壁を突破していた。
キィィィン!!
衝撃波が遅れて響く中、彼女は倉庫の壁を三角飛びで蹴り、さらに加速する。
その足元、鉄芯入り安全靴のソールに仕込まれた『雷竜石』が、バチバチと激しいスパークを放った。
全闘気を右足一点に集中させる。
「必殺! 『スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク』ッ!!」
稲妻を纏った流星の如き飛び蹴りが、イグニスが削り取った装甲の隙間――ゴーレムの胸部装甲の真ん中に突き刺さった。
ドッゴォォォォォン!!!!
轟音。
5メートルもの巨体を持つ鋼鉄の怪物が、まるで紙屑のように宙を舞い、倉庫の奥の壁へと叩きつけられた。
「ガ、ガガ……システ……ム……エラ……」
ゴーレムの動きが止まる。
だが、その胸部の奥、露出した魔力炉は、まだ不気味な光を放ち、自爆シークエンスへ移行しようとしていた。
「……上出来だ、馬鹿ども」
硝煙と粉塵が舞う中、鮫島が歩み出る。
その手には、愛銃『Korth』が握られていた。
部下たちがこじ開けた、ほんのわずかな装甲の亀裂。その奥にあるコアだけを、鮫島は見据えていた。
狙いは一点。
引き金に指をかける。
ドゥン! ドゥン!
重厚な発砲音が二度、倉庫に響き渡った。
放たれたのは、女神ルチアナ直通の『神気コーティング弾』。
弾丸は正確無比にコアを貫き、内部で炸裂した。
パシュン……。
ゴーレムの赤い瞳から光が消え、巨体が完全に沈黙した。
圧倒的な質量が崩れ落ちる音が、戦闘の終わりを告げた。
「ひ、ひぃぃぃ! 化け物だ! こいつら人間じゃねぇ!」
ゴーレムを失った黒幕の男が、腰を抜かして逃げようとするが、すぐにイグニスに首根っこを掴まれた。
「……ふぅ。終わりだな」
鮫島は銃をホルスターに戻し、周囲を見渡した。
敵は壊滅。証拠品も確保。作戦は成功だ。
……しかし。
メラメラメラ……。
イグニスの『大火炎旋風』の余波で、倉庫内の木箱や壁が景気よく燃え上がっていた。
さらに、キャルルの『スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク』の衝撃で、倉庫の屋根と柱の大半が消し飛んでおり、建物は半壊どころか全壊に近い。
「…………」
鮫島は燃え上がる倉庫と、夜空が見えてしまっている天井を見上げた。
懐から赤マルのソフトパックを取り出し、一本くわえて火をつける。
深く吸い込み、紫煙を吐き出す。
脳裏に浮かぶのは、リベラが持ってくるであろう、天文学的な数字の請求書。
「こりゃあ……俺の給料から差し引かれるか?」
鮫島は燃え盛る炎を見つめ、自嘲気味に呟いた。
「……まさかな」
そう自分に言い聞かせなければ、やっていられなかった。
T-SWATの夜は、まだ明けない。




