表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

EP 7

盤上の怒り

「……ポーン(歩兵)が、随分と面白い壊れ方をしたものだね」

アルバード侯爵邸、最上階の執務室。

豪奢なシャンデリアの下、No.0ことギアン・アルバードは、高級なベルギー産チョコレートを口に放り込み、カリリと噛み砕いた。

部屋の隅には、泥だらけのドレスを着た少女――No.2ルルシアが体育座りで震えている。

「うぅ……半額シール……貼ってない……高い……」

「豚汁……おかわり……」

彼女の目は虚ろで、焦点が合っていない。

リーザ王女の貧乏スキルをコピーした結果、精神構造メンタルが貴族のプライドと衝突し、完全に崩壊バグを起こしていた。

もはや、最強のコピー能力者の面影はない。ただの「食に執着する廃人」だ。

「役立たずめ」

ギアンは冷めた目でルルシアを見下ろすと、手元のチェス盤から「クイーン」の駒を弾き飛ばした。

駒は床に転がり、ルルシアの足元で乾いた音を立てた。

「治療しますか? ボス」

影からぬらりと現れたのは、大商人の姿をしたNo.3、ガームだ。

「必要ない。一度壊れた駒は、リセットするまで元には戻らない。……それより、客人を呼べ」

ギアンが指を鳴らすと、扉が乱暴に蹴破られた。

「あぁん? 俺様を呼んだか、ボス」

入ってきたのは、頭部に包帯を巻き、新しい仮面をつけた大男。

No.1、ヴォルグ。

先日、リベラの事務所で鮫島に頭を撃ち抜かれた破壊者だ。

「ヴォルグ。傷の具合はどうだい?」

「ズキズキ痛むぜ。……あの黒服の野郎に撃たれた穴がな」

ヴォルグは仮面の上から額を抑え、ギリギリと歯ぎしりをした。

対魔破甲弾のダメージは深刻だったが、組織の治癒魔法で無理やり塞いだようだ。

その全身からは、以前よりも増したどす黒い殺意が立ち昇っている。

「許さねぇ……。俺様の顔に傷をつけたあの虫ケラども……。全員、分子レベルで消し飛ばしてやる」

「いいだろう。その怒り、解き放つ許可ライセンスを与える」

ギアンは椅子から立ち上がり、窓の外――王都の下町方向を見据えた。

「T-SWAT。……最初はただの道化だと思っていたが、どうやら僕のシナリオを狂わせる『バグ』のようだ」

No.1を撃退し、No.2を精神崩壊させ、No.3の資金源を潰した。

もはや見過ごせるレベルではない。

彼らは、ギアンが描く「完全なる支配」という盤面を覆す可能性を持つ、唯一の不確定要素。

「小細工は終わりだ。……僕たちは『力』で支配する者。ならば、圧倒的な暴力で押し潰すのが礼儀というものだろう」

ギアンはチェス盤の上の「キング」を手に取り、握りつぶした。

「No.1、No.3。そして残りの構成員全員を動員しろ」

「へへっ、やっとかよ。……で、標的は?」

ヴォルグが凶悪に笑う。

ギアンは甘いチョコレートの香りを纏った吐息で、冷酷に告げた。

「今夜、T-SWAT本部を襲撃せよ。……更地にして構わない。一人残らず消せ」

***

同時刻。T-SWAT本部。

「……風が変わったな」

深夜の廃倉庫で、俺は愛銃Korthの手入れをしながら呟いた。

オイルの匂いに混じって、どこか血生臭い風が吹き込んでいる気がする。

「隊長ー! 見て見て! この『えむよん』すごいよ! 300メートル先の空き缶に百発百中!」

キャルルが新しい玩具(M4カービン)を抱きしめてはしゃいでいる。

彼女の動体視力とM4の精度が組み合わされば、もはや移動砲台だ。

「ガハハ! この『ベネリ』ってショットガンも最高だぜ! ドアごと標的を吹き飛ばせる!」

イグニスはベネリM4スーパー90を片手で構え、ポンプアクションを楽しんでいる。

彼の馬鹿力なら、反動などないに等しい。

部下たちは最強の装備を手に入れ、士気は高い。

だが、俺の長年の勘(刑事の勘)が警鐘を鳴らしている。

これは、「終わりの始まり」だと。

「……総員、聞いてくれ」

俺が声をかけると、二人は手を止めてこちらを向いた。

「今夜は帰るな。……来るぞ」

俺はKorthに弾丸を装填し、カチリとシリンダーを戻した。

「ナンバーズが、本気で俺たちを潰しに来る。……遊び(ゲーム)は終わりだ。これからは戦争ウォーだ」

緊張が走る。

だが、イグニスもキャルルも、怯える様子はない。

不敵な笑みを浮かべ、それぞれの武器を構えた。

「上等だ。返り討ちにしてやるよ」

「あたしたちの職場ここは壊させない!」

俺はタバコを口にくわえ、ライターの火を灯した。

揺れる炎の向こう側、闇の彼方から、無数の殺意が近づいてくるのを感じた。

「……配置につけ(ポジション)。迎撃戦を開始する」

静寂な夜が破られるまで、あと数分。

T-SWAT本部防衛戦の幕が上がる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ