表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

EP 3

貧乏神の感染

 タロウマートの屋上。

 華麗なドレスがボロボロに破れ、片方のヒールが折れた状態で、ツーは震えていた。

「……か、帰らなきゃ。アジトに戻って、ゼロ様に報告を……」

 彼女はNo.3(スリー)からコピーしてストックしていた『テレポート』を発動しようとした。

 指を鳴らし、魔力を練り上げる。

「テレポート……!」

 ――プスン。

 空間は微動だにしなかった。

 代わりに、彼女の腹から盛大な音が鳴り響いた。

 グギュルルルルル……!

「うそ……魔力(MP)が……足りない……?」

 ツーは愕然とした。

 リーザからコピーした『貧乏神の加護』。このスキルは、所持者の運気を下げるだけでなく、**「燃費を極悪にする」**という隠し効果があった。

 常に空腹状態を維持するために、魔力が勝手に胃袋の消化活動へと変換されているのだ。

「そんな……歩いて帰れって言うの……?」

 所持金ゼロ。魔力ゼロ。体力エンプティ。

 ツーはよろめきながら、非常階段を降り始めた。

 ***

 一時間後。

 王都の中央公園。

 ベンチの上に、魂の抜けた少女が倒れていた。

「……お腹……すいた……」

 ツーの意識は朦朧としていた。

 通り過ぎる人々は、彼女を「可哀想な家出少女」あるいは「新しいパフォーマンスアート」だと思って遠巻きに見ている。

 世界征服を目論むナンバーズの幹部が、餓死寸前。

 あまりにも惨めな最期が迫っていた。

「あら? あなた、さっき屋上にいた子?」

 頭上から、呑気な声が降ってきた。

 ツーが薄目を開けると、そこには後光が差した青髪の天使――ではなく、大量の「もやし」を抱えたパーカー姿のリーザが立っていた。

「……あ、なたは……タロウマートの……怪物……」

「怪物って失礼ね。私は清純派アイドルのリーザちゃんよ」

 リーザはベンチの隣に座り、ツーの顔を覗き込んだ。

「ふーん。顔色が土気色で、目が死んだ魚みたい。……今の私と同じ匂いがするわね」

「……殺すなら……ひと思いに殺しなさい……」

「何言ってんの。お腹空いてるんでしょ?」

 リーザはパーカーのポケット(四次元ポケット並みに色々入っている)をごそごそと探った。

 取り出したのは、少し潰れた「食パンの耳」の束だった。

「ほら。これ食べなさい。さっきパン屋の裏口で貰ってきた『特上』よ」

「パンの……耳……?」

 普段のツーなら、そんなゴミを見るような目で一蹴していただろう。実家では最高級のブリオッシュしか食べたことがない。

 だが、今の彼女にとって、その茶色い棒切れは、黄金の延べ棒よりも輝いて見えた。

「た、食べて……いいの……?」

「いいわよ。もやしセールで勝ったから、私は機嫌がいいの」

 ツーは震える手でパンの耳を受け取り、口に運んだ。

 カリッ。モグモグ……。

 その瞬間。

 ツーの脳内に電流が走った。

「…………ッ!!!」

 香ばしい小麦の香り。わずかに残ったバターの風味。そして、空っぽの胃袋に染み渡る炭水化物の暴力的な旨味。

 『貧乏神の加護』が持つスキル効果――【空腹補正:味覚感度3000倍】が発動したのだ。

「お、おいしい……! なにこれ、おいしいぃぃぃ!!」

 ツーの目から滝のような涙が溢れ出した。

 王室御用達の料理人が作ったフルコースよりも、この湿気たパンの耳の方が、遥かに美味く感じる。

「あぐっ! はぐっ! うめぇ! パンうめぇ!」

「でしょ? 焦げ目がついてるところが特に香ばしいのよねぇ」

 リーザはうんうんと頷き、もやしの袋を愛でながら言った。

「人間、見栄を張ってもお腹は膨れないわ。……地面に生えてる草も、パン屋のゴミも、見方を変えれば『ご馳走』になるのよ」

 その言葉は、ツーの心に深く突き刺さった。

 ナンバーズとして「選ばれし者」であることに固執し、世界を見下していた自分。

 だが、今の自分を救ったのは、見下していた「ゴミ」だった。

(この人……凄い。世界の真理サバイバルを知り尽くしているわ……!)

 ツーの中で、リーザへの認識が「敵の強者」から「人生の師匠グル」へと書き換わった。

「……ごちそうさまでした!」

 完食したツーは、口の周りをパン屑だらけにしながら、リーザに向かって土下座に近いお辞儀をした。

「私、勘違いしていました! あなたこそ、真の強者です!」

「え? いや、ただの貧乏アイドルだけど」

「お願いします! 私に、その『生きる術』を教えてください! ……私、もうアジトに帰る魔力もなくて……行き場がないんです!」

 リーザは瞬きをした後、ニカッと笑った。

「なるほど、家なき子ってわけね。……いいわよ。私のシェアハウスには入れないけど(家賃的に)、公園での『狩り』のやり方なら教えてあげる」

 リーザはベンチの足元に生えていた、黄色い花を指差した。

「例えばこれ。タンポポ」

「お花……ですね?」

「ノンノン。これは『サラダ』よ。葉っぱは少し苦いけど、お湯で湯がけば立派なおかずになるわ」

「サ、サラダ……! 路傍の草が食材に……!?」

 ツーは感動で打ち震え、手帳(高級革張り)を取り出してメモを取り始めた。

「パイセン(先輩)! 勉強になります!」

「ふふん、素直でよろしい。ついてきなさい後輩。次は『スーパーの試食コーナーで怒られずに三周する方法』を伝授するわ」

 こうして、ナンバーズ幹部・No.2は、組織を離脱し、リーザの「一番弟子」となった。

 二人は夕暮れの公園で、仲良く雑草を摘み始めた。

「パイセン、これは?」

「それはドクダミ。お茶にすると健康にいいけど、臭いから上級者向けね」

「なるほど……奥が深い……!」

 その頃。

 ナンバーズのアジトでは、リーダーのゼロが苛立ちながら貧乏揺すりをしていた。

「……ツーの反応が消えただと? 未来予知にも映らない……まさか、T-SWATに消されたか?」

 彼らが想像するよりも遥かに恐ろしい「貧乏」という名の沼に、部下が沈んでいるとは知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ