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『平仮名ののの字と速記文字ののの字の母と息子』

作者: 成城速記部
掲載日:2025/10/19

 ある男の家に、若くて美しい女が、一夜の宿を借りたいと言ってやってきた。別段泊めてやって困ることもないと思ったので、泊めてやったところ、次の日もその次の日も、帰ろうとしないどころか、泊めてもらったお礼などと言って、洗濯をしたり、飯をつくったりした。そんなこんなで、男は女と夫婦になって、女は懐妊し、産み月となった。女は、お産の姿を見ないでくれと何度も頼むので、男は、そのように約束をして、産み部屋をついたてで囲んで、声をかけるだけにしていたが、陣痛が来てから一日たっても二日たっても生まれないので、男は心配になって、つい、ついたてのすき間から中をのぞいてしまった。すると、女は、大蛇の姿になって、平仮名ののの字の形になったり、速記文字ののの字の形になったりしていた。何だかんだで男の子が生まれ、女は子供を抱いて、産み部屋から出てきたが、女は、約束を破って産み部屋を除いたので私はここにいられなくなってしまった。子供は置いていくからあなたが育ててください、と言って立ち去ろうとするので、男はそれを引きとめて、私が育てるにしても乳が出ないので、もうしばらくいてくれと頼むと、では、この子のためにこれを置いていくから、この子が泣いたらこれをなめさせてくれと言って、自分で左目をくり抜いて男に渡し、大蛇の姿に戻って、山の沼に戻っていってしまった。

 子供が泣くと、男は、母親の目を与えて泣きやませていたが、次第に目玉は小さくなり、しまいにはなくなってしまった。そうなると、子供は、なだめてもすかしても泣きやまないので、男は子供を抱いて、山の沼のほとりに行って、子供の鳴き声を聞かせると、女が湖の中から姿をあらわし、懐かしそうに子供を抱いた。このときばかりは、子供にも何かが通じたと見えて、さすがに泣きやんだが、男から事情を聞くと、女は悲しそうな顔をして、目はあと一つしかないので、これをこの子にあげてしまっては、私は夜も昼もわからなくなってしまいます。お前様は、明け六つと暮れ六つに鐘をついて知らせてください、と言って、右目をくり抜くと、子供に持たせて沼に帰っていった。

 男は、約束どおり、五年も十年も毎日鐘をついたが、息子が大きく育ったのを見て、母親のことを言って聞かせると、息子は、山の沼まで母親を迎えに行き、座敷に床を延べて、何くれとなく世話を焼いたという。

 


教訓:息子が生まれたときは、卵だったのだろうか。

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