表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

みちのダンジョン

作者: とおエイ

名工が鍛えた武器と整備兵上がりの爺さんに鍛えられて整備士一筋のおっちゃんが丹精込めて整備した車は同じくらいつよいと思います。

 ぼくの住む山奥の村は、ほんとうに何もない場所だ。

 だからこの村に住んでいて、一番大事なものは「町へ続く道」だ。スーパーも病院も、全部あの道を通らなきゃ行けない。

 でも、その道が……ある日突然、ダンジョンになった。


 最初の頃は、ただ道にゴブリンや狼なんかが出てくるだけだったから、村の大人たちも「サルやクマと同じでいいら」なんて言って、狩猟免許を持ってるおじさんたちが山の害獣を駆除するみたいにモンスターを追い払っていた。

 何かあってもしばらくすると壊れた道も直ってたから「これなら整備しなくていい。ありがたい」なんて言ってた。

 町へ通勤してるおじさんたちも、「今日はゴブリン挽いちまったよ」なんて、酒の席で笑い話にしていた。


 けれど、だんだんと様子が変わってきた。

 モンスターは明らかに強くなり、車が傷つけられたり、人が怪我をすることも増えていった。

 誰もが「そのうち元に戻る」と思っていたけれど、全国的にダンジョンの被害がニュースになって、法整備が始まったころからこれはもう元に戻らないんじゃないかってことになってきた。

 町に避難しようにも、あちらはあちらで街にできたダンジョンの対策で手いっぱいらしい。

 ニュースでも、住宅地が丸ごと使えなくなったと流れていた。

 ぼくらの村のように、道だけがダンジョンになったのは例がないけど、まだマシな方だ、と誰かが言っていた。

 そんなニュースとは関係なく雑貨屋さんには商品が入ってきたし、ネットもつながったから僕らは今まで通りの生活を送っていた。


 でもダンジョンができてから1か月くらいすると大人たちは何かを隠すようになった。

 夜遅くまで村の集会所に集まり、ぼくらが近づくと慌ててドアを閉めた。

 道具や食料の箱を運ぶ姿も見たけど、何に使うのか教えてくれない。

「お前たちは家にいろ」「早く寝ろ」

 そう言って、ぼくらを遠ざける。

 大人たちの顔がどんどん暗くなっていった。

 そして、そのころから友達が1~2週に1人くらいづついなくなっていった。

 元々ほとんど生徒がいなかった僕らの小学校はあっという間に半分以下になってしまった。

 理由を聞いても転校したとしか教えてくれない。それならとメールを送ってもエラーで帰ってきてしまう。

 父さんも母さんも、前みたいに「大丈夫だ」なんて言わなくなった。


 ある晩、僕は集会場にこっそりやってきた。

 中からは大人たちの声が聞こえてくる。

「……次は、おまえんとこの番だろう」

「そうだな……」

 それが自分だと気づいたとき、僕は怖くなって逃げだした。


 走って家に帰って、布団にもぐりこんで震えていたらいつの間にか眠ってしまったらしい。

 空がまだ青くもなっていない、朝四時。

「……起きろ」

 父がぼくを揺り起こす。返事をする暇もなく、腕を強くつかまれて家の外へ引きずり出される。


「やだ、やだよ、お父さん!」

 どれだけ暴れても、父の手はまるで鉄みたいだった。

 村のはずれ、入るなと言われていた古い倉庫の前まで引っ張られる。


 暗闇の中、巨大な影があった。


 ピックアップトラック。

 車体は鉄骨でぐるぐるに補強され、ルーフからは槍のように尖った鋼材が2本も突き出している。ボンネットからルーフに向かってディアガードの代わりか斜めに鉄骨が取り付けられ、フロントガラスも窓も、鉄格子の隙間からかろうじて外が見えるようになっていた。

 荷台には、戦車みたいなエンジンが鎮座していて、低いうなり声を上げていた。

 タイヤも僕の身長くらい大きい。

 なんだこれ。


「乗れ」


 気づけば、ぼくは助手席に座らされていた。

 父は無言でハンドルを握る。


 朝もやの中、「ダンジョン」になった村道が見えた。

 父は何も言わず、アクセルを踏み込む。


 エンジンが、怪物のうなり声のように吠えた。

 二つのエンジンの音が重なり、車体は怒鳴るように加速する。


 あっという間にダンジョンが目の前に迫る。


「行くぞ」


 父の声と同時に、車は一気にダンジョンへ突っ込んだ。

 小さな緑色の人影――ゴブリンみたいなものが、フロントの鋼材にぶつかってルーフを超えて後ろへ弾き飛ばされる。

 クマみたいな毛むくじゃらも、犬みたいなやつも、次々と轢かれて後方へ消えていく。


「じきにボスだ。踏ん張ってろ」


 ギアをトップに入れる父。車はさらに加速する。

 前方に、トカゲみたいな顔に羽根を生やした何かが立ち塞がった。


 父は赤いボタンを押す。

 エンジンの咆哮がさらに高まり、金属を擦るみたいな音になった。

 さらに加速した車の屋根から伸びた2本の鋼材の槍がまっすぐ竜のどてっぱらに突き刺さり、固定が外れて竜とともに道路に転がる。

衝撃で車がシェイクされる。僕はシートベルトをつけたまま振り回された。


 黒い霧がはじけ、車体が一気に抜ける。

 気づけば、道の向こう側――ダンジョンの反対側の入り口にぼくたちはいた。


 体が熱い。手が震えている。


 ……ピコンピコンとどこからか絶え間なく効果音がなっている気がした。

 僕はレベルアップした。

蛇足的解説  

子供たちへパワーレベリングの図。

友達がいなくなるのはレベルアップした子が一般の子と遊ぶのは危ないから。

教えないのは知ったら絶対自分でダンジョンに入ったり友達と遊ぼうとするから。 

期間が開くのはボスがリポップするまでの間。 

車は村の共有財産。整備兵だった爺さんにしごかれて若いころから村でただ1軒の整備工場をやってる三郎さん(V8信者)が丹精込めて整備してくれました。

パパたちが当番制で雑貨屋の仕入れなんかに使ってます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ