今日も花が咲きました。1
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12月31日。小雪。一般的に年末として知られるこの日。年間平均気温19℃と瀬戸内に面した温暖な土地であるY県Y市。しかし、この日は寒波の影響でチラチラと雪が舞っています。
町も寒さの影響か閑散としています。歩いているのは犬の散歩をしているおじいちゃんくらいです。
朝10時15分。家の前を通り過ぎるのはX高校のオカルト部に所属し副部長を務めている1年生の男子真田高雅。どちらかといえば目立つ方ではない彼は寝坊したのか、ものすごい速度で自転車を漕いで通り過ぎていきました。
冬休み中も彼はやることがなく毎日この道を通って高校へ足を運んでいます。そして、そんな彼を見るたびに私は罪悪感でギュッと胸を締め付けられるかのように痛くなります。
私は彼が通り過ぎるのを見届けると家の中に入ります。古くからある日本家屋。かなり広い平屋となっていて、物置となっている部屋がいくつもある。最近1人居候が増えたので掃除したけれど。
家に入りまっすぐに自分の部屋に向かう。床をするほど長い髪が歩くたびに擦れ、毎度邪魔だなぁ。と思う。そろそろ髪を整える時期かな。
家の右奥にある書斎が私の部屋。そこに入り、自分の机に向かいます。机には何も書かれていない見開き真っ白のページが開かれた漫画が一冊。いや、元漫画と言った方がもういいのかもしれません。
それどころかこの本は表紙なども全てまるで元から何も描かれていないかのような真っ白です。その本を手に取り私は溜息をつきます。そして、隣にあるパソコンへ目を向けます。そこにはとある小説のメモが書かれたテキストファイルが開かれています。
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『今日も花が咲きました』byアマテラスちゃん
都市伝説とは??
都市伝説。それは古今東西にはびこる噂話。怖いものから面白いものまでなんでもある。インターネットが広まる前から存在はしていたが、パソコンなどが大衆に行渡るようになってから急速に広まって行った。
この話を読んでいる方の世界で有名な都市伝説といえば「きさらぎ駅」「ヒトガタ」「ジェフザキラー」「スレンダーマン」などがあるだろう。これらの名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか?
この物語は今読者がいる地球とはちょっと似て異なる隣の地球でこの都市伝説の真相を解き明かそうと動いている高校生達の物語だ。
え?都市伝説がその世界にもあるのかだって?うん。もちろんあるよ。同じ都市伝説もあれば少し違う部分もあると思う。
これは同じだなとかこんなのもあるのか!など違いを見つめながらぜひ楽しんでいってほしい。
では、見ていこうか。
第1話「ジェフ・ザ・キラーと白い顔」
第2話「つちのこ探し」
第3話「人類の業を集めた動画」
第4話「くねくね」
第5話「エレベーターで異世界に行く方法1」
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メモとして残せたのはこれだけ。100話近くあった小説もあの時に消えました。せっかく出来上がった漫画も真っさらに。
フーッとため息をつきながらなんとなしに天井を見上げます。目を閉じ思考を張り巡らせ自身の紡いだ思い出を思い起こそうとするけれど、靄がかかったようにそこだけ見えてきません。
「現実でも接触するべきですかね。彼に。」
そうボソッと私は呟き、窓から学校の方を眺めます。海に面したX高校は威風堂堂と佇んでいます。屋上に副生徒会長の証明写真をそのまま印刷したかのようなクソみたいな立派な旗を掲げて。
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(やべぇ、寝坊した!!)
駐輪場に急いで自分の自転車を止め俺、高雅は走り出す。こんなことになるなら友人に遅くまで付き合うんじゃなかった...。
(確か10時から部活の報告会だったよな...!)
スマホの電源をつけると時刻は10時24分。副部長としてこれはなかなかの痛手だ。転けない程度に全力で走って部室のある3階に駆け抜ける。
「すみません、遅れました...!」
荒い呼吸を整えながら部室のドアを勢いよく開ける。するとオカルト部のメンバーが全員こちらを向いた。
「遅いよ。高雅くん。もう始めちゃってるよ。」
ホワイトボードの傍に立っていた現部長である高校2年生の姫夜が近寄ってくる。
「すみません...。」
「謝る暇あったら座って座って〜!こっちだよ。副部長の席は!」
姫先輩に案内され俺は入ってきた扉とは左右対称の位置にある椅子に座る。ここからだとオカルト部のメンバー33人が一望できる。
…。今こんなしょうもなさそうな部活なのに部員数多くないか?と思ったのではないだろうか。ああ、俺もそう思う。
最も元々は6人程度の小さな研究会だった。(姫先輩はその時からいた。)それがある日突然現実を書き換えられ、この人数になったんだ。
このX高校は元々全校生徒200人程度の高校だったのだが、ある事件をきっかけに全校生徒10倍の2000人越えの田舎では有るまじきマンモス校へと変貌したのだ。まあ、その分校舎なんかも豪華なものに書き換えられたのだが...。
俺がそんな事を考えている間にも姫先輩は説明を続けており、手をパチンと叩く。
「という事で、簡単にグループごとにこの冬休みで調べたことを発表してもらいます!まずは〜……。恋ちゃん達!何やら新しい子もいるけど、その子についても説明よろしくね〜」
「任せて!姫部長!美月、ラブちゃん!私たちがあっという発表見せてあげましょ!」
「おっけー!」
「ん……。何?」
といって後ろの方から3人立ち上がる。目をこすっている深緑の髪のやつは初めて見るが、あれが例のラブか...。頭から2本の角が確かに生えており恋がよく着るようなカジュアルなシャツにパンツスタイル。黒いドレスを最初会ったときは着ていたらしい。
グレーの長い髪をなびかせホワイトボードの前に来る恋。首元には猫耳のついたヘッドフォンをかけている。その後から綺麗な漆黒色の髪の美月と眠たげなラブが歩いてくる。
「じゃーん!私たちが調査したのは隣のI市にある四龍橋の幽霊よ!」
無駄といっても過言ではないくらいにアッパー系な恋とマイペースでダウナー系の美月。2人が話し始めるとみんなが話しに聞き入る。これがヒロインズの魅力か。そして、その側で眠たそうに欠伸をするラブ。右の頬を机に当てて寝ていたのか当ててたのかリンゴのように赤くなっている。
恋達のグループを含め、10グループくらいの発表が1時間ちょっとで終わった。ちなみに俺は姫先輩と友人と共に地元にある井戸の伝説について聞き込みをしたりしていた。
みんなの発表が終わり姫先輩が締めの言葉を紡ぐ。
「よし!みんな色々まとめてくれたし、次の創立祭の準備は順調そうだね。では、オカルト部の定例報告会は終わり!これから文化ホールで忘年会だーっ!!」
「「「わーっ!!!」」」
姫先輩がみんな行くよ〜!と他のオカルト部のみんなを誘導しながら共に文化ホールへ向かう。
恋や美月も喜びながらみんなと共に向かっていく。呑気なもんだな。そんなことを考えながら恋と美月が出て行くのを横目で見ていた。
みんなが移動し終わるまで俺は部室に残っていた。途中、同じオカルト部の女子部員に話しかけられたが、友人が、
「やめとけ!やめとけ!今あいつは付き合いが悪いんだ。」
とまるで、とある殺人鬼の同僚かのような台詞を言い俺からその子達を離した。偶然だろうけどナイスだ。友人。
部室から俺ともう1人を除いて去っていく。残っているのは俺と1人の少女。そいつは机に腰掛け脚と腕を組み、こちらをジッと睨み付けている。そんな彼女に対し、俺は話しかける。ずっと話したかった。こいつは、知っている。
「君が、ラブ・スタースカイだな...。」
「そういうあんたが、恋の気になってる相手、タカマサ...。」
「ん??」
なんだろう。なんか聞くべき事ではないことを聞いてしまった気がする。本当のことかは置いておいて。