一歩間違えば破滅していた私の異世界転生ライフ
あっぶねぇ~!!
これがまず今出てくる感想である。
私は今、豪奢なお屋敷の客室で、一人ベッドに横になっている。
もちろん家主一家ではない。
ではなぜ?という話になると、今日の昼まで時間は遡る。
私の父は明確に豊かな家のお坊ちゃまというか、まあ、そういう人だった。
ただしウチは愛人宅である。
父は一か月に二度ほど泊まりに来る程度で、その間私は両親から離れて近所のオバチャン宅に泊めてもらっていた。
何せ普通の庶民の家なのだ。
両親がギシアンしまくってる家で寝泊りなんて冗談じゃない。
その辺をぼかしてお願いしたら、オバチャンは、狭い家だけど寝床はあるからねえと同情して泊めてくれるようになった。
我慢できなくなった四歳児くらいの頃からである。
なお、私は異世界――日本で生まれた記憶がその頃からあった。
だから、ウチが愛人宅だと分かっていたし、母が愛人業でメシ食ってるとも分かっていた。
この世界の文化がどうか知らんけど、適当に父が持ってきた縁談で結婚させられたりするんだろうなと諦めもついていた。
そんな感じで諦め人生を送っていたんだけど。
普段なら朝にはいなくなっている父が、珍しく朝になってもまだいて、今日は一緒に出掛けよう、大事なものは全部持ってきなさいと言ってきた。
なので私はオバチャンに作ってもらったぬいぐるみをカバンに入れて両親とともに馬車に乗ったわけだ。
そこで父が貴族だったと知った。
なぜ、って。
貴族街に入って、明らかに高級住宅街みたいなところに入っていったら予想はつくじゃないか。
で、着いた屋敷で、私より二歳くらいは年上に見えるお嬢さんに引き合わされて。
「お前の新しい母親と妹だ。仲良くしなさい」
などと宣う父に、私は反射的に爪先を狙って全体重を乗せて踏み抜いた。
「いづっ!?」
「お父さん。新しいってどういうこと?離婚したの?」
「いや。妻は先日病気で」
「はぁ~!?じゃあ喪も明けてないよねぇ!?
なのに再婚するって私たちのこと連れてきたの!?
心の整理つくわけないのに仲良くしろとかよく言えるね!?
ねぇ執事さん?お父さんってこの家の当主ですか!?」
「いえ違います」
そこから違うのかよ!
ウンザリ顔で両親を見上げる。
「お父さんに再婚とかいう権利ないじゃん。
じゃあそこのお嬢様が暫定当主じゃない。
お父さんの血筋じゃなくてお父さんの奥さんだった人の血筋が本家なんでしょ。
お父さんがよそで作った子供の私とかお母さんには何の意味もないじゃん。
なんでお家乗っ取りしようとしてるの?
ねぇ執事さん、これえらい人に言ったら大変なことになりますよね」
「なりますね」
「大至急言いましょう」
「先ほど既に」
「仕事が早くて助かります」
それから雪崩れ込んできた兵士さんにより両親は拘束され、えっさほいさと連れてかれた。
私はまだ十歳ということもあって無罪放免。
じゃあ孤児院行きかなー、頑張って生活してかなきゃな、と決意を固めていたところ、お嬢様から待ったが掛かった。
「あなたは頭がいいみたい。
安い労働をすると分かっている道よりも、この屋敷で働いてみない?」
なんて言われて。
「一晩考えてみてちょうだい」
と客室を与えられた。
ぶっちゃけ考えるも何も望んでもないことですとしがみつく所存。
ていうかさ。
一歩間違えたら私って、ずるいずるいってなんでも略奪する義理の妹みたいになるかもしれなかったわけか。
執事さんがファインプレーしてて、私自身も転生して大人な中身だったから見逃してもらえただけで。
セットで連行されて子供だけど処刑しとくか~みたいな扱い受けてた可能性は高い。
そう考えると、偶然と奇跡に圧倒的感謝。
とりあえず今日はこの前世ぶりのふかふかお布団で休ませてもらおう。
事情聴取とかもあってちょっと疲れてるし。
それから。
私は見習いメイドとして働くことになり、半日は伯爵家のメイドとしての気品だとか常識だとかを教えてもらい、もう半日は初心者でもできる!洗濯関係の仕事をして過ごすようになった。
元々洗濯は家でもしてたし、あとはその手付きを丁寧にするだけ。
どうもこの世界、魔法と魔力を使った高度な文明があるようで、蛇口を捻ると貯水タンクから水が出てくる。
なので洗濯も楽なのだ。
その洗濯とて、足でペダルを踏むとドラム的なのがまわる洗濯機がある。
手洗い以外はこれでザクザク出来るので体力は使うけど楽は楽なのである。
そういう環境なのでいっぱい仕事をして勉強をして、賄いをガッツリ食べて健康的に寝る生活をしていたらあっという間に五年が過ぎて。
お嬢様はお婿さんを迎えた。
その頃には私も洗濯メイドを主としつつも来客時の御用メイドもするようになっていた。
お嬢様はあれから色々考えて、誠実さをメインに考えたお婿さんを迎えたらしい。
私もそれには賛同する。
私の父みたいなのがお婿さんだと絶対要らん苦労をする。
仕事が出来てもヨソに種ばらまいたり事実誤認したりするようなのはちょっとな。
そうして迎えたお婿さんは大層誠実そう且つ人当たりの柔らかな人なので、お嬢様……いや、奥様のことは任せて大丈夫そうだ。
もしもダメそうならその時は、半分血が繋がってる義理から陰から何かしらして追い出すくらいのことはしていたと思う。
殺しゃしない。というか前世が平和だったのでそれは無理だ。
なので、イビりにイビり倒して離婚に持っていこうかなと。
思っていたけど大丈夫そうなのでほっとしている。
私は?と思うだろうけど、結婚はまだまだ先でもいいかなって思ってる。
今はまだ仕事が楽しいし、男の子との出会いもないし。
まあ同僚の中で恋愛すればいいんだろうけど同い年くらいの子ってやっぱまだそういう感じじゃないからさ。
今はまだ、子供と大人の半々の時間を楽しみながら、半分姉の奥様を見守ろう。
そんなことを考えながら、どう使ったかを考えずにお色気ランジェリーを丁寧に手洗いするのだった。