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36.親愛の証明


新婦姿のカトレアが、ゆっくりと階段を下りて来ていた。

体の線に沿って仕立てられた新婦服と、満月に似せて作られた飾りが付いた首飾りをし、長いベールを頭から被って、その上から鉄で作られた葉が幾つも並んだ冠を着けている。

それら全てがカトレアにぴったりと当て嵌まっていて、勇は思わず見惚れた。

階段を下り終わり、カトレアは勇の顔を覗き込んだ。

「イサム?」

「……」

呼び掛けるも何の返答もない事を怪訝に思って、カトレアは首を傾げた。

勇がカトレアに見惚れている事に気が付いている使用人達は、その様子を微笑ましげに見守る。

生暖かい視線を向けられている事に気が付き、勇は誤魔化す様に咳払いしてから返答した。

「ごほんっ。……何でもない。行くか」

「? えぇ」

勇は自然と手を差し出したのを見て、カトレアはそっと手を重ねる。

そして、勇とカトレアは満月に迎えられ、屋敷を出て会場へと向かった。

会場は幾つもの篝火が惜しみなく設置され、昼間の様に明るく辺りを照らしている。

招待に応じた参列者達は談笑しながら、勇とカトレアの到着を待っている。

そして、二人の到着を知らせる声が辺りに響いた。

「イサム・カジロ侯爵様、並びにカトレア・ケリー令嬢のご到着です」

満月の明かりと篝火の灯りに照らされ登場した二人を、参列者達は静かに出迎えた。

勇とカトレアは腕を組んだまま、神父が待つ教壇に向かって用意された道をゆっくりと歩いていく。

そして、教壇の前に二人が立つと神父が口を開いた。

「これより、イサム・カジロとカトレア・ケリーの婚姻式を執り行います」

そう言って、神父は二人の前に魔法陣が描かれた石碑を差し出す。

「初めに、お二人の絆を女神ティアナ様と参列者の方々に示して頂きます。お二人共、魔法陣に手を置き、魔力を注いで下さい」

神父が言った言葉を聞き、参列者達の間に驚きの声がひそひそと広がる。

そんな声が上がるだろうと予想していた勇とカトレアは、段取り通りにそっと魔法陣に手を置き、魔力を注ぎ始めた。

普通の魔力を注ぐカトレアに対し、緊張した顔付きで慎重に魔力を注ぐ勇。

やがて、魔法陣が要求する魔力量に達すると、魔法陣から火の柱が立ち始めた。

「あ、青い炎……!?」

参列者の一人から驚愕の声が上がった。

青と赤の炎が絡み合って一本の火の柱となる姿を見て、参列者達は驚きながらも、その光景に見惚れた。

「この儀式を経て、お二人の絆は証明されました。異なる炎同士がお互いを尊重し合い、引き立てる姿は正にお二人の絆の形と言えるでしょう」

神父の言葉を聞き、勇とカトレアは魔法陣から手を離した。

魔法陣から魔力が注がれなくなって、火の柱が徐々に消えていく。

一つ目の儀式を無事に終えられた事に、勇は気付かれない程度にそっと息を吐いた。

そして、次の儀式に移る。

「次に、お二人の繁栄を願って、女神ティアナ様より祝福を授かりましょう。女神ティアナ様の座す《おわす》天へと届く様に、お二人で弓矢をお放ち下さい」

神父が語る横で、勇は矢先が丸い矢を、カトレアは式典用の弓を受け取り、

教壇から振り返って、空高く向けて二人で弓を構える。

ぎこちなく弓矢を構えるカトレアを後ろから抱きしめる形で勇が支え、限界まで弦を引き絞る。

「良いか?」

「……大丈夫よ」

矢を放つ瞬間を小さく打ち合わせて、引き絞った弦をほぼ同時に離した。

そして、矢は空高く飛んで行き、設置された篝火よりも外の方に落ちていった。

予想以上に飛んでいった矢を見て、参列者達は無言で驚いて目を見張る。

余りに遠くに飛んでいったため、その付近に何も居ない事を願ったほどだった。

「お二人の願いは、間違いなく女神ティアナ様に届きました。女神ティアナ様の祝福を受け、お二人の未来は限りなく明るいものとなる事でしょう」

唖然とする参列者達に対して、結果を知っていたかの様に、神父はニコニコと微笑みながら言った。

二つ目の儀式が終わり勇はふっと短く息を吐いたが、最後の儀式を思って眉間の皺を深める。

カトレアが弓を返す様子を横目に見ながら、勇は緊張して目を泳がす。

そして、神父が次の儀式内容を告げる。

「それでは、次に。お二人の愛を女神ティアナ様に証明して頂きます。口付けをし、お二人の愛が不滅である事をお誓い下さい」

遂にこの時が来てしまった。

勇は震える手でカトレアのベールを上げながら、口から心臓が飛び出そうなほどに緊張した。

口付けなどと言う行為を人に見守られながらするなど、勇にとっては耐え難いほどの羞恥だ。

日本の神前式なら三々九度で済むと言うのに……っ!

アロウティ神国の結婚式の内容を知った時に、カトレアから勇が知る神前式でも良いと言われたが、郷に入っては郷に従えの精神で、こちらのやり方に沿う事にした。

それに明らかな洋服で、日本の神前式を行うのは想像するだに合わない。

神社の息子として生まれた勇としては、和装無しに日本の神前式を行うのは許されない事だと思えたのである。

しかし。

他二つの儀式については文句はない。

だが、この口付けで愛を示すと言う儀式だけは納得がいかない……!

どうして人前で口付けなどしなければならないのか……!

結婚式前から勇の頭を悩ませていたのは、全てこの儀式についてだった。

ただでさえ友人関係のまま結婚する事になったのに、何を好き好んで人前で口付けなど……。

「イサム」

そっと呼ばれて、勇はハッと我に帰った。

口付けの儀式に対する文句を心中で言いながら、カトレアのベールを上げた形のまま勇は固まっていた。

その様子を見て参列者達は怪訝そうに見守っている。

勇は慌ててカトレアのベールから手を離し、行き場に困った手を宙に泳がせた。

「肩」

カトレアが短くそう言ったのを聞いて、勇は言葉に従って両手をカトレアの肩に置く。

それと同時に、ベールが上がって露わになったカトレアの顔が視界に入った。

仄かに照らされたカトレアの顔は、いつも以上に綺麗に見えて、大きく心臓が跳ねる。

カトレアと目が合うと、より一層と鼓動が早まり息苦しくなって来た。

カトレアの肩に、じっとりと汗をかいた手を置いてから数分。

未だに動きのない勇を参列者達がじれったそうに見つめる。

その視線にも気が付きながら、勇はカトレアをじっと見たまま動けないでいる。

そんな勇を見兼ねて、カトレアが静かに聞いた。


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