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28.残ったものは


――……西方防衛戦が開始されて一ヶ月後。

西方の各地で暴れ回るサザギミ軍を、勇が率いる遊撃隊が制圧して回った。

その中には、ミモマを侵攻してきたサザギミ軍の部隊も有り、勇を奴隷にしようとしたサザギミ軍部隊長の一人は、勇の手によって討ち取られた。

それだけに止まらず、勇はサザギミ軍の幹部らしき人物たちを積極的に討ち取り、サザギミ軍の統率力を確実に奪っていった。

司令官を無くしたサザギミ兵の殆どは、勇の猛攻っぷりに恐れをなし各地に敗走。

あるいは自暴自棄になってアロウティ兵に襲い掛かり、返り討ちにあった。

逃げ出したサザギミ兵は各地を捜索し、降参する者は捕虜として拘束。

抵抗する者はその場で首を刎ねた。

こうして、絶望的な戦況と思われたアロウティ軍は、一人の異世界人の存在で救われたのだ。

それと同時に、それまでアロウティ神国随一の騎士と名高かった

ルイス・ケリー侯爵の訃報はアロウティ全土へと広まった。

それでもアロウティ人は、勇と言う〝英雄〟の存在を心の支えにする事で絶望せずに済み、アロウティ軍もサザギミ軍に屈する事は無かった。

むしろ、ケリー侯爵の仇を取らんばかりに、アロウティ軍が奮戦したおかげでアロウティ神国は守られたのだ。

一方、侵攻してきていたサザギミ軍の殆どは、海向こうのサザギミ国に帰る事が出来ないために、多くのサザギミ兵が捕虜となった。

そして、西方防衛戦を開始して一ヶ月が過ぎた今。

勇は残兵の処理のために部隊と各地を周り、侯爵邸がある街・ミモマに戻って来ていた。

多くの捕虜を引き連れ、勇がアロウティ軍に引き渡しの作業をしている時に、一人の兵士が駆け寄って来て勇に声をかけた。

「カジロ様!」

声をかけて来た兵士に勇は一瞬だけ目線をやり、作業を進めながら応対する。

「緊急か?」

張り詰めた雰囲気を纏いながら問う勇に、兵士は緊張した様子で答える。

「い、いえ! そ、その……侯爵邸の方から使いが来まして……」

そこまで聞いて、勇は一瞬だけ作業する手を止める。

しかし、直ぐに再開し兵士に続きを言う様に促した。

「使いが何だって?」

「カトレアお嬢様がお戻りになったそうです……っ」

使いから受けた知らせを兵士から聞き、勇は顔をしかめる。

いずれは戻ってくるだろうと思っていたが、まだ戦争が完全に終わった訳では無いのに、何故、今。

そう思いながらも、自分には言う資格も無いとばかりに勇は首を振る。

勇は捕虜の引き渡し手続作業を終わらせ、ため息を吐いて兵士に言う。

「分かった。報告ご苦労。持ち場に戻ってくれ」

「は、はい……!」

勇の返事を受け取り、兵士は何故か嬉しそうにしながら持ち場に戻っていった。

その様子を見て勇は何とも言えない顔をする。

この一ヶ月で勇は、遊撃隊と言う名で直属の部隊を持たされ、部下を持つ様になった。

ミモマ防衛戦では指揮経験の乏しさを理由に、部隊長の名を冠した囮の役目を果たしたものの、ケリー侯爵領に散らばった残兵を処理する遊撃隊を組む事になってからは、

嫌でも部隊長の役割を担う様になった。

ケリーに代わる存在になる目的も有ったため、積極的に部隊を率いて処理に当たった訳だが、その過程でアロウティ軍内から羨望の眼差しで見られる事が増え、実にむず痒い。

勇は慣れない扱いに顔をしかめながら、帰還報告をしにアロウティ騎士団の駐屯地へ向かった。

「――……カトレアお嬢様が戻ったそうだ。一度、侯爵邸に顔を出してこい」

駐屯地で帰還報告をしていると、上官に突如としてそう言われた。

ケリーが戦死して、遺体をエディに届けた時以来、勇はケリー侯爵邸に立ち寄っていない。

ケリーの厚意で置いて貰っていたのだから、自分が我が物顔で居座る事は出来ないと思ったからだ。

その為、ミモマに居る間は駐屯地の宿舎で寝泊まりし、任務中は野宿していた。

「一介の兵士が無断で侯爵邸内に入る訳にはいかないでしょう」

一ヶ月近くも立ち寄っていない上に、カトレアから招待された訳でも無いのに足を踏み込む訳にはいかない。

生真面目らしい勇の返答を聞き、上官は困った様子で言う。

「侯爵邸から、態々使いが来たって言うのに無視するつもりか? それに、カジロはカトレアお嬢様の護衛に当たっていた筈だろう? 職務を放棄して、こちらに来たんだから、その落とし前はつけるべきじゃないか? ケリー中佐の事もあるし、カトレアお嬢様がここへ戻って来た意味も知るべきだと思わないか?」

次から次へと疑問符付きで正論を言われ、勇は口を噤む。

返す言葉も無いとはこの事か、と勇は内心で思った。

上官は続けて言う。

「次の任務まで時間はある。今の内にカトレアお嬢様と話を付けてこい」

侯爵邸へ行く事を薦めるのではなく、今直ぐに迎えとばかりに言われ、勇は観念して息を吐いて答えた。

「……分かりました」

「直ぐだぞ?」

「はい」

真剣な面持ちで念押しされ、勇は苦笑して答えると、その場を後にし、馬を借りて侯爵邸へ向かった。

程なく到着し、勇は神妙な面持ちで侯爵邸の正面玄関を叩く。

暫くすると扉が開き、中から執事長であるエディが出迎えてくれた。


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