24.神代勇の有効利用
サザギミ王国軍の進攻合図が街・ミモマの外から鳴り響いた。
それを聞き取った勇は二百の兵を引き連れ、街の北入り口でサザギミ軍の到着を待つ。
サザギミ軍の歩兵部隊が勇達を見つけ、その兵の数を見て鼻で笑った。
たった百の兵が、約二十倍に匹敵する二千近くの兵力を前にして、何が出来ると言うのか、とばかりに。
無惨に捻り潰し、踏み躙ってやろう。
そんな残忍な思いを目に宿し、サザギミ部隊は迫って来る。
勇の元に集められた兵達は恐怖と緊張から滝汗を流す。
策戦が失敗すれば自分達は無惨に殺されるだろう。
その未来が目の前を掠めて、より強大な恐怖となっていく。
そして。
「撤退ー!!」
サザギミ軍にも聞こえるほどの声量で告げられた指示を受け、アロウティ部隊は街の中に駆けていく。
その様子を見たサザギミ部隊は。
「追えぇえ!! 一人たりとも生かして帰すなああ!!」
圧倒的な兵力で蹂躙する事が目的の様に、歩兵達が次から次へとアロウティ部隊を追って街の中へ入っていく。
すると、サザギミ部隊の歩兵達が入って来た北口近くの建物が、突如瓦解した。
付近に居たサザギミ歩兵や騎兵が揃って生き埋めになり、先を走っていたサザギミ歩兵達から動揺の声が上がる。
更に各地から次々と建物が崩れる音が響いていく。
「引けー!!」
その声が響くと同時に、大量に雪崩れ込んでいたサザギミ歩兵達の目の前にも建物が中間から崩れ落ち、完全に瓦礫に取り囲まれてしまった。
逃げ道が完全に塞がれてしまっている状態だったために、殆ど為す術なく多くのサザギミ歩兵は閉じ込められたのだ。
運良く瓦礫よりも先の方を進攻していたサザギミ歩兵達は、後ろで起こっている状況を目にして困惑した。
逃げ場がなく、前に進むしか道が無くなったサザギミ歩兵達は、目の前に居たアロウティ歩兵に牙を剥いた。
すると。
「投石ー!!」
崩れた建物の一部が、サザギミ歩兵達に向かって降り注いだ。
それは、瓦礫に閉じ込められたサザギミ歩兵達にも降り注がれ、サザギミ歩兵達は次々と断末魔を上げて死んでいった。
降り注ぐ瓦礫の猛攻から辛うじて生き残れたサザギミ歩兵の一部は、アロウティ歩兵に斬りかかる。
アロウティ歩兵は真っ正面からの戦闘を只管に避け、投石を繰り返し反撃した。
投石が間に合わず、斬られてしまうアロウティ歩兵も居たが、着実にサザギミ歩兵の数は減っていく。
しかし、それでもサザギミ軍の兵力は圧倒的に多い事には変わりない。
予想外の反撃を食らい、面食らったサザギミ軍も段々と平静を取り戻しつつあり、街の中へ進攻出来る道を探して敵騎兵が走り回っている。
その様子を建物の屋上からアロウティ弓兵が察知し、火の矢を撃ち込み、馬の動揺を誘い、探索に遅れを生じさせた。
しかし、アロウティ弓兵の存在を認知した、サザギミ弓兵と魔法兵士が反撃。
高低差の影響でアロウティ弓兵の方に理があるものの、数の差で押し切られそうになっていた。
混沌とする戦場の中、ひっそりとサザギミ騎兵の一兵が断末魔を上げ倒れ込んだ。
その事に誰も気が付かず、戦闘が繰り広げられる中、サザギミ騎兵の一人が、サザギミ騎兵達に向かって突進し、斬りかかった。
「これもアロウティ軍の仕業か!?」
突如として斬りかかって来た自軍の一人の騎兵の姿に、部隊長に相当するサザギミ兵が動揺の声を上げる。
「あの騎兵を殺せ!!」
サザギミ部隊長の一人の指示を受け、敵の騎兵、歩兵、弓兵、魔法士を問わず攻撃した。
そして、槍を持ったサザギミ騎兵の一撃が、裏切ったサザギミ騎兵の頭を捉えた!
……と、思いきや。
槍を持っていた筈のサザギミ騎兵は、いつの間にか馬から転げ落ち、槍は裏切ったサザギミ騎兵が握っている。
突かれた瞬間に避け、槍の柄を掴みサザギミ騎兵を馬から引きずり落としたのだ。
そして、馬から落とされたサザギミ騎兵は、無防備になった所を裏切ったサザギミ騎兵に首を槍で突かれ絶命した。
「……もう良いだろう」
そう言いながら、裏切ったサザギミ騎兵は甲冑を乱雑に脱ぎ、地面に落とす。
甲冑の中に潜んでいた裏切り者の顔を見て、サザギミ軍は騒つく。
「なっ、何故!? 何故、イサム・カジロがここに居る!?」
驚愕の表情で言うサザギミ部隊長を見て勇は、今回の戦闘に少なからず自分の存在が影響している事を悟り、辟易した。
「狸親父の言う事が当たっているとは思いたくないが……」
勇がここに居る事に驚愕しているサザギミ軍を見ていると、事実として受け止める他ない。
尤も、今はそれどころではないのだが。
勇は馬の手綱を握りながら、槍を片手にサザギミ部隊長の方を向いた。
「俺は、俺の役目を果たす」
「グゥッ……! 貴様一人で何が出来る!! 殺せぇえ!!」
サザギミ部隊長の命令を受け、サザギミ兵達は再び勇に牙を剥いた。
だが、勇はその全てを見切り、殆どの攻撃を槍や手綱捌きで躱し、次々とサザギミ兵達を討ち取って行く。
兵力では勝っていた筈のサザギミ兵達の一部は、勇の猛攻を目の前に恐慌状態に陥り始め、その手から武器を落とし始めた。
「ひいぃい……! い、異世界の化け物……!!」
馬上から見下ろす勇の鋭い眼光だけで戦意喪失し、逃げ出す者まで出始める。
化け物と称される事に怒りを覚えながらも、この時ばかりは都合が良いと思って自分を納得させながら勇は戦い続けた。
武器を振るい、敵の返り血を浴びながら勇は思う。
囮の役目は十分に果たせそうだ……――




