表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/40

20.死地へ行く理由は

「今、ここで報告しろ!」

「っ、はっ!」

アーノルドの指示を受け、臣下が跪いて言った。

「八日前より、西方のケリー侯爵領及び伯爵領の海岸より、サザギミ王国軍が上陸! その数、凡そ一万……!」

「一万……!?」

北方攻めの時とは桁違いの兵力を聞き、勇の嫌な予感は的中した。

奴らの狙いは、ケリー領だったんだ……!

元より、最前線と呼ばれる程にサザギミ王国軍からの猛攻を受けて来たケリー領。

その理由はサザギミ王国から最も近い土地であるからだ。

この土地を占領すれば、アロウティ神国の侵略の足がかりになるのは言うまでもない。

しかし、それは当然アロウティ側にも分かっている事で、

この土地は国随一の騎士であるケリー一家が代々、守護して来た。

ケリー一家のみならず、周辺の領地も高い防衛力を備えていたため、

四年もの間サザギミ王国からの猛攻に耐えてきたと言えた。

それが分かって居ても尚、サザギミ王国軍は頑なにケリー侯爵領への猛攻を諦めなかった。

ここさえ手中に収めれば、アロウティ神国を侵略する事など容易いと考えたからだろう。

事実、ケリー領がある西方の土地は防衛力に優れているが、他の領地はそれほどでもない事が北方攻めで証明されてしまった。

東や南も程度は変わらない。

逆に言えば、ケリー侯爵領を圧倒的な兵力で抑え込んでいる間に、他の領地から攻め入れば、アロウティ侵略は更に容易くなるだろう。

にも関わらず、先に北方を攻めて来たのは不可解だったが、

首都攻めを匂わされて、結果的に騎士団の数が北方や首都に集中し、西方への意識を奪われてしまった。

急ぎケリー領に戻る事を決意した勇は身を翻す。

「イサム! 待つんだ!」

しかし、側に居たアーノルドに腕を掴まれ引き止められてしまい、勇は怒声を上げた。

「離せ!! 今直ぐに向かわないと……!!」

「分かってる!!」

思わぬ言葉がアーノルドの口から飛び出て来て、勇は驚きで口を噤んだ。

静止した勇を見てからアーノルドは冷静な様子で言った。

「ケリー領に戻る事を止めるなんてしない。ただ、君を今の装備のままでは行かせられない。万全の準備を急ぎ整え、ケリー領に向かってくれ」

勇にそう告げた直後、アーノルドは臣下に向かって勇の装備を整えさせるように命を下す。

命を受けた臣下は急いで準備に取り掛かり、勇は城内を連れ回された。

装備や食糧、軍馬まで揃えられ、出発の準備が整った頃になって

皇帝に謁見しに行っていたアーノルドが勇を見送りにきて声を掛ける。

「イサム。北方に向かわせた騎士団に急ぎ首都へ戻るように伝える指示を出したが、その騎士団が西方に到着するまでに二週間は掛かる見込みだ。先ほど受けた報告通りなら、敵の数は北方攻めとは比較にならないだろう。幾ら軍神と讃えられる君や、我が国随一の騎士ケリー侯爵でも苦戦するはずだ」

悔しげに顔をしかめながら、拳を握って言うアーノルド。

死ぬ確率の高い戦場に勇を向かわせようとしている事実に、アーノルドは胸を痛ませた。

アーノルドに出来る事は生き残って、国を導く事であり、積極的に血を流しに行くことではない。

他人に血を流させる事を自ら願う事こそが、アーノルドに出来る事なのだ。

それが例え、友人でも。

「それでも……それでも頼む! 我がアロウティ神国を守ってくれ!」

そう言ってアーノルドは頭を下げた。

我が国の為に命を張ってくれ。

勇とは縁もゆかりもないアロウティ神国を守る為に、いざとなれば死んでくれ。

そう頼む事しか出来ない自分を、アーノルドは責めた。

勇が言った様に、結局は自分の代わりに血を流してくれる人形を求めざるを得ない現状を悔やむ。

勇に向かって頭を下げ続けるアーノルドの姿を見て、周りに居た臣下たちも揃って頭を下げた。

そんな光景を見て、勇は深い溜息を吐いてから軍馬に飛び乗って言う。

「俺は死にに行くつもりはない。生き残る為に戦いに行く。恩人を助ける為にケリー領に……戦場に向かう。ただ、それだけだ」

そう告げた直後、迷わずに勇は軍馬を走らせた。

自分を生かそうと、大嘘を付き、この世界に留まらせた、憎き恩人を救う為に。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ