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19.サザギミ王国の狙い


――……勇が首都アルベロを飛び出してから二週間後。

皇城の前にただならぬ様子の男が一人。

見張りの騎士が警戒体制を取る中、男は血や泥で汚れた顔を上げ言う。

「――……アーノルド皇太子殿下に目通り願う。俺は神代……イサム・カジロだ」

勇の顔と名乗りを聞き、騎士達は慌てて城内に話が通るように動いた。

暫くして、入場を許可された勇は城内入り口で待機する。

そして。

「イサム!」

慌てた様子で駆けてくるアーノルドの姿を見て、イサムは深々と頭を下げて言う。

「勝手な行動に走った上、アーノルド皇太子殿下への無礼な態度を取った事をお詫び申し上げます」

緊急事態だったとは言え、礼を欠いていた事を詫びる勇を見てアーノルドは不本意そうに答える。

「そんな事はどうでもいい。無事で何よりだ。

……早速で悪いが、君が見て来た事を教えてくれないか」

「……はい」

アーノルドに戦況を尋ねられ、勇は悔しげに顔をしかめながら説明し始めた。

結果から言えば、サザギミ王国の侵攻は勇の活躍も合って食い止められた。

ジアンダ領を初めとする、周辺の子爵領や伯爵領にまで侵攻を許してしまったものの、勇の機転や策戦が功を奏し、三千か四千人ほど居た殆どの敵を制圧。

制圧漏れした敵は船を使い海に逃げ出し、捕らえる事は出来なかったが事実上の勝利で終わった。

しかし。

勇は血が出る勢いで拳を握りしめながら、事実を告げる。

「ジアンダ領は……、ジアンダ家は、俺が到着していた時、既に……!」

その言葉だけでジアンダ家の人間が戦死した事をアーノルドは察した。

カトレアの婚家であったジアンダ家の小侯爵を助けに向かった勇にとって、間に合わなかった事実は己の不甲斐なさを感じざるを得ない。

ジアンダ領に到着して直ぐ、勇はジアンダ家の人間の行方を現地の騎士団に尋ねた。

勇の問いに対し、騎士団の人間は苦しげで悔しそうにしながら答えた。

領主様と小侯爵様は戦死された、と。

ジアンダ侯爵夫人や令嬢も戦闘中の混乱に巻き込まれ、行方不明となってしまい、恐らく何処かで亡くなられている。とも説明を受け、勇は愕然とした。

騎士団の案内でジアンダ家当主と、小侯爵……カトレアの婚約者の遺体を勇は確認した。

初めて見るカトレアの婚約者は、人の良さそうな好青年だった。

カトレアが送った花の刺繍が施されたハンカチを手に、痛ましい姿で眠る婚約者。

守る事が出来なかった。

あれだけの啖呵を切っておいて、カトレアの大切な人間を守れなかった。

自分への怒りを燃やす勇を前に、アーノルドは勇の肩に手を置き、真剣な顔をして言う。

「……そうか。ジアンダ侯爵家の事は残念に思うが君は良くやってくれた。ジアンダ領に住む多くの領民を救ってくれた事、ジアンダ侯爵に代わり、礼を言わせてくれ。イサム、ありがとう」

アーノルドの言葉を受け、勇はふっと拳の力を緩めた。

「……あぁ」

自分がジアンダ領に向かった意味は少なからず合ったのだと言われた事が、勇の自責の念をほんの少し和らげる。

そんな勇を見て微笑んだアーノルドだったが、直ぐに神妙な顔付きになって言った。

「……それにしても妙だな」

「妙?」

アーノルドの言葉を繰り返して勇は怪訝な顔で問う。

「うん。報告ではサザギミ王国軍の数は、凡そ三千か四千だと言う話だったよな」

「現地の騎士団らから聞いた話では、それくらいだろうって事だったが……」

ジアンダ領の騎士団や、周辺領地の騎士団からの報告を総合して判断するに、

サザギミ王国軍の数は凡そ三千か四千くらいだろうと言う報告を勇は繰り返しアーノルドに伝える。

すると。

「サザギミ王国軍は本当に首都アルベロに攻め入るつもりだったんだろうか? 本気で攻めてこようとしてるにしては、凡そ三千の兵士の数は余りに少なくないか? 首都アルベロに到着する前に我々の反撃を受けて、大多数の兵が失われかねないのに、三千と言う数で勝利を賭けるのは不安要素が多いように思うんだ」

アーノルドの考察を聞き、勇は現地で報告を受けた時の違和感が腑に落ち、衝撃を受けた。

どうして気が付けなかった?

違和感は覚えていたのに気が付かずに、ジアンダ家全滅の事実を受け、落胆したまま帰城してしまった事に勇は悔しさを滲ませた。

しかし、そうなってくるとサザギミ王国軍の本当の狙いは何だったのかが気になってくる。

「結局、何が目的だったのか……」

勇と同様の疑問を口にするアーノルド。

二人でうーんと考えていると、突如、アーノルドに声が掛かる。

「殿下! ケリー侯爵領より急ぎの伝達が参りました!」

その言葉を聞いた瞬間、勇の身体が騒めいた。

嫌な予感がする。

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