表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/40

9.菓子


「……分かっていたなら、どうして教えてくれなかったんだ?」

「出会ったばかりでしたから」

「……あぁ、なるほど」

知り合ったばかりの異世界人に情を掛けて、騙されている事を教えるほどカトレアは優しく無い。

その理由に納得して勇は更に溜息を吐く。

「結局は容易く信じた俺が馬鹿だったって訳か……」

自分で言って、がっくりと落ち込む勇にカトレアは言う。

「ひとまず、お茶とお菓子を口にして落ち着かれては?」

言いながらカトレアは、お菓子が載せられた皿を勇の方へ押し出す。

盛られたお菓子を見て勇は生唾を飲み込んでから、膝で手を拭き、菓子に手を伸ばした。

「いただきます」

手に取ったお菓子を口の中に放り込み、味わいながら咀嚼する。

ごくんと飲み込んでから、用意されたお茶をグビグビと飲み干す。

口に出さずとも、甘いお菓子を心から楽しんでる様子を見せる勇。

もう一つ。と思いながら手を伸ばし、また口に放り込んだ。

そんな勇を見て、カトレアは追加のお茶の指示を出しながら言う。

「お好きなだけ食べて下さい」

カトレアの言葉を受け、勇は次のお菓子に伸ばす手をピタリと止めた。

動きを止めた勇を不思議そうに見るカトレア。

「お前の分は?」

様子を伺うように眉を下げる勇を見て、カトレアはふっと微笑んだ。

「元よりイサム様の為に用意させたお菓子ですので、お気になさらず」

「……そうか」

カトレアの答えを聞き、勇は遠慮なくお菓子を食べ始めた。

医者が到着する頃には、用意されたお菓子はすっかり無くなり、お茶も飲み干された。

お茶とお菓子の効果あってか、すっかり怒りを鎮めた勇は大人しく医者からの治癒を受ける。

全ての傷が治癒された後、自室に戻ろうと立ち上がった勇はカトレアを見下ろし言う。

「気遣い、ありがとう」

「いえ」

勇の礼を受けカトレアは短く答えた。

まるで、そうする事が自分の仕事であるかのように。

その対応に特別不満は無い勇だったが、ある一点だけは注意する事にした。

「ただ、婚約者が居る身で無闇に男に触るな」

傷を確かめるために手を頬に充てがったとは言え、その行動自体に違和感を覚えて勇はカトレアを注意した。

こんな調子を他でも発揮されて婚約者の耳に入ったら、困るのはカトレアだろうからだ。

その思いで注意するとカトレアは目を丸くさせて驚きながらも、勇の注意を素直に受け止めた。

「確かに……。少し軽率でした。以後、気を付けます」

「あぁ。そうした方が良い。俺もお前の婚約者に恨まれたくないからな」

恨まれた時の事を想像してか、嫌そうな顔をして言う勇を見てカトレアはふっと笑う。

「私自身、二ヶ月に一度の紙面でのやり取りしか出来ていませんもの。

イサム様を恨むほど、私の事を想って下さっているかどうか……」

遠い地に居る筈の殆ど顔を見た事が無い婚約者を思いながら、カトレアは自嘲気味に言った。

それに対し勇は呆れ気味に言う。

「いっその事、とっとと結婚して嫁に行ってしまえ」

「今の戦争が終わり次第、そうする予定です」

勇の言葉を受けカトレアはいつも通り淡々と答えた。

戦争中だろうと結婚してしまえば、敵対国と近い最前線の地である、ここから離れられるだろうに。

その思いで不満そうにカトレアを見つめていると、カトレアは立ち上がって言う。

「父上が戦争で最前線に立たれている以上、その間、領地を経済面で守る役目が私にはありますので」

女の身では後継者になれない事は周知の事実であるにも関わらず、カトレアはケリーに代わり領地経営をしている。

尤も、最終決定の結印はケリーでなければ押せないため、それまでに資料をまとめたり、情報を精査するまでがカトレアの仕事だ。

それでも相当な仕事量である。

カトレアが嫁にいけないのは、戦争中だからではなく、領地経営が足枷となっているのは無いか?と勇は首を捻った。

そんな事を考えながら、結婚や婚約者の言葉から連想して、フと勇は故郷に残して来た婚約者を想う。

「……優子」

名前を呟きながら自室に戻り、勇は来る夜を身構えて待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ