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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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2人の物語

 それから何の音さたもなく一週間が経過したあの日のこと。

 ベットに横になりながら推理小説の序盤に目を通していると、


『急で悪いんだけど、明後日マダミスのイベントに参加しよう』


 夏妃さんからそんな趣旨の連絡が入った。

 元に戻ってしまった唯さんを前に、相変わらず俺は何もできていなくて落ち込む日々。

 今はとてもイベントに参加する、そんな気分ではない。


「……たくっ、しょうがないなあ……」


 でも、こっちの気持ちが分からない夏妃さんじゃない。

 校内でも夏妃さんは元に戻ってしまった唯さんを捕まえては、前と同じように、いやそれ以上にここのところずっと話しかけてくれていた。

 おそらくこの誘いは気晴らしになればと思ってのこと、考えてのこと。


 了解とだけ返信する。

 スマホに手を伸ばし、以前参加したマダミスイベントのサイトを閲覧してみた。


「あれ……?」


 だが、それらしいイベントの告知は見当たらない。


「違う運営さんのイベントか……」


 夏妃さんはこれまでも何度もオフラインのイベントに参加していると言っていたし、おそらくそうなんだろう。

 この時はそんなふうに軽く考えていたんだ。



 ☆☆☆



 イベント当日。

 以前の時とは違って、なんだかわくわく感は薄れている。

 自分でも乗り気ではないのを自覚していた。


 最近は唯さんと学校であってもどんどん話す機会がなくなっていっている。

 不本意だし、そんな自分が嫌いになりそうだ。

 でもそうでもしないと、何かの拍子にまた悪い癖が出て口を滑らせてしまうかもしれない。


「行ってきます」


 玄関で小声で挨拶し家を出る。もちろん返答はない。


 少し重い足取りで待ち合わせ場所の駅前広場へと向かう。

 夏妃さんの姿は見当たらなかったけど唯さんはすでに来ていた。

 やはり以前のようなあか抜けた姿ではない。


(えっ……?)


 だけど、学校でも見慣れた三つ編みに分厚い眼鏡、でもなかった。


 今日の彼女はリボンをつけていないツーサイドとレンズの薄い眼鏡に様変わりしている。

 あか抜けた姿とはまた違うけど、地味すぎるってわけでもない。

 その中間とでもいうのか、いや地味に少し寄せている感じだろうか。

 読書好きのクールな優等生、みたいな印象を受ける。


 それでも道行く人の視線がたまに唯さんに向いていた。


「お、おはよう……」

「お、おはようございます……」

「……」

「こ、今回は気づいてくれてよかったです……」

「お、おう……」


 挨拶の表情は明るいとはいいがたい。

 やっぱり、あか抜けた姿に戻ると心変わりしたような感じには見えない。

 見えないけど、どうして今日は見た目を変えたんだろう?

 そんな俺の心の声が聞こえたのか、


「こ、このくらいなら学校じゃないですし、誰にも迷惑かけない、ですよね……?」

「うん。問題はないと思うよ。今も似合ってるし」

「あ、ありがとうございます……」

「「あの……」」


 言いかけて、二人して視線をそらす。

 いっぱく置いて、その先を言おうと思ったら夏妃さんがやってきた。


「ごめんね、二人とも。今日はありがとう」

「いや、こっちこそ。その、誘ってくれてありがとう……」

「夏妃さん、今日ってマダミスのイベント何かありましたか……?」

「え、えっと……まあ、いいからいいから」


 夏妃さんは俺たちの背中を押し、駅構内へ。

 どこに行くのだろうと思ったが、オフラインイベントの会場へ行くのと同じ電車、同じ経路をたどり、無事にそこへたどり着いた。


「あれ、今日ってここイベントなくない?」

「サイトには何も……」


 以前と違うのは、自動ドアが開かないこと。

 今日はやはり開催日でないことがわかる。

 俺と唯さんの疑問を抱いている視線を受け、


「ふふふ、裏口は開けてもらってるからそっちから」

「「……」」


 思わず唯さんと顔を見合わせる。

 裏口からって、そういえば夏妃さんはスタッフさんとも親しそうに話をしていたことを思い出す。

 まさか今日は無理を行って開けてもらっているのか。


「お待ちしておりました」


 裏口からフロアに抜けると、そこにはこの前GMをしてくれた米沢さんがいた。

 俺たちを見ると軽く会釈してくれる。


「あ、あの、今日ってお休みなんじゃ……」

「本日はイベントを開催していませんが、お二人のための物語はご用意してあります」


 以前と違い、ざわついていたフロアは静寂に包まれている。

 見回してみても俺たち3人と米沢さん以外フロアには誰もいない。

 どうやら完全に貸し切りってことになっているようだ。


「それってどういう……?」

「メインの登場人物はお二人です。夏妃さんはご本人役で私は物語のサポートのみさせていただきます。なお、今回の物語は体験後自動的に破棄しますので、外部に漏れる心配はありません」

「あたしも米沢さんも二人の秘密を絶対に話したりしないから、そこは安心して」

「「……」」


 つまりそれは俺たちのプライベートにかかわる話ってことか。

 1週間前のいくつもの質問が頭をよぎる。

 同じようなことを唯さんにもしていたなら……。


「1つだけ質問させてよ。その物語ってマダミス、じゃないよね」

「マダーではありませんが、ミステリですね」

「……その物語を俺たちがプレイすることに何か意味あるの?」

「それは物語終了後にお二人が判断なさる事。なお、この物語はお二人の参加が条件になっています。どうしますか?」

「「……」」


 俺たちはしばらく顔を見合わせたが、乗り掛かった舟。

 ここまで来て何もせずに帰ったんじゃそれこそ無駄になる。


「その物語、体験するよ」

「わ、私も……」

「では、こちらが互いに演じるキャラのシートです」


 てっきり自分で自分を演じるのかと思った。

 だが俺に渡されたのは唯さんの資料だった。

 渡し間違えたのかとも思い、米沢さんを見ると彼女は笑顔で頷く。


「……」


 肩をすくめながらファイルに目を通し始める。


 情報の多さは普段のマダミスで演じるキャラのそれと変わらないどころか、これかなり情報量が多い。

 年少期からの生い立ち、悩み(特に妹に対するものが多い)が今に至るところまで記されている。

 妹への遠慮と劣等感には何となく気づいていたものの、その資料を読むだけで辛さと苦しさが否応なしに伝わって、胸が苦しくなった。


 ふと顔を上げると、俺の資料を読んで視線をさまよわせ動揺しているような唯さんと目が合う。


 俺の恥ずかしい過去もそのまま嘘偽りなく夏妃さんに伝えたんだ。

 今、唯さんが何を思い、どう感じているのかは知る由もないけど、俺はやっぱり唯さんにこのままを正解だと思ってほしくない。


 もしこの物語で、そこに何か変化を与えられるなら――


「では時間になりました。そろそろ物語をはじめさせていただきたいと思います」


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― 新着の感想 ―
なるほどここでお互いのことを演じつつ、何らかの事件を解くことで気付かせるわけですね。唯さんだけでなく、敬大さんにも。
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