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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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封印した過去

 テスト期間は何事もなく過ぎていった。

 教室内の話題は、近づいてきた夏休みの予定をどうするか。

 そんな期待が渦巻いているような話に日を追うごとに変わっていっている。


 どこに遊びに行く? 絶対彼氏彼女を絶対に作る。音楽ふぇすに参加する。などなど。

 人それぞれだ。


 それは高校前に俺がデビューしようと考えたように、最初の夏休みをどう過ごそうかと思惑や目標を言葉にして示している感じだった。


「終わった……もうしんどい、テストやだ。この疲れをいやすにはやっぱり甘いものだよね」

「あっ、新しい甘味処できたの知ってるよ」

「よし、そこいこっ」


 陽キャさんたちはそんなやり取りを交わしつつ、足早に教室を出ていった。

 元通りの唯さんは誘われないようにか、その存在感を完全に消しているかのようにも見受けられる。

 理想の子を演じてきたことにより、元の自分を演じることは唯さんにとっては容易そのものなのだろう。


 隣の席の俺と目があえば、軽く頭を下げられそのまま鞄を持って廊下へ。


 ついこの前まで、


「一緒に帰ろう」


 そう気軽に言えたのに、今はそれを言わせないようなオーラを纏っているかのようだ。

 やはりこのままにはしておきたくはない。


 でもだからといって俺にはこの問題は……。


 ここ数日ずっと頭の中で考えが右往左往して、心底頭を抱えている。

 関われないとは思いつつも、それでいて唯さんに声はかけられる距離感を保っている。

 そんな自分自身を理解できない。


 少なくとも1つだけ言ってあげたいのは、その元に戻ったと思っている偽装は他のクラスメイトに通じても《《俺たち》》には全く通じないんだ。


「あ、あのさ」

「っ!」


 声をかけられたことにビクつく唯さん。続く言葉を考えているとそこへ、


「やっほい」


 明るいあいさつと共に夏妃さんが現れた。


「「……」」

「うわっ、なんか暗いな。二人とも前と全然違うじゃん。テスト疲れ、なわけないか……よしっ、まずは唯ちゃん、ちょっと今日はあたしに付き合ってよ」

「えっ、あ、あの……」


 夏妃さんは用件だけ言うと、唯さんの腕をつかんで強引に連れていく。


「敬大君、君にも聞いておきたいことがあるから。今夜にでも連絡するね」

「えっ、ああ、う、うん……」


 聞いておきたいこと?

 訳が分からなかったけど、条件反射的に頷いてしまった。

 遠ざかる二人の背中を見つめながら、夏妃さんの明るさに少し落ちていた気持ちが和らいだ気がする。



 ☆☆☆



 夕食後、自室でくつろいでいたら予告通りに夏妃さんからメッセージが来た。

 送られてきたのは、100の質問。

 厳密にはもっと多い。


 ・今までで一番傷ついたことは?

 ・今一番悩んでいることは?

 ・家族との仲はどうですか?


 そんなことが箇条書きでびっしりと書き込まれていて、どんどんその後もメッセージは追加されていく。


 それは俺に関する過去の出来事、つい最近起こったことへの推測、家族について。

 まるでここまで生きてきたことを赤裸々に綴るような質問ばかりだ。


 箇条書きがひと段落すると、


『踏み込んで色々と聞いちゃって、ごめんね。でも答えてほしい』


 夏妃さんのお願いにも似たそんなメッセージが。


 正直に言って迷った。

 俺は人に話せるような立派なことをしてきたわけじゃない。

 特に幼馴染の件では、周りに迷惑をかけてしまった。

 そして、それはもう二度と表に出さないように、頭の、そして心の奥底に、封印したものだ。


 誰かにそれを話すことはない。

 そう思っていたし、文字にして書くのもはばかれるようなこと。


 だけど相手は俺が勇気を出して連絡先を交換した夏妃さんだ。

 唯さんを今日連れ出していたことを思い出せば、何か考えがあるのかもしれない。


 俺は覚悟を決めて、ゆっくり、1つ、1つ、丁寧に質問に答えていった。

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― 新着の感想 ―
夏妃さんは何があったのか、何となく察していそうな気はしますね。
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