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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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異変に次ぐ異変

 翌日、駅から校舎まで歩いていてもそれまでよりも男子生徒の視線は感じない。

 よっぽど、前日の唯さんの付き合うならこんな人の熱弁が効いたのだろう。

 効果覿面(てきめん)という感じだった。


 だが、これで唯さんの人気が落ちるとも思わない。

 そのくらいここ数日は熱量があったからな。

 おいそれと呼び出そうとする輩の歯止めになる、なったならいうことはない。


 少しほっとした気持ちで教室に入れば、なんだかまだ登校している人も少ない室内がなんだかざわついていた。


「あっ、唯ちゃん……」

「私たちも今来たんだけど……」

「あっ、ダメ。今すぐ目をつぶって!」


 そういう女子生徒の視線は黒板へと向けられていて、そこには――


『佐久良唯うざすぎ、だれかれ構わず言い寄るな、色目使うな――』


 心を抉るような悪口でいっぱいだった。


「な、なんだよ、これ……」


 目の前の出来事が予想もしていなかったことで、頭が真っ白になりかける。

 そうだ、唯さんは……。

 目はつぶっていなくてその視線の先は黒板に書かれた文字を捉えていて、


「ダメだよ」

「……」


 何を言っても後の祭りだ。

 唯さんは黒板を見たままで微動だにしなかった。

 こんな時何をしてあげたらいい。

 唯さんがこれ以上見ないように視線の先を前に出てふさぐ、そんなことしか出来なかった。


 そうこうしているうち、陽キャさんたちや舞さんも登校してくる。

 彼女たちの行動は俺なんかよりも迅速だ。

 舞さんは姉である唯さんを抱きしめ、他の子たちがすぐに黒板を消しにかかる。


 まだ呆然としている唯さんを陽キャさんたちに預け、舞さんは教壇へと上がった。


「お姉ちゃんの悪口を書いたのはどこの誰? 今なら名乗り出ればまだ話し合いで済ませられるわよ。心当たりが何かある人でもいいから、何か知っている人がいるなら」


 室内を睨みつけるように見つめてみても、誰も名乗り出る者はいない。

 舞さん相手なら事情を知っている人がいるなら教えてくれるだろう。

 なら、現状心当たりがある人もいないということか。


 あれは、さっきのは直近で唯さんに嫌がらせをしていた人がまだかわいく見えるくらいのもの。

 彼女たちがやったのかと一瞬思ったものの、あの1件は舞さんが上手く収めていた。

 再度何か仕掛けてくるには動機的なものはない気がする。


 となると、今回のは別の人ということに……。


 なにかモヤっとした、違和感みたいなのが引っかかっている気がする。

 でも、それが何なのかがはっきりしない。


 せっかく男子生徒からの呼び出しが沈静化してきたのに、どうしてこう立て続けに次から次へと起こるんだ。


 本来のなりたい自分になれて、充実してただろう。

 なのに……。

 俺自身も最近の出来事は何か納得がいかず、今回は上手くフォロー出来ず責任を強く感じた。

 なにより唯さんを傷つけてしまったことが、やるせない。

 男子生徒の多くから言い寄られるのとはわけが違う。

 今回は悪意そのものを表に出したもの。


 当人を傷つけることをいとわない行為。

 それをやった輩に対して怒りがわく、近くにいたら罵声でも上げたかもしれない。

 でも描かれた当人の唯さんはといえば、黒板を消してくれた陽キャさんたち、舞さんにお礼を言っていた。


「樋口君、だ、大丈夫ですか……?」

「うん……」

「すいません。私、なんか失敗しちゃったみたいで……」

「そんなことないよ、唯さんのせいじゃ全然ない……」


 挙句にはこっちの心配までしている。

 そんな姿をみせられ、怒りは彼女の心配へと切り替わった。


 目の前の唯さん気丈にふるまっているようにも見える。

 なんともないわけないだろうに、本当はすごく悲しいはずだ。

 唯さんにしてみれば妬みや嫉妬の感情はわかっても、それをもとに実際行動する人がいることは理解できないんじゃないか。

 そう思うと胸が苦しくなった。


 無力な自分が腹立たしい。

 なんでこんなことになっているのか、全くわからなかった。

 それでも新しい対策をしないといけないと、額を何度もたたく。


「樋口君、おはよう……何かあったのかい?」

「お、おう、おはよう、菊地……後で話すよ。それより今日からテスト休みで部活はないんだよな?」

「うん。本当は練習したいんだけどね。テスト期間はどの部活も活動はできないきまりみたいだよ」

「ならちょっと頼みたいことがあるんだ。俺1人だと目立つしな……」

「なんだい? 遠慮なく言ってよ」

「放課後一緒に帰らないか、その、みんなで……」

「なんだそんなこと。僕は構わないよ」

「じゃあ決まりな」



 朝何があったのか、黒板に書かれた悪口を見ていない生徒にも昼間の内にはそれとなく伝わって――

 この日は1日中教室の中は重苦しい雰囲気だった。


 いつもその存在でクラスを明るくしている舞さんが普段とは違った態度だったのも大きいし、クラスメイトの大半は唯さんに気をかけていたように思う。

 特に陽キャさんのグループのみんなは、体育などで移動するときも決して一人にはしなかった。

 そのかいもあってか放課後までは特に変わったことは起きなかったのだけど……。



 それでも異変はとどまらず――



 放課後、テスト期間がまじかに迫っていることもあり、生徒たちは早々に下校していく。

 俺たちも同じで、陽キャさんのグループと俺と菊地を含め集団下校。

 何の理由があるのかわからないが、唯さんが目の敵にされていることはたしかなこと。

 陽キャさんたちに全面的に任せても良かったんだけど、今回は前の寄り道とは心配の度合いが違う。


「ねえ、よかったのかい僕も一緒で……」

「お前がいないと否が応でも俺が目立つし、あのグループの輪に自然と入れないだろ。それに唯さんや舞さん目当ての男子生徒から疎まれたりもするし、そんなことになったらまた唯さんに迷惑が掛かる……あれ?」


 自分で言っていて気付いたが、ここのところ朝は一緒に唯さんと登校している。

 疎まれるならもう疎まれてもいるはずだ。

 待てよ、今朝の悪口って……。


「難しい顔して、どうかしたのかい?」

「あっ、いや……何でもない」


 どっちにしろ推理を組み立てるにも材料がなさすぎる。

 そう思いながら靴に履き替える唯さんを見ていたが、一瞬何か隠したようなしぐさを見せ、何事もなかったように、


「今日は寄り道はなしですよ。テスト前ですし」

「真面目唯っちが降臨してるじゃんよ……じゃあ勉強教えてよ。英語とかあたしやばいし」

「えっ、あ、はい……それはいいですけど」

「それじゃあファミレスででも勉強会しよ。みんなでやればテストも怖くないってね」


 明るくこっちに振り向くクラスメイトを見れば、俺たちも数に入れられているんだなと思う。



 突如決まった勉強会。

 唯さんはまるで各科目の講師のように俺たちを教えてくれる。

 勉強ができても、教え方が上手くないと思う人が教師の中にもいるけれど、唯さんはハマり役だった。

 勉強も出来ないところから積み上げて、積み上げて成果を出してきたのか、わからない問題に対し相手の立場になり、どこで行き詰まるのかを一緒に考え、それならこう考えてみましょうと提案し、導いてくれる。



 外が暗くなり、ファミレスを後にする頃にはそれぞれ苦手科目の一つは何とかなりそうなそんな手ごたえを得ていた、そんなふうに思う。


「マジで唯っち教え方上手じゃん!」

「唯ちゃんすごい。先生よりもわかりやすくて、これなら応用問題も解けそうだよ」

「いえ、そんな……私は考え方をちょっと話しただけですから」

「「それがすごいの」」


 今朝のことがあってどうなることかと思ったけど、周りの子に救われた。

 俺一人じゃ元気づけられなかったかもしれない。


 これなら大丈夫かと安心し帰路に就こうとした矢先、


「あの、樋口君……こ、これ……なかなか渡す機会がなかったんですが」


 誰にも気づかれないように注意しながら、唯さんは何か手紙のようなものを手渡してくる。

 すぐに踵を返し、みんなのもとへと走って行ってしまう。


 そういえば下駄箱を何か隠したような気がしてたが、これがそれか?


 一人になり自宅へと向かいながら、便箋を広げ内容を走り読む。


 今朝、黒板に書かれていたことと同じような悪口や誹謗中傷であふれている。

 思わず足を止めた。

 家までの道のりは舞さんと皆川さんが一緒だったし、心配はいらないだろう。


 それでも、


『気を付けて。明日は朝家の近くまで迎えに行く』


 そう、メッセージを送った。

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― 新着の感想 ―
これまた厄介なタイプの嫌がらせですね。犯人が男女どちらかで厄介の方向性が変わってくるやつ。もしかしたら唯さんが急に注目を浴びだしたのもこの件に関わってる可能性もあるかもしれませんね。
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