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学園のアイドル「じゃない方」の女の子と友達になった俺は、彼女の見た目が偽装であることを知っている  作者: 滝藤秀一


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華麗なる解決

「唯ちゃんの上靴が、無くなっちゃって……」


 皆川さんに端的に事情を聞いて、俺たちも上靴探しを始める。

 中腰になってまずは唯さんが使っている下駄箱の傍を念入りに見ていく。


「君が言っていた気になることって、このこと?」

「ああ、そうだよ……」


 隣で探してくれている菊地の問いに、短く返答した。

 体育の授業をサボってでもやっぱり見張っていればよかったか。

 何かまたやるだろうことはわかっていたのに。

 もっと集中していれば……。

 後悔が次々と頭に過る。


 だがその一方で、仮に現場を抑えられても、それで終わるのかという不安もあって、どうやったら終わらせられるんだという答えがまだ見つかってはいない。


「あっ、あったよ……唯っちの上靴、これ?」


 傘立てのところを見ていた女の子の1人が声を上げる。

 みなそちらに集まり、見つかったものを目にした。


 砂と土が大量に付着し、それだけではなくはさみか何かで切ったのだろうか、文字通りぼろぼろになっている。

 俺は思わず表情が強張っていくのを自覚した。

 ここまでするのかよって思いと、これを見せられた唯さんの気持ちを思うと辛くてどうすればいいのかわからなくなりそうだ。


「い、いえ、これ私のじゃ……」

「えっ……」


 小首をかしげながらの唯さんの言葉に、俺だけではなくみな驚きの顔を浮かべる。

 じゃあこれはいったい誰のという疑問が皆の頭に過る中、


「あーっ、それ、私のだよ……」


 舞さんの声に全員の視線がそっちに向く。


「……」

「なに、これ……もうぼろぼろだ……それにこんなに切られてるし……ひどいよ、誰がこんなことするの!」


 自分の上靴の有様を嘆き、それを抱き寄せる姿にみな引きつけられた。

 瞳にはうっすら涙が溜まり流れる寸前なのも演技なのかの判断がつきにくい。

 舞さんの悲しみが肌で伝わって、誰もかける言葉が見つからないでいる。


 けど、いったいどうなってるんだ?


 唯さんの上靴がなくなっていたはずだし、嫌がらせされていたのも唯さんのはず。

 それがどうしてこんなことに……。


 舞さんの悲痛な表情を見せられ誰も声がかけられない中、唯さんが舞さんに歩み寄る。


「舞……あ、あの、私、間違えて舞の上靴履いてたの、かな……ごめん、ごめんね……」

「お、お姉ちゃんは全然悪くない。悪くないよ。悪いのこんなことする人たち……」


 その言葉はごまかしがきかない怒りを宿している感じだ。

 ふと周囲を見れば、一連の状況にあたふたしている女の子たちがいた。

 俺が視線をそっちに向けると、舞さんも気づいたようでじっと彼女らを見つめる。

 その少しうるみ熱を感じる瞳にそのうちに耐えられなくなったのか、


「こ、こんなつもりじゃなかったの!」

「こんなつもりって……?」

「舞ちゃんのだったなんて……」

「なにそれ、お姉ちゃんの上靴なら、こんなふうにしても許されるってこと!」

「ご、ごめんなさい」

「ああもう……私、怒るの苦手なんだから……いい、許すのは1回だけ。今度同じようなことがあったら誰だろうと私は許さないからね」

「う、うん……」

「お姉ちゃんにも何かしたら、私黙ってないよ」

「は、はい」

「あとで私とお姉ちゃんにジュースでも奢ってよね。それと今後の反省を見て根に持つことはしないから」

「う、うん……ごめんなさい。ありがとう」


 上靴を汚し、隠した女の子たちは舞さんに問い詰められたのち、沈痛な面持ちで教室へと戻っていく。

 あの様子だと、油断は禁物だけど、あの子たちは金輪際嫌がらせはしないような、そんな淡い期待が持てる。


 それにしても、上手くやるなあ。

 形的に許すことを前提に反省を促して、彼女たちをハブらせないようあとのことまですべてを計算してるようだ。


「やるね舞ちん。どうなってるのかいまいち良くわからなかったけど」

「舞ちゃん、かっこよかった……」


 舞さんを皆が称賛している中で、俺は彼女の下駄箱の中を確認してみる。

 中には案の定、唯と書かれた上靴が入っていた。


「あっ、もうエッチだなあ。樋口君、人の靴箱勝手に覗かないでよね」


 舞さんはそう言いながら、口元を緩め不敵に笑う。

 その顔を見て、どういうことなのか全部はっきりした。


「……それは申し訳ない。唯さん、あったよ上靴……」

「えっ、はい……」


 どうやら俺は完全に出し抜かれたらしい。

 周りからの称賛に値するくらい実に素晴らしい対応だった。


「お見事」

「ふっ、どうもありがとう」


 舞さんのにっこり顔に少しだけむっとしてその場を離れる。

 佐久良舞。彼女は機転も利くし、策士だ。

 印象的などや顔が脳裏に焼き付いてしまいそうで、なんだか敗北感を感じてしまった。


「ひ、樋口君、どういうことなんでしょう? このままじゃもやもやして私眠れません」

「ああ、僕は先に教室へ戻ってるよ。あとでまた話そう」


 聞いていい話か判断できなかったのか、菊地は廊下をそのまま進んでいった。

 別に聞いてもらっていても支障ないのだけど、やはりいいやつだ。


「人気者になるっていうのは、やっぱり色々と面倒事があるんだなってだけだよ」

「……それだけじゃわかりません。もっと詳しく……」

「あー、唯さんはあんまり気にしてなかったかもだけど、数日前からイレギュラーなことは起きてた。消しゴム何度も無くなってたしね」

「は、はい……あれって私が忘れたり失くしたんじゃ……」

「ないと思うよ。それに課題のプリントも配られてなかった」

「あれもですか……で、でも、なんで樋口君じゃなくて、なんで舞があんなふうに……」

「調理実習の時、ちょっと話をしたのもあると思うけど、舞さんは異変にある程度気付いてたと思うよ。通ってきた道なのか、経験則で感づいたってところかな……」

「話を……仲がいいんですね」


 そういう唯さんは笑っているが笑ってないような、何か棘がある気がする。


「いや、今日初めて話しただけだよ。舞さんだけじゃなくて菊地もね」

「樋口君が私以外と話が出来るようになって、良かったです。私嬉しいです、嬉しいですけど……」

「なんか、歯切れ悪くない?」

「い、いえ、なんでもありません」

「舞さんだからあのやり方が出来た。俺じゃあああは出来なかったよ……」

「っ! い、妹を褒めてくれてありがとうございます」

「なんか怒ってるの……?」


 気のせいではなく明らかにむっとしている唯さんだけど、その原因は俺には全く持って見当がつかなかった。


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― 新着の感想 ―
こういう解決法を舞さんが選んだのは、きっと唯さんのためなんでしょうね。自分が原因で関係が悪化したなんてことになったら、間違いなく気にするでしょうし。 唯さんがやきもちやく姿、舞さんにも見せてあげたい…
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