☆寄り道2
妹の舞を含め、みんなノリノリで似合いそうな水着を手に取りだした。
考えてみると、私、スクール水着以外の物をもっていない。
スイミングスクールのものはさすがに大きくなって着れないだろう。
もうすぐ本格的に夏を迎える。
こんな私でも、新しい水着があれば海やプールにお出かけしようと思うかも、しれない。
(よ、よしっ……)
ちょっとだけ気合を入れ、みんなに少し遅れながらも水着に近づいていく。
だけど、目の前にあるたくさんのそれを前に目移りしてしまいなかなか手に取れないでいた。
種類もワンピースのものや、ハイネック、ビキニと幅広く色も豊富。
試着したいという気持ちはあるものの、どうせどれも似合わないだろうって自己否定がせめぎあってやっとのことで手にとっては首を横に振っていると、
「唯ちゃん、とりあえずこのワンピースの水着を試着してみるのはどうかな?」
「真理さん……そ、そうですね……」
真理さんが迷い困惑している私を気遣ってくれる。
トップとボトムが繋がった形でこれならお尻も隠せそう。
試着してみるとピッタリで、真理さんの御意見を聞きたくてカーテンを開ける。
「うわー、似合うね」
「そ、そうですか……水着なんて自分で買ったことがなくて……」
試着していた舞と他の子も集まってきた。
「わぉ! わかってたけどさ、唯っち、胸でっか! いい形してるなぁ……はっ、そんな大層なもの持ってるなら絶対ビキニとか似合うでしょ!」
「ちょ、ちょっと、び、ビキニなんてまだお姉ちゃんには早すぎる、わよ……」
「えーっ、何言ってるかな、舞ちん。その手に持ってるのは袖付きビキニでしょうよ。はい唯っちも色違い試着してみよ」
「ええっ!」
みんなの期待のまなざしを受け、なんとなく断れない雰囲気が漂ってしまう。
あまり期待されたことがない私にとってはありがたいことではある。
あるんだけど、肌をいっぱい露出しているものは、やっぱり恥ずかしい。
それでも、みんなそういうのを好んで試着しているみたいだった。
物は試し。郷に入っては郷に従えとも言うし。
不可能なものっていうわけでもない。
「お、お姉ちゃん、無理に着ることないからね」
「うんうん、着てみます……」
試着を終え、鏡で自分の姿を確認する。
今までの自分なら、水着コーナーで試着してるなんてありえないし、ぜったいここまで肌が露出したものは着ない。
恥ずかしい。恥ずかしいけど……。
「「「……」」」
「ど、どうですか……?」
再び、カーテンを開け舞やみんなの目にどう映るのか確かめる。
ちょっと目を見開いて無反応。やっぱり似合ってはいないのか。
そうだよね……。
「か、かわいい……」
少し遅れて、目を見開いた舞の微かな声が耳に届く。
「うん。超かわいい。青もすごい似合うね」
「プールや海で絶対注目浴びちゃうよ」
お世辞もあるかもしれないけど、舞のみならず、他のみんなからの評価もいいようだ。
「わ、私、この水着、か、買いますっ!」
自分でもびっくりするくらい勇気を出した言葉だった。
「唯っちみならって私も買おう!」
それぞれ良さそうな水着を購入し、満足して水着コーナーを後にする。
どうなることかと思ったけど、上手く立ち回れた、よね。
ビキニなんて買っちゃった。買っちゃっいました。
購入したあとに何とも言えない恥ずかしさがこみ上げてくるのを抑えながらフロアを進む。
今度こそス〇バに行く、はず。
現に洋服や下着のテナントに目をやりながらも通過していく。
ちょっと疲れているから、飲み物を一気に飲み干してしまいそうだ。
「あっ、みんなちょっと待って!」
「そういうと思ったよ……」
「わぁ……」
舞の一言に足を止める。
目の前にはガチャガチャのコーナー。
お菓子のキーホルダーやポーチ。アニメのキャラのキーホルダー、ミニカーなど多彩なラインナップとその多さに、私は思わず声を上げる。
回しているお客さんも多い。
お孫さん連れだろう2人。大人のお姉さんペア。そして私たちと同じ女子高生もいた。
「また舞ちゃん回すの……」
「うん、サン〇オのコラボポーチ欲しい!」
やれやれと言ったように、舞以外の子たちが肩をすくめる。
どうやら今日に限ったことではないらしい。
考えてみれば舞の鞄や鍵にはキーホルダーや小物がたくさんついていた。
(あれはガチャを回してたのか)
お札を100円玉に両替し、目当てのガチャの前へ。
おまじないだろうか、二回手を合わせる姿にその本気度が伝わってくる。
僅かな時間見守っていたが、
「ううっ、またダブり……コンプまであと一種なのに、出ない……」
嘆きの声と共に舞の表情は一段と曇っていった。
財布の中を覗き込み、もう1回回そうかと葛藤しているのがよくわかる。
「舞ちゃん、もうやめておいた方が……次の機会に」
「で、でも、わりとすぐ入れ替わっちゃうから。ああ、でもこれ以上はス〇バ飲めなくなっちゃう……」
こういうところが子供だし負けず嫌いだ。
それでも後ろ髪を惹かれる感じで弱弱しく立ち上がった。
入れ替わるように私はガチャの前でひざを曲げる。
「お、お姉ちゃん……」
「い、1回だけ……」
コンプできますようにと祈りながら、ゆっくりとハンドルを回す。
出てきたのはピンク色のカプセル。
これは舞が回してるとき見ていなかったような気がする。
「わぁ、そ、それ……」
「コンプ出来た……?」
「い、いいの?」
「うん、揃えられて良かったね」
「唯ちゃん、やっぱりお姉ちゃんだね」
「舞ちん、お姉ちゃんに感謝しないと罰当たるぞ」
周囲から揶揄われているようなそんな言葉が。
舞は恥ずかしそうに俯いて、私も同じような反応になってしまう。
「うわっ、ほんと仲良し姉妹だなぁ」
私は顔が赤くなっていくのを自覚した。




