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9.夜襲


翌朝の調理はあくびを噛み締めながらとなった。



昨晩は、警鐘の音で起こされた。


「魔獣です! 皆さん起きて、警戒してください! 大蝙蝠で複数います! 戦える人はご助力願います!」


外に出てみると、もう1人の少年のほうが、すでに大蝙蝠とやり合っていた。



アロニアも起きてきて、言う。


「怜樹、魔法を使うのはちょっと待て。今のおまえだと、前方に人がいたら巻き込むかもしれない。乱戦になったら、剣に魔力を漂わせるだけで、戦え」


「そうなの!? わかった!!」


少年に加勢をする。

ときどき身体を反転させて、背中を預けあう。


もちろん剣だけで戦う。


大蝙蝠は、数は多いが、巨大百舌に比べると弱い。

近接戦闘で数匹ずつまとめて剣で切る。


アロニアの忠告を思い出し、剣に魔力を漂わせると、蝙蝠が剣を避けられなくなったのだ。


なす術もなくなって放物線を描くコウモリならば、容易に当てられる。


ミラビリスは馬車にとどまり、セラフを背で守りながら、剣で戦っている。



「さすが、大国の魔術師だけはあるなあ!」


だから、ミラビリスが盛大に勘違いをしている。


「そんなこと、ない!」


俺、まだ、水以外はちゃんと試せてないのに!



「魔法では余裕だから、あえて苦手としている剣を用いたか! その心意気や、天晴れだ。今度、我と練習しよう! さすれば、もっと伸びるぞ」


いやいや、待て待て待て。


俺は、アロニアの言いつけを守っているだけだ。



剣を振るいながら、ミラビリスの獲物を見つけたような獰猛なまなざしと笑みが、俺を捕えて、離さない。


「治癒魔法もあるのだから、大丈夫だろう?」


いやいやいや、痛いの、やだよ?

逃げられるなら、痛いのは避けるよ?


俺は脳筋・痛みにも耐える系の鋼のメンタルじゃないから。


まあ、剣道していた時点で、木で打たれるのと床の冷たさには慣れているが。


「ふむ。魔術師出身だから、やはり実戦経験は足りぬか。でも剣が使えるのは良いぞ」


「確かに実戦用の型は教えてもらいたいが」


「貴族用の殺しの型か? いいぞ」


必殺技なのか。ちょっと怖いぞ。


「搦め手も知りたいが、まずは基本から、ね?」


「いいぞ、いいぞ!」


結局、蝙蝠退治は1時間ほどでおおかた終わった。

数は多かったが、向こうも学習したのか来なくなった。


「ああ疲れた。もう大丈夫、かな?」


「あとは見張りの俺たちで対処できます! ご助力、ありがとうございます!」


俺とアロニアは馬車へ戻る。

ミラビリスが少年たちに声をかけている。


「疲れただろう。あとで我が少し早めに代わってやろう」


面倒見の良い上司だ。


「えーと、それよりも蜂蜜入りの携行食で労ってくださいよー」


「もう~。わかった、わかった」


少年たちが、もうわがままを言えるほどに、ミラビリスは慕われているようだ。

やはり人を率いる才がある、とミラビリスが自負していただけあって、この人の、人たらし能力は抜群だな。俺も見習わなくちゃ。


「なにニヤついてるの~?」


アロニアが絡んでくる。


「良い夢を見られそうだな、と思ってさ」


俺もキザに決めてみようとする。





翌朝、料理しながら、あくびをかみ殺していた。

まだちょっと眠いな。


蚊帳みたいなものを張れれば、昨日の蝙蝠のような弱い魔獣は近寄れなくなるのでは……?

小さい結界でも良いんだけど。


「アロニア、魔法の中で、数ヵ所に固定して、一晩中、小さい魔獣を避けられるものってないのかな?」


「うん、さすが、良い発想だ。魔方陣を複数地面に描けば、盾のように使えるものがあるが、総じて持続時間は短い」


「ミラビリスの反射魔法も、位置の関係で見られなかったからなあ。仕組みは同じだろうか」


「怜樹の魔力量なら、魔法陣を使えば行けるだろう」


「魔法陣も教えてくれるの?」


「おいらはそっちのほうが得意だぞ?」


「へえ!」


「でも魔力の制御が先だ。まず今日は、薪への着火をよろしくね。詠唱でも威力を調整できるかの実践だ。怜樹なら、強くすること自体は簡単かもしれないけど、魔力の調節が大事だから。ちょっとずつ魔力を注ぐ感じで」


魔法は、俺が調理人アロニアの補助役として、頻繁に使用する。

そして、魔力を絞りながら発動させる練習がはじまった。


俺はささやく。


「ミットー……フラムモー……」


パチッ、パチッ。

キャンプ場で聞くような火花が爆ぜる音がする。なんだか懐かしい。


「最初は、小さい火で……そう、そう、良い感じ」


俺のイメージはろうそくの先に灯す火だ。そよ風で揺らいで消えそうで、また魔力を注ぐ。


メラメラメラ。


「おっ、おっ、良いぞ!」


アロニアも顔を心なしか近づけて、火を見つめている。


「燃えた~!」


「うん、じゃあ、煮込んだら、あとで消火の水をお願いね」


「任された!」


騎士ミラビリスは、すぐ近くで、騎士見習いの2人と打ち合い稽古をしている。


なお、もしも剣が弾かれて俺たちのところへ飛んできたら、アロニアが防ぐ予定になっている。


セラフも近くにいるみたいだが、よくわからない。

見た目より大人びているため、彼女の好きにさせている。鑑定眼持ちだし、俺よりずっと上手くやるだろう。


ジューッ!


「じゃあ、水をかけるよ!」


「はい!」


「アクア・サーペンス!」


指先から、やさしく注ぐ。

育てているアサガオの花に水をやるように。


「はい、じゃあもうちょっと強くして~!」


「応っ!」


ちょっと強く注ぐ。

水鉄砲で遊び回った昔の思い出のように。



ミラビリスがやってくる。


「おやおや、生活魔法の練習かい。良いなあ」


「ミラビリス殿は?」


「我はお昼の前こそ怜樹殿をお借りしたい」


「ほえっ?」


「打ち合い練習のお誘いだよ」


とびきりの笑顔とウインクをされてしまった。まずい、俺はこういう色仕掛けに弱いんだ。


「は、はい……」


鼻の下を伸ばしそうになる。


「あとでな!」




馬車は南へと、いちおう王都方面に進んでいる。

まだ子どもであるセラフ、御者をしているミラビリスを除いて、俺とアロニアと少年2人は外を走っていた。


「体の鍛練になるからな!」


と機嫌よく言っているのはアロニアで、一番鍛練が不要な人物だ。

単純に走るのと、俺に絡むのが好きなのだ。


少年2人も素直についてきたが、さすがに疲れていそうだ。

午後は走らないだろう。


俺が2人をチラチラ見ているのにアロニアも気づいて、


「治癒魔法を使えば、疲労も取れるんじゃないかな?」


とか言ってきたが、俺は首を横に振った。


「まだ若いし、短期的に見ればヒールで疲れは取れても、心も疲れるんだよ」


「なあんだ、まともに優しいこと言うじゃん」


「俺は優しいよ?」




「怜樹、お昼は、おいらとセラフで用意するから、好きなだけ鍛練してきていいぞ」


「おう……」


昼は料理の補助役を免除され、俺は騎士ミラビリスと騎士見習いの2人との打ち合いを行った。


「トメスとネシリも一緒だ、良いな?」


「はい!」


ミラビリスはかなり手加減をしてくれているのがわかる。

試しに聞いてみた。


「落ちてきた葉っぱとか斬れるの?」


「うん、斬れるよ? 良い歳だろうに、子どもみたいなことを聞くんだねえ」


あきれられつつも、笑って答えてくれた。

最後に型を2つ3つ教えてくれた。


「見せるだけだけど、できれば覚えて、練習して?」


「「「うっす!」」」


「1の型、静かなる剣先」


刺突と横一文字。

なぜかほとんど音がしない。風の魔法入ってる?


「2の型、荒れ狂う横波」


逆袈裟斬り、左逆袈裟斬り。

ただ、すごい圧迫感を感じる。

幻術? それともやはり風魔法の一種?


「3の型、研ぎ澄まされた精神の糸」


ミラビリスはそう言ってから、

「誰か試しにかかってこい」


「じゃあ、俺が」


ミラビリスは俺の放った剣檄を次々と避ける。


そして、剣が勢いよく弾かれた。


パッシーン!


「うおっ! これが……反射?」


ミラビリスはまったく動いていない。いや、手首と剣先は返されていた。


「反射ではない。身体強化と、あとは兆しを読むと言うことかな?」


機を見るということかな?


「最後に。怜樹はその剣じゃ厳しいのかな? もっと長い得物が好みなんだろう?」


「え……あ、図星……です」


「棍でもやっていたのか?」


「棍ではないけど、似たような感じです」


「棍をやりたいなら、筋力をもっと付ける必要があるぞ」


「筋力」


「怜樹は治癒魔法を自分の体にかけられるか?」


「うす」


「じゃ、それ使っていいから、少年らの2倍は体を動かせ」


「え?」


「年齢も、彼らの2倍以上は行っているのだろう? ちょっと精神的にキツくても耐えられるよね?」


「ちょ、待て」


「怜樹の目標は何だ?」


「おう、待てったら!」


「訳ありで偽名も認めている身の上だ……これ以上は我からは詮索することはない。だが、己の胸に手を当てて、思い出してみるのだ。自分が何処から来て、なぜ自分がここに在り、そして何処に行こうとするのかを。幼き時の自分が、この胸にいたら、何をしたいのかを」


「お、おう。……良いこと言うなあ」


「よく考え、感じるのじゃ」



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