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8.アロニアに話した昔の消防士の夢

中盤辺りに、夢に破れた後の少し暗い過去回想が入っています。


夕飯からは、ミラビリスご一行と一緒に食べることにした。


「うまーい! すごい!」

と大騒ぎしているのは、ミラビリスである。

少年2人は静かにしているが、

「お代わりもあるよ」

と言うと、目を輝かせた。


……やはり美味しいらしい。


「携帯用食料の味とは違うの?」


「そりゃあ、魔法バッグ持ちにはかなわないよ! あと、アロニア殿の生活魔法の滑らかさよ!」


「魔法バッグって希少なの?」


「もちろんさ。うちは家が貴族だけど、贅沢品扱いだから、買えないんだ。我みたいな騎士では、騎士団長が持ってるくらいかだよ。食品を扱う大商人や上位のハンターは、基本、持っているよ」


お金の問題もあるだろうが、単純に料理能力の有無では……?



夜の見張りを今までアロニア1人に任せていたのだが、ミラビリスたちも交代で見張り番をしてくれることになった。


「怜樹は、おいらと組んで」


アロニアと俺、ミラビリスは1人、少年は2人で組となった。セラフは成長期なので免除である。


「なぜ?」


「おまえに教えてないことがいろいろあるから」


「なるほど」


つまり、俺が町に入るまでの間に、アロニアが一般常識を教えてくれるらしい。


それから、魔法も。


人数が増えるとこういうメリットがあるな。


皆が寝袋に入って馬車で休みはじめた頃、アロニアと俺は焚き火のそばで座って番をする。


「リンクス、怜樹というのは、以前呼ばれていた名なのか?」


アロニアがぶっこんできた。


「俺は……どうも、身体と魂をいじられたらしくてな」


勇気を出して言ってみることにした。


「リンクスの時の記憶はないし、異世界にいた怜樹の記憶があるんだ」


「そうか……なんとなく、人格はリンクスとは別人なんだろうなって感じがした」


「この世界に死霊術ネクロマンシーはあるの?」


「あるけど、不完全だよ。完全な蘇りの術は不可能だし、リンクスも自身に何かの術をかけてた可能性はあるが……」


「エルゼパルは、召喚術だって言ってた」


「リンクスの身体に、異世界の魂を植え付けたのか」


「少し俺の元の身体も混じっちゃってるって聞いている」


「だからおまえの魂がこっちに定着できたのか」


感染症の心配も低いよ、リンクスの免疫もあるし。


だけど。


「アロニア……ごめん、リンクスの記憶がないって、つまり……」


「おまえだって巻き込まれただけだろう? すべてエルゼパルが悪いと思えば良い」


「エルゼパルは、悪いやつだったのか?」


「表にまでは聞こえてこないが、性格はひねくれている。魔術師の塔の方針が変わって、これから明らかになるだろうよ」


「リンクスは、どんなやつだったの?」


「かなり慕われていたな。いつも周りに人がいた」


「憧れるなあ。どうして、エルゼパルに陥れられたのだろう?」


「人望があり、将来も有望で、才能もあったが……甘くて、抜けていたのだろう……」


アロニアは遠い目をした。


「純粋で、世間知らずの坊っちゃんで、周りがリンクスを支えてやろうとすら思った」


「アロニアはヨアキムの目で見ていたんだよな?」


「ああ。おいらは、というより、おいらを作ったヨアキムは、よくリンクスと一緒に魔道具を作ったり、飲みに行ったりしていた」


「親友だったって聞いた……」


「最初は仕事のつながりだったけど、最後は同居していたし、公私ともに支えあってた」


それって、共依存に近かったのでは?

それとも?


アロニアの造形は、ヨアキムの趣味だって言うし、少なくともヨアキム側にその気はないな……。


「俺、女性関係とかはどうだったのかな?」


「派手だったらしいよ? 今のリンクスは、すっごく奥手だよね?」


俺は頭を抱えた。


「うわあ……!!」


リア充爆発しろ!!!


ぜったいルームシェアしてたヨアキムが、リンクスが代わる代わる女性を連れてくるために、童貞を拗らせて、「ぼくのかんがえるさいきょうの美女アロニアたん」を作ったとかじゃないか!


ああ、もう!!

俺、ヨアキムに同情するから!!


「でも、それ以外は、近いものを感じる。近い波長の魂が呼び寄せられたとか? 前のリンクスより、大人びているとは思うけどね」


ほう。でもね、俺、精神年齢低いよ……。


「……」


アロニアも何かじわじわと感じるものがあったらしい。半泣きになっている。


遅れて悲しみを感じたのか。

遅れて、俺がまだはっきり言っていないリンクスの死に気づいたか。


「おーい! リンクスよ、死んじゃったのか~!?」


アロニアは、頭上の夜空を見上げた。


「おーい! 魂の予備スペアとか持っていなかったのか? おまえ、自分が殺される時の備えって、していなかったのか!? 死んじゃ、死んじゃダメだよう!!」


アロニアは、ひくひくとしゃくりあげる。

残念ながら、彼女にかけてあげる言葉が見つからないのだ。

そもそも、死の定義がややこしい。

魂を分けるとか……ああ、これだから魔法のある世界と言うのは!


ちょっと焦る。フォローしてあげたいけど、ただの冷たい男みたいだ、俺は。


これだからモテないんだ。


「どこかに予備の魂を置いてあるかもしれないし……俺たちが、リンクスを忘れないでいてあげること、それが大事だと思うよ」


「リンクスのばかぁ!! うえーん……」


俺が死んだら、こうやって泣いてくれる人はいただろうか。

俺はこれから、リンクスの代わりになれるだろうか。


この世では、今度こそ、自分の命を燃やすような生き方をしてみたい、とか思っていたけど、独りよがりの自己満足で死ぬのも嫌だ。


せっかく素晴らしい身体をいただいたんだ。

活用して、思いっきりやりたい。


あ……はい……ヤりたい、のかもしれません……。

せっかくの美形なのでね……。


悲しい場面のはずなのに、俺は苦笑い。



「リンクスは……いや、怜樹は、どんな人なの?」


しかも、美女に気をつかってもらう始末だ。


「俺のことは……まだいいよ」


「いや、人生短いってことを今実感したばかりだから、言って!」


うーん、断るわけにもいかないか。


「え、聞いてみたいの?」


「うん、知ってみたい」


知ってみたいの。


「英雄とかに憧れる男の子だったよ。成人して、その職業に就く試験を受けようと、ずっと、ずっとがんばってきたけど……」


俺は込み上げてくるものを感じた。

いかん、まだ泣くんじゃない。


「ある怪我をして、俺の身体は試験を受ける資格をなくした。……夢を忘れられないまま、俺は別の職業に就いた。でも、……ずっと生きている目的もわからず、俺は生きる屍のようだった。だから、この世界に来れて良かったと思っている」


「暗い半生だったのね……転生者……いや転移……召喚は、本当にあるのね。あ、だからか、おまえの治癒の力が最初に開花したのは……怜樹の魂が、もっとも渇望していた力だったから...…」


「いや、俺が欲してたのは消火能力だよ? 水とか出す系の」



英雄と言ってみたが、前半生の夢は消防士である。

近所の火事に駆けつけたオレンジ色の勇姿。かっこよくて、少年期の俺の憧れだった。


俺は消防士になる。


消防士になって、さらに救急救命士の資格も取るんだ、と思っていた。


結局、俺は関節を壊してしまったので、走れなくなり、消防士をあきらめて、経理マンになったわけだ。


消防署の事務員を目指した中で、並行して受けた、近所の会社の経理に採用されたのである。


やっぱり翌年に消防署の事務員を受け直せば良かった……と思った時には、もうメンタルが限界だった。


俺の心は上司のパワハラと、宴会での見せしめで、干上がってしまっていたのである。


別にその会社が悪いというわけではないぞ?

俺に当たった上司がクソだっただけだ。


その後十数年も勤め続けることができたのは、上司が異動した後はそれなりに居心地が良かったからである。


「宴会の件はかばってあげられなくてごめんね」

と上司の異動後に打ち明けてくれた人が続いたからだ。


だけど、その頃にはもう転職できる年齢制限を過ぎていた。


昔の夢に戻ることなんてできない。

心の奥底で、かつての夢の灯火がくすぶっているような気がしたが、どうしようもできなかった。

俺の心は、あの時のまま止まっていた。


ただただ給料をもらって、残業後、寝るまでの短い間に、本を読む。

それだけが俺の救いで、それだけのために給与を得ていた。


本当は本が読みたかったんじゃなくって、自分の足で冒険がしたかった。


前の身体の足は故障してしまったけど、今は健康な身体がある。


もうすでに心踊る旅をしている。


俺はついにやったのだ!

俺は、夢と憧れの中に、今、生きている!



「水を出したかったの? そうか……じゃあ、練習しないとね……」


「俺の故郷は魔法がなかった。だから、火を消す人たちは、子どもたちの英雄だった」


「魔法の概念が、ない?」


「うん」


「なんで? 詠唱とか、魔力を練ることとか、わかってたよね? なんでなの?」


「本には書いてあったから。昔は魔法があったらしいから」


「なるほどねー。知らないなりに知ってるはずの前提から間違えちゃったよ。だから、理論は知っているけど、実践がないのね。そりゃあ、火花や霧で止まっちゃうんだ」


「??」


「詠唱はただの導火線なのよ。火を燃やす油が、魔力なの。厳密には、魔力を練って放出することなの。おまえはその2つのタイミングが、噛み合っていない」


「ふむふむ」


「言葉より……見せたほうが早いかな? おまえの目に幻を映し出す。それが、正しい魔力のリズムと流れだ。タイミングはいくつかある。律動をよく感じろ」


アロニアは、俺の希望の通り、水を出してくれた。


なんと無詠唱だ。


「次に、詠唱のタイミングで指を鳴らす。指が鳴る時に、言葉の魔力を、グッと、吸い上げた地脈の魔力に乗せるのだ」


その後、俺も実演させてもらって、まるで閉め忘れの蛇口から出るような弱々しい水流を出せるようになった。


「アクア・サーペンス!」


の詠唱省略でだ。


「うん、実演初日でこれだけ出せれば充分だ。もし砂漠でも、もう水には困らないだろう。さすが、筋が良い……」


「他の魔法でもだいたい同じ感じか?」


「うん、だいたい同じ。本当は、治癒魔術だけ、相手の生命力ありきだから違うんだけど、すでに無詠唱できてるし」


死霊術ネクロマンシーは?」


「それはおいらにはわからない。あとは、錬金術がわかるのみ。だけど、もう、今日の見張りはおしまいだ」


「あっ、少年たちが起きてきた」





ただ、俺のその日の眠りは途中で遮られた。

カンカンカンカンカンカンカン!

少年の1人が警鐘を鳴らしている。


「魔獣です! 皆さん起きて、警戒してください! 戦える人はご助力願います!」


今のペースだと5日後更新!

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