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7.とんだ拾い者

ブックマークいただきありがとうございます!

うれしいです!


「あなたがたを是非とも我の護衛に頼みたい。報酬も弾む」


うっ……。俺は物価を知らない。アロニアに視線を投げかけておいてから、聞く。


「日割りでいくらだ? それに成功報酬は?」


「悪いが、成功報酬のみだ。食料はあるが」


「ふむ。では、俺たちが食料調達をしてきたら、買い取ってくれるか?」


「実はずっとあなたがたの食事のいい匂いにもつられていたんだ……食料調達と調理をしてくれれば大助かりだ……でも、持ち金は少ない……でも、全部払う……。残りは、成功報酬と合わせて、我の実家で払う」


「今、いくら持っている?」


「70万ロル」


相場は……?


「十分だ」

とアロニア。


おい、少しは値段の交渉をしろよ!

と内心つっこむが、

まあ、俺も、早く町かなんかで物価の勉強をしないとなんだよな。


「ミラビリスさんの得意な魔法や、得物を知りたい」


俺は言った。


「そうだな、もっともな質問だ。我と共闘することもあろう……我の魔法は、反射魔法だ。そして、得物はこの剣だ」


「他に隠し技は?」


「ん……我は、自慢ではないが……人を率いる才があるらしい。鑑定なんかでは見えない、人の伸び代がわかり、育てていける」


「人以外の種族は?」


「そうか、あなたがたは……皆、人族ではないのだな?」


「人族の血は混じっているよ」


「ふむ。ふむ。では、我の卑下は不要だったか」


「まあ、でも、あまりよく見られたくはないけどね。俺の伸び代なんて」


「うむ。我も、知らぬふりをしておこう」


なんだろう、この人は。

言わば、善意のかたまり?

純粋で、悪意がなさすぎる。


変な道連れが増えたな。

まあ、金づるだ。……たぶんね。


「俺たちは身元の保証がほしい。できれば、ウィクラシア王国の入国許可も」


「うん? ハンターではないのか?」


「いや、俺は仇持ちだ。アロニアは関所破りだ。セラフは……未成年だ」


「そうなのか。国境は越えたから、もう大丈夫だとは思うが、その若さでもいろいろあったのだな」


「俺って何歳に見えるの?」


「17くらいか……。エルフと人の間の子なら、もっと上なのではあろうが」


そういえば、ヨアキムやアロニアは、俺の体=リンクスの年齢を知っていたのだろうか?


「うん、実際はもっと上だよ」


アロニアが代わりに答えた。


「俺って何歳?」


「おいらも知らん! ただ、おまえがあそこで働きはじめたのは10年前とかだったのかな。少なくとも40近い」


俺の実年齢とあまり変わりない。はあ……良かった。


「失礼だが、前職は?」


「魔術師だったらしいよ? 記憶がないけど」


「……察した。エリクス魔道国の出なら、我が国でも引く手あまただ」


「そうだよ」


何気なく答える俺に、ミラビリスは怪訝な顔をした。


「ま、まさか……モノマスから来たんじゃないよな?」


「たぶんそのモノマスの魔術師だったらしいよ?」


「はあ……。あなたほどの魔力量で、それで仇持ちとは、はああああ……うん……そういうことか。うん、そういうことね」


くらくらとしたかのようにミラビリスは頭をかかえだした。


今さらだけども、ミラビリスさんって、綺麗な人なのに残念オーラがすごい。


「それで、怜樹殿よ、あなたは、今はハンター志望とのことだが、それよりも、治癒術師として、我が騎士団に入らないか?」


「嫌だよ。旅したいし」


あっさり断る俺。


「では、アロニア殿、あなたを騎士団の調理師として雇うと言うのは、いかがかな?」


「嫌だね。まだおいらの料理の味見もしてないのに」


なんか正論な気がする。


まだめげていないミラビリスは、今度はセラフを見て、


「セラフちゃんは、王国の学校に通ってみたくない? 学費は援助するよ?」


「ううん、私、ますたあの所で、読み書きそろばん習ったから、もういいの。本で読んだことを、アロニアと怜樹と一緒に旅して、見てみたいもん」


セラフは営業用の(?)笑顔スマイルで答えた。


「セラフちゃああん!!」


とうとう……撃沈した。


今までの話からしても、もしかしたら、なにげにセラフが1番頭がいいのかもしれないと俺は思った。


「怜樹殿……怜樹という名前は、偽名なのか?」


「うん、もちろん偽名だよ?」


「その偽名でこれから通してくれるというなら、身元くらいは保証できる……。が、もしも……エリクス魔道国が我が国に戦をしかけたりした場合には、我はあなたの本名や素性を知らぬ、存ぜぬと言うやもしれないのだが、それでも良いか?」


「うん。大丈夫だよ。俺も、いざという時は逃げられるようにしておくね?」


「いや、しかし……あなたやアロニア殿やセラフちゃんを逃したとするなら、我は、スカウト失敗ということで...…ああ、我の、我のプライドが!」


また残念っぷりを発揮しているので、俺は仕方なく話題を転じる。


「そういえば、あの2人の少年は、ミラビリス殿がスカウトしてきたの?」


「えっへん! 実はそうなんだ! 彼らは将来有望な騎士見習いとして、このミラビリス・アーファが直々にスカウトした!」


「じゃあ良いじゃない? 収穫ゼロじゃないんだし」


「まっ、まあ……」


俺はミラビリスに握手を求めた。


「交渉成立だ。俺たちは...…騎士ミラビリスの旅の間、護衛兼調理番となろう」


「おう、任せたぞ!」




ミラビリスの本務は王国騎士団の人材育成だが、こうして年に数回は、新たな人材を求める旅に出ている。


騎士団の規模を拡大したいという国王の意図もあるが、プレイヤーではなく、将来の指揮を担える逸材というのは希少だ。

だから、国境まで行き、時には同盟国まで遠出をして、人をさがし出す。


子沢山の家、孤児院、スラム街などを見て回り、金を出して親から買うこともある。


だから、行きは資金が潤沢だが、帰りにはおおむね尽きている。


エリクス魔道国の第2都市モノマスで、最近、「魔術師の塔」内部の序列が入れ替わった、という話は、宰相からの念話で聞いていた。


「資金は残しておけ。帰りにモノマスの魔術師を拾えるかもしれん」

という話だった。



まさか本当に魔術師本人と会えることになろうとは。

あの魔力量、治癒能力ならば、間違いない。

怜樹の伴のアロニアも器用で有用な人物だし、救ったばかりらしいセラフも恐ろしい伸び代を感じる娘だ。


ミラビリスは少年2人に命じて、衣服を探させる。


「トメスは白っぽい衣服を見繕ってくれ。なるべく治癒術師っぽく見えるやつをな。ネシリは、あのお嬢ちゃんに合いそうな服を見つけてくれ。あの子に気に入られるかで、我々の居心地がだいぶ変わるだろう」


怜樹と名乗るあの元モノマスの魔術師の素性をさらに隠すために、衣服を改めてもらわねばならない。


あとで宰相にも話をしておかなければ。


そして、女っけのないアロニアによって桃色の服を着ているものの、髪をかわいらしく結ってももらえていないセラフを心配した。


「セラフちゃん、髪の毛を結んであげようか?」


「えっ、いいの?」


ミラビリスは自分の髪を留めている紐を取って、セラフの髪の毛を、かわいらしく2つの三つ編みに結った。


「ほら、この鏡で見てごらん...…どう、かわいいでしょ?」


「わあ! あみあみになっていて、すごい!」



俺はミラビリスに髪を結われるセラフを見ていた。

ミラビリスったら、紐をあげちゃったので、代わりに髪を留めるものがなくなってしまった。


それに鏡……。

珍しいものを持ち歩いているだな。

案外、遭難対策とかに便利なんだよな、鏡って。

男にはそんな程度なんだけど、ミラビリスもちゃんと乙女をしてるんだな。


えっ、鏡!?


「ちょっと待って! その鏡を貸して!」


「いいよ~」


そして、俺はこの世界に来て初めて、自分の顔を見た。

リンクス・アローというハーフエルフの顔を。


……うれしいが困った、美しい顔だ。


アロニアと並んでも遜色なさそうな美形、かつ、髪を伸ばせば、女装すらできそうだ。


元のリンクスの髪は白っぽい薄い金髪で(ほぼ白だよ)、目や耳にかかる程度までは、少し伸びている。


肩の感じも撫で肩なので、少年とも、少女だとも誤魔化せそう。

女とも間違われそうだな。ふふ。


今着ている衣服は、すりきれた魔術師の黒い上下のシャツだった。しかもよく見ると紫の糸で、塔の印章があちこちに縫いつけられているものだったので、身元を隠しきれていない。

(確か黒シャツの上に黒ローブだった気がするが、黒ローブはとうに破けてなくなっている。)


そうこうしていたら、ミラビリスと、もじもじしているトメスという少年がやってきた。


「怜樹殿、そんなに鏡が面白いのかい?」


「まあ……」


「ほら、着替えを持ってきた。できれば、治癒術師として、こっちの衣服を着てほしい」


「治癒術師の服……」


「すまんが、今着ているその服は処分してほしい」


「わかった。あっちに行って焼いてくるよ」




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