19.盗賊狩り(後編)
アジトの入り口に到着した。
早速、洞窟内およびもう一度周囲に索敵をかける。
アロニアに目配せして、突入の許可を出す。
アロニアがハンドサインで「左右どちらに進むべきか」を聞いてくる。
俺はささっとスキャンして、生体反応のある方を教える。
いつも人体の怪我を探る時にやっているスキャンと同じ要領だ。
昨日の風呂の一件があったから、俺は急ぎこの技を完全にマスターせねばならないのだ。
さくさく奥に進み、そして3人がいるとおぼしき小部屋に入る。
うわ、居住空間かよ。
横に小さな窓をくりぬいた、生活感ある洞窟の部屋だ。
「「こ、降参だ!」」
「なんだよ、まだ戦ってないじゃないか」
不平をこぼすアロニア。
「だって、あのものすごい光の矢を放つ奴らだよ? 俺たち、勝ち目なんてねえよ。あの窓から見えてたんだよ、そっちの光魔術師さんが放った高位魔法を」
「あは、なんか俺、ほめられてるみたい……」
「なんて能天気……」
盗賊2人が目くばせする。
俺はふと予感を抱いたので、盗賊たちの前で指を鳴らす。
ビクッと震える2人。
ここは窓がある。だからいいだろう。
俺は無詠唱で指先から炎を出し、脅してみた。
「妙な気を起こすなよ? 燃やしてしまうぞ」
2人は、カクカクとうなずいている。さぞ怖かったのだろう。
「おいらが縛るから、怜樹は女の子を見に行って」
「おう」
女の子は縛られていた。
「怪我はないか?」
聞きながら、彼女の猿轡と目隠しを外してやる。
「ぷはあっ! あ……大丈夫……です」
よく見ると驚いた。
先ほどの馬車の少女と瓜二つ……。
さては、双子だな。
ただし、双子の割には境遇が違いすぎる……。
「きみはあのお嬢様の何者だ?」
「影武者です」
「いや、その見た目は……双子にしか見えないぞ」
「……」
「さては訳ありか。いいか、俺はミラビリスさんとその姪っ子に依頼されて、きみを救出に来た、冒険者、兼、治癒術師のレイジュ・ナカタだ」
「ミラビリス叔母さま!?」
「やはりきみは...…」
「私はミランダと言います。ダイエリアナ様とは、血の繋がりはありますが、別々に育ち、私は下女として姉様に仕えております」
「なぜきみが影武者になるのだ? 同じ双子なのに?」
「私は父に疎まれているからです。私が生まれたせいで母が不幸になり...…。私は実に育てにくかったのです」
「それはきみのせいではないと思うが」
「いえ私のせいです……」
セラフが駆けてきた。
「怜樹お兄ちゃん! 盗賊たちは氷詰めにしてきたよ!」
「お、おう。ありがとな」
ほどほどにしてくれればいいんだけど……。
アロニアがやって来た。
「セラフもいい働きをしてくれたぞ。あとは運ぶだけだ。おや、何をしている?」
セラフは、ミランダを見つめて、呆然としている。
ああ、鑑定で何かが見えたのか。
「すっごい珍しい魔力……」
「う……」
青ざめるミランダ。
「でも大丈夫よ。怜樹お兄ちゃんはそんなことは気にしないし、もしも誰かを傷つけても、治してくれるから」
ほう。強い攻撃魔法とかかな?
でも使った形跡はない……。
「ミランダは歩けるか?」
「う、うん」
「アロニアは1人運べる?」
「2人運べるよ」
「セラフはもっと冷やす~!」
アロニアが「ちょっと待って」と言って足早に元の部屋へ戻った。
「何?」
「ふふっ、……怜樹お兄ちゃんは良いの」
なぜかセラフまでしたり顔をしている。
どういうこと?
あ、そうか。盗賊の財産を押収する気なんだ。
この世界では許されているのか……。
はあ……元経理マンとしては、忌避感のほうが強い。
腕っぷしや魔法の力が強い者が、実力で全てを敗者から巻き上げて、敗者は泣くしかできないのか。
……法や秩序、いや……良心はないのか。
俺なら、その金は……。
義賊として、苦しんでいる貧しい人達と虐げられている人達に施す!
なーんちゃってな。
いや結構、本気だったりするが。
俺の意図を察してか、察せずか、アロニアと目が合う。
「ギルドへの上納、指定された神聖教会への寄付分、自由裁量の孤児院への寄付金、領主への納税、それらを引いても余りあるな……」
アロニアが俺に耳打ちした。
「他にも寄付するところはないの?」
俺はそう聞いた。
「3割は討伐者の取り分……つまり危険手当と生活保証と報酬分と決まっている。だからおいらたちが受け取るんだ」
「なるほど」
そういうわけか。
当初あった罪悪感は薄れたが、けっこう持っていかれるので、まあ報酬分はもらっとくか、という気分になった。
山を下り、ミラビリスたちと合流する。
「無事、戻ったぞ!」
「おう!」
「盗賊も生け捕ったよ」
「鎖ならこっちにあるぞ。その、氷漬けでは、寒かろう……」
ミラビリスが信じられないものを見るかの表情になっている。
俺たちパーティーの盗賊たちへの仕打ちは、やり過ぎたようだ。
俺はミラビリスに声をかける。
「あと、ミランダも連れて帰ったぞ」
うなだれたミランダを、ミラビリスの脇に連れてきた。
「おう、ありがとな……」
ミラビリスは歯切れ悪く言った。
珍しい。
本当にお家の事情でこの双子を別々に遇していることを、まるで恥じているかのような。
「盗賊たちの結び直しが済み次第、このまま領都へ向かおう。この、我の姪たちの家があるんだ」
姪たちって、(双子の片割れは怪しいが)やっぱり貴族だよね?
こんな優美な馬車に乗れるってことはね?
「馬車は動かせるの?」
「ちょっと車軸がイカれちゃって厳しいんだ……」
ミラビリスが弱ったように言う。
「それはおいらが」
アロニアが挙手した。




