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16.仇敵エルゼパルの憂鬱


「なあ、アロニア……魔法陣を2つ起動させるのって、難しいの?」


「えっ……おいらなら、いつも湯沸かしを2つ同時でやってるけど」


「おう……そうなのか?」


「怜樹もまずは水球を2つ3つ同時に出してみるといい。良い練習になるぞ」



(怜樹の仇、エルゼパルの視点)


リンクスの死体を探させたが、見つからなかった。


死体の運び屋もいきなり辞めてしまい、行方はわからない。


リンクスの人相書を配っても、情報は得られない。


「意外と皆の口が固いな。そんなに慕われていたのか?」


一人で逃げられたわけがない。

ケルベルスに襲わせ、出血多量の状態だった。


「あの怪我では、逃がした者がいておかしくはない。その者は、完璧な隠蔽魔法でも使ったのか?」


私の探査魔法をくぐり抜けるような魔法の技量の持ち主だと?


その線はまず無いな。



それとも、あの失敗作の半分リンクスの男が、あの超短期間で、魔法に覚醒した可能性も……?


「馬鹿な……その可能性は、私の計算では0.001%の確率だったんだが……? その奇跡に等しい適合者の魂だったということなのか!?」


そんな逸材なら、逃してしまったのは愚策中の愚策だ。


私の求めていた実験に必要な、成功作である。


だが……一度成功しているなら、もう一度試せば、成功するのでは?


「ふふふ……フハハハハハ!」


なぜなら私は、天才だから!


さあ、次の器を探そう……。



「器」とは、もちろん新たな肉体である。

そのためには、また人を殺めねばならない。

次の者には、完璧な洗脳を施さねば……。




そして、エルゼパルは何人かを秘密裏に殺した。

しかし、魂の召喚には、どれも成功しなかった。


「おかしい……何かがおかしい……私は天才なのに……」




「エルゼパル様、報告です」


伝令が一人やって来た。


「何じゃ?」


「ウィクラシア王国内にて、エルフの男を見かけたとの隠密からの伝書鳩が届きました」


ウィクラシア王国には、密偵を何人か忍ばせている。敵対するような国でもないが、友好関係でもない。


隣国なのに、地理的にあまりにも行き来しにくいのだ。だから伝書鳩が役に立つ。


「エルフの男か……新しい器に良さそうだが……まさか、逃げたリンクスではないだろうな?」


「連れに女がいるそうなので、可能性はありますが、その男の得意とする魔法はリンクスとは違うそうです」


「まさか魔術師なのか!?」


「中級魔法を扱ったそうです」


「ますます器として欲しいな」


リンクスなのか……リンクスではないのか?

謎のエルフ男だ。


だが、もしもリンクスだとしたら。


魔法が覚醒したな。

少し遅いが、確率論では、私の予想を超えた成功作だったか……。


私としたことが...…判断を誤ったな。


「リンクスの可能性もあるな。中身は別人だが、私のことは覚えているだろう。呼び戻す方法はあるか?」


「懸賞金をかけて、生きたまま捉えるように冒険者ギルドに通知したようです」


「ちっ」


「何か不味いことでも?」


「それでは逆効果ではないか?」


「いえ、どんな形であれ、ここに来さえすれば、洗脳して使えば良いのでは?」


「そう私に進言する者ばかりになったな……この塔も……」


リンクスの中身に興味がある。

召喚後の適合率に、魂の性格がどのような影響をもたらしたのか、知りたくなってきた。


リンクスの時は、いちおう現世に夢を持たない者を呼び寄せたはずだったのだがな……。

そいつには生き延びるしたたかさも、逆境にくじけない心も期待していなかった。


せめて洗脳の程度を低くすれば済む程度の従順さのみを求めていた。

自分の手足とするために。


深手を追わせたはずなのに、ピンピンとして生きているとは……。


女を伴っているのも奴らしくて気に入らないな。

奴はモテたからな。


中身も女好きなのか?

わからない。


またリンクスのようにヤりまくっていたりしてな……。


なんてな。


私は失敗作となった女性の身体を安置しておいて、死霊術をかけて、魂を呼び戻す。

ものを言わない下位の死霊で、肉体には毎日、防腐処理の術をかけて腐らないようにしてやる。

その冷たい身体を愛でることくらいしかできていないのに……。


リンクスの中の異世界人がうらやましい。


「おい、ウィクラシア王国に潜伏させているその隠密は、そのリンクスみたいな男を追っているのか?」


「そうであります」


「なら、その隠密に魔道具を渡したい。頼めるか?」


「ははっ!」


ふふふ……リンクスの中身め、私がこっそり監視してやろう。


そしておまえの性格の弱みも魔法も暴いてやるぞ!



(怜樹の視点に戻る)


「はっくっしょん! 珍しいな……風邪かな……?」


念のため自分の身体にヒールをかける。ついでに疲労も吹き飛ぶ。


寝る前にアロニアに課せられた魔法陣の描画を練習する。

漫画のトレースみたいに下から光を当てると、とても早い。


基本的な型を複数個、書き写す。


魔法陣とは、「魔力を瞬時かつ自動的に呼び出すためのもの」だとアロニアから教わった。


しかし、不思議なことだが、俺が召喚されたのも、魔法陣の上に、であった。


そもそも魔法陣とは、何かを召喚するためのものなのだろう。


アロニアは魔力そのものを呼び出しているように思うが、自分の本来の属性でない魔力の場合は……。


てか、そういうことが理論的に可能なのか?


魔力を呼び出せる、その魔力の属性を持つ存在を、例えば魔獣を、魔法陣から出る寸前まで呼び出して、魔力のみ抜き取って放出させることもできるのではないか?


ただ、安定した状態での魔力を使いたい場合が多いから、魔獣を遠隔であっても手懐テイムけさせる必要が...…。


ううーん、それは高度すぎるかな。


何か、今日の温泉で会ったみたいな祖霊さんとかを手懐テイムけできないかな?


彼らなら、見えないし。

物理を無視できるから、遠隔とか気にしなくて良さそうだし……。


そういえば、俺に不向きな魔法って何かな?

今、苦戦している空間魔法とかかな?


空間魔法が使える霊って何だろう?


魔法陣だって描いて大量に収納できれば切り札をたくさん持っている状態になる。


ああ……俺、空間魔法さえ使えればいろいろなことができそうなのに……。


高校で習った物理の知識で考えてみる。


「幸い、俺は光魔法使いというジョブに就いているらしい。能力が上がれば変わるかもしれないが……光……と言えば、水の中で屈折するし、鏡の表面では反射する。光は光速で進んで、真空中も真っ直ぐ進む。……あっ」


俺は魔法陣の隣に今、思い付いたことをカリカリと書く。


書いたことと魔法陣をじっと見つめていると、共通項が浮かび上がる。


うん、これなら、行けるかもしれないぞ……。

練習する価値はありそうだ。



「えいっ!」


「それっ」


「えいやっ!」


「えいっ」


魔力を全身にみなぎらせ、先程のイメージを魔力に込める。


俺がイメージしたものは、「光速で動くもの」と「宇宙」だ。


「えいっ」


「えいやっ」


動かない。

何も変わらない。


でも、それが、俺が時空間の魔力にかすかに影響を及ぼし、例えばほんのコンマ何秒の時間に働きかけ、極微細な多次元に対してズレを産み出したことに、まだ俺もこの世界の誰も気づいていなかった。





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