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13.初任務(後編)


セラフの魔力を中和させながら、治癒もかけていった。

そして、とうとうセラフの魔力が尽きた。


魔力切れの状態は、危うい状態だと言う。

だから、治癒魔法を送り込みながら、セラフの中に少しだけ魔力が残るようにした。


「よし……」


向こう側ではアロニアが魔獣の死体から、討伐証明部位と魔石を切り抜き、魔法バッグに詰めこんでいた。


「怜樹、残りは村人に分けよう」


「うん」


どうやって分けるべきか俺は知らない。アロニアに任せよう。


「怜樹……おまえならできると思っていたが、セラフのことは、やっぱりおまえがいてくれて良かった」


「もともと俺が救ったのだし……」


「いや、セラフはもう仲間だ」


アロニアがきっぱりと言う。「彼女だって好きで爆発してるわけじゃないだろう」


アロニアが「仲間だ」なんて言うなんて……おじさん、泣けちゃうね。


「よいしょっと」


セラフの他にもう一人、さっき治癒した村人の少女に上着をかけておく。


抱き上げて運んでもいいのだが、マンパワー不足だ。誰か村人が来ないかな。


「はあ~! 疲れた。温泉に入りたい~!」


「まだ落ち着ける気分じゃないな。てか、温泉って入るものなんだ?」


「うん、肩までザブンと」


「??」



俺の索敵に複数の気配がひっかかった。ただし、殺気はない。

戦いの様子を伺っていた村人たちのようだ。


「あの~、この子たちを見てやってくれませんかねえ。俺、ひと息ついたから、温泉に浸かりたくって」


か細い男の声が帰ってきた。

小柄で、かなり華奢な青年のようだ。


「その……温泉って、浸かるものなんですか?」


「えっ、入らないの?」


「エルフの冒険者様、こちらでは肌を見せてまでお湯に浸かる文化はございません」


「意外と奥ゆかしいお国柄だな」


「いえ……川では普通に裸で身体を洗うのですが」


「それをこちらでもやればいい」


「はあ……てっきり卵の色付けにしか効果がないものかと」


「お肌が柔らかくなるよ……ああ、入りたい」


「そうなのですか。でも、村を救ってくださった冒険者様なのです。村長宅で、おもてなしさせてください」


「いや俺は...…目立ちたくないし、温泉だけでいいよ?」


「ここは川魚も取れます」


「はうっ」


ゴキュ、と思わず唾を飲み込んだ。


「川魚に塩をまぶして焼くだけの質素な料理ですが、いかがでしょうか……?」


転移以来の魚の料理だと……!? これは、逃せないチャンスだな!


「乗る! その話、乗った!」


「そうですかっ! はは、良かった、良かったです」



思ったより豪勢な食卓だった。


「あれ? あれれ?」


隣でアロニアが魚の骨に手間取っていた。


「ちょいと手伝おうか? ほれ、骨はこうやって取るんだ」


「ふんふん」


エサをもらう犬のように、アロニアはちょっと上目遣いで俺を見てくる。


「……え?」


どしたの?


「あーんしてほしいにゃ」


「猫? って、ええーっ!」


まさか、このタイミングで甘えるぅ!?

俺的には「無い」寄りの判定なんだけど。


あとでお待ちかねの入浴タイムに是非やり直してほしいな、なんてな。


「仕方ないなあ……ほれ、あーん」


「……」


もぐもぐと幸せそうに食べている。


そういえば、今回はセラフは寝ているので、一緒に食べてはいない。

アロニアもこうやって俺には甘えたかったのか。



俺の目の前では村長が酔っぱらっている。


「仲が良さそうで、何より、何より」


なんて言っている。

恥ずかしい……。


でも、ほのぼのした慰労会で良かった。




さあて!

そろそろ酔いを冷まして(治癒魔法で無毒化して)、ひとっぷろ浴びるぞ!

いざ、温泉だ!


「あの、どなたか時間は分かりません?」


「げ、もうそんな時間? アロニア……」


俺はすがるような目で彼女を見た。


「門限は厳守」


ちょっとにらむように俺を見てくる。


「うえ……厳しい……」


「怜樹よ、おまえの希望の温泉利用法を実行するには準備が必要だ。少なくとも、おいらは食品(=卵)と一緒に浸かるのは衛生的ではないと思う」


「ふむ……上流に卵、下流で入浴というエリア分けが要るか」


「そうだね。だから、それを伝えて準備してもらう」


「あ、紙とかある? 俺、絵を描くから」




時間を伝えに来た村長に礼を述べつつ、俺は紙を渡した。


「あ、あの、明日もまた来ますから! それと、これ、思いつく限りの温泉利用法です。明日……これを試してみたいです」


置き土産に「温泉の効能」を教示しておいた。

絵と箇条書きで申し訳ないが。

また明日だ。


少女の回復具合も追いたいし。


「おう! なかなか着想に富んでおるではないか! ふむ……湯治、というものを増やせと? ふむふむ、これが当たれば……村の収入源が増えるかの……?」


「あの、明日、俺たちの身体で試してみたいので」


「良かろう、良かろう、準備しておくぞ……あと、それから、もともとの報酬設定が低かったんじゃ。これを成功報酬として、そなたに授けたい」


キラリと村長の目の奥が光った、気がした。

 

報酬が少ない詫びだと言って、棍をいただいた。


「え? これ、お高い武器なのでは?」


欲しかったやつだ……。嬉しい……! が。本当にもらっちゃって良いの?


「わしの母が、昔、先読みして、予言したんじゃ。たぶん、わしの目にも狂いはない。そなたは棒術をたしなむじゃろう?」


「ええ、そんなようなものです……」


「これは、わしの祖父が愛用していた棍じゃ。魔力を通すし、どうも、聖樹の枝からドワーフの職人が作ったものらしくての。もちろん、エルフの聖樹じゃ。そなたにふさわしいじゃろう?」


「はい……」


「祖父の時も、棍術は珍しかった。じゃから、初見では有利な武器じゃ」


「ありがとうございます……うわっ!」


重い!


「はははは! 鍛錬が必要じゃな!」


俺が魔力をちょびっと注ぐと、握った部分が淡く光り、少しだけ軽くなった。


そうか、身体強化と治癒魔法でもいけるか?

でも……自分の筋力だけでも持てるようになったら、もっと良いだろうな。



帰り道ではアロニアがセラフをおぶっていた。


「怜樹、ありがとう……」


寝言かなんかわからないが、セラフがふにゃふにゃと言っている。

そして、にっこりと笑いながら、やはり寝ている。


なんか子どもらしいな、と思った。


「なあ、セラフの魔法の属性って何だと思う? 俺たちは4大魔法全部に適性があったけど、セラフはそうじゃないかもしれないし」


「そうだね。セラフは1つか2つって可能性はあるね。4大魔法のうちなら、セラフの適性はどれだと思うかい?」


「やっぱり火かなあ」


「あれだけ密着して、その判断か。おまえ、鑑定は無理なのかなあ……」


「あれだけ鎮火したのにぃ?」


「セラフは竜人なんだろ? 竜は確かに火のブレスは吐くが、使える魔法が別系統だってことも多いんだ。例えば、土竜ならダンジョンを作ったり。水竜なら、湖の中にいて、大波を起こして船を沈めたりする」


「なるほど。俺の故郷なら水竜の伝説ばかりだったなあ……」


洪水が多い暴れ川には「竜」の漢字があてがわれていたり。そういう字がない川でも、地元には竜神伝説が残っていたりした。

懐かしいな、小学校の自由研究でそういうことを調べたんだっけなあ。


「もしも適性がわかったら、セラフはもっとちゃんと魔法を放出する練習をできるかなあ、と思ってさ」


「ふむ。いい着眼点だ」


「セラフの魔力を冒険者ギルド支部で、見てもらえないかなあ……」


「もしちょっと早く着いたら、宿に帰る前に、ギルド支部に寄って換金しようと思ったんだが。だが、おいらでもセラフの魔力適性なら、わかるぞ」


「え、それ、もっと早く言ってよ!」


「それじゃ、おまえの鑑定練習にならんだろ!」


「はいはい」


アロニアはもっともらしい屁理屈を言ったが、本当は、ややこしい魔力を持つセラフに、俺の治癒魔法のサポートなしには迂闊に触れたくなかったかもしれない。

だって、セラフは意外とガラスのハートだってわかったし。アロニアは慎重派だし。



アロニアの競歩に、俺が長い棍を持ちながら必死について行ったので(鍛錬だと思ってた)、冒険者ギルド支部には早くに戻れた。


まだ周りの酒場も活況だ。宵の口ってところだ。

ああ、温泉に浸かりたかったな。夜の良い感じの冷気がある。


「お邪魔しま~す」


「はい~、あ、無事戻られたんですね!」


受付嬢が笑顔で出迎えてくれた。


「討伐完了してきたよ、これが討伐の証明部位だ」


「はい、魔獣の1頭分、しかと確認しました。では、報酬のお支払いの前に、ちょっと支部長からお話があります」


「えっ」


「ではこちらへどうぞ」


別室に案内され、いかつい体格の支部長に出迎えられた。

想像では支部長は武闘派のゴリゴリ筋肉マッチョで傷だらけ、かと思っていた。


だけども、出てきたのは、魔術師然とした、短い白髪を角刈りにした壮年の男である。

あ、傷のある顔だということだけは、想像が当たってはいたが。


「こんばんは、わたくしは支部長のローランドと言います。見ての通り魔術師です」


「どうも、こんばんは。俺はレイジュ・ナカタと言います」


「午前中はわたくしの姪の見習い鑑定師が失礼しました。申し訳ありませんが、わたくしが再度、鑑定させてもらっても、よろしいでしょうか?」


「ええ、かまいませんよ」


俺はわかっていた。鑑定結果は変わらないと。


「腕を見せてください」


「ふむふむ……なるほど。姪の結果と同じ結果が出ましたね。失礼しました。あと、もしもご希望でしたら、わたくしでしたら各魔法属性の適性とかもわかりますので、お伝えしましょうか?」


ほう。それはいい。


「ぜひ!」


「ちょっと待ったあ~!!!」


「どしたの、アロニア?」


「それよりもさ、おいらとそこの子どもにも冒険者証の見習い版を発行してもらえないか?」


「ええ、もちろん。それは今回の討伐成功を鑑みて、わたくしからも発行しようと思っていたところでしたよ」


「え? そうなの?」


アロニアの目が点になった。


「成績の良い冒険者は、こちらから優遇する、それが我々冒険者ギルドの方針なのです」


「そうか、一種の囲い込みか」


「ええ、そう思っていただいてもかまいません」


気づいたら、見習い用の冒険者証の発行手続きに移っていて、俺の魔力適性の話はうやむやになった。

まあ、たぶん、全種類の適性があるかもしれない……。


なお、眠っているセラフの登録は、俺およびアロニアが代筆した。



帰る前に、支部の受付で討伐報酬を受け取った。


「これが今回の報酬になります! また次回もどうぞよろしくお願いいたします!」


「あのな、怜樹、報酬は山分けにしよう」


「え、アロニアの独り占めじゃなくていいの?」


「お前もがんばったし、セラフもがんばった……だから3人で山分けがいいんだ」


「そうか、サンキュ、な」


もらった報酬は何に使おう? やっぱセラフの着替えを買うかな。


宿に着くと、酒場のカウンターにミラビリスたちが腰かけて待っていた。


「やあ、お帰り」


「どうも、遅くなってしまった」


ミラビリスたちは何をしていたんだろう? と俺は思ってしまった。

なぜなら、こんな町中に来たというのに、ミラビリス自身は自分の髪留めを買う暇もなかったのか? と思ったからだ。

まだ彼女の長い黒髪は、結わえられずに、肩にゆるくかかっている。


(もちろん隠れて冒険者ギルドとの調整をしていた。他には従兄に会ってた。人材登用の続きという言葉で従兄に依頼されて、従兄に鑑定眼として使われてただけだったりする)


その晩はお互いに今日あったことを報告しあって、自分たちの部屋に入って、早めに寝た。



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