表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/29

10. 草原地帯

メリークリスマス!



お昼ごはんはアロニアとセラフが用意する。

そういえば、セラフは生活魔法を使っている感じはなかった。

アロニアが火をくべ、水を用意し、セラフは野菜を魔道具で切ったり、薪をくべたりしている。


セラフは魔法を使わないのか?

鑑定眼は、自分の中で使う魔法だけど、着火したり、水球を出すような、自分の外に魔力を出すような種類の魔法を使わないのだろうか?


もう魔封じの首輪はないのだけれど……。


特に困った様子もないし、まだ急ぐこともないか。



「怜樹殿! もうすぐ森林地帯を抜ける! 草原に出れば遮蔽物がほとんどない! 敵からは格好の標的となる! なので! 怜樹殿の索敵能力での警戒を要請する!」


「承った!」


「同じくアロニア殿にも周囲警戒への協力を願う!」


「承知したよ!」


ピリッとはりつめた空気感。

なんだか、ワクワクする。


草原地帯、というより牧草地のようだ。


ところどころ、葡萄の生い茂ったような低い灌木や、ポツンと生えた大木は現れる。


体を鍛える組は走っているが、俺とアロニアが先頭だ。次に少年たちが続く。


最後尾に馬車がつくが、


「遅くなってるぞ~! もっと膝を上げていけ!」


とミラビリスが声を張り上げている。

セラフは馬車の後ろに腰かけて、ぼうっと後ろの景色を見ている。





「セラフはまた薪を持ってくるね~」


「ああ。夜は怜樹もいるから、太い枝は剪ってもらうといい」


夕飯の準備時にも珍しくセラフが一緒にご飯を作った。昼のせいで、料理補助の魅力にはまったか。


ちょっとセラフの様子にも気を留めないと。

この子は、魔力の異常みたいなものを首輪で防いでいた。魔力が制御できないことがある、とも言っていた。


でも、その異常状態って、どうやってわかる?


それもそうだし、元は奴隷として育てられて、いきなり解放され、元のマスターとも離れてしまったのだ。


健気けなげにしているけど、無理してるかもな。



またアロニアとの夜の見張り番の時間にでも聞いてみるか。


「なあアロニア、セラフ、大丈夫かな?」


「セラフ? 大丈夫じゃないの? 何か心配なところでもあるの?」


「魔力の制御がさ……。外にも出してなさそうだし……」


「ああ、あの子の魔力の流れね……ちょっと異常だね……。でも、大丈夫だよ。いざとなれば、おいらも気づくし、怜樹が止めてくれるでしょ?」


「俺が、止める??」


何を言ってるんだ。


「もともとの火傷だって怜樹がすべて治せた」


「それが何なんだ?」


アロニアが近寄ってきて、俺の耳元でささやいた。


「あれもセラフの自爆の可能性もあるんだよ」



大丈夫か?

セラフ、こっちを見てない?


あ、大丈夫だ。鍋をかき混ぜている。


「もしかして……巨大百舌鳥はただ、木にはりつけただけなの?」


俺はそう聞き返した。


「元の主人に捨てられ、魔獣の餌食にさせて証拠も残らない……そういう手もあるのだよ。だけど、セラフにはそれを言っちゃいけないよね」





夜の番が来た。

今日は森を抜けたみたいで、牧草地に向いてそうななだらかな丘と草原が広がっている。


ここもまだ辺境に近いから、魔獣が出る可能性が十分ある。

丘の上は小さい魔獣が大半らしいが。


夜空の星々がくっきり見える。

知っている星座がない。


急に郷愁に駆られて、ちょっとセンチメンタルな気分になってしまった。

やはり、ここでアロニアに聞こう。


「ねえ、リンクスの夢って何だったのかな」


「唐突だな。どうした?」


「なんかさ……彼の成し遂げられなかった夢をさ、引き継げれば良いのかなって思ったんだ」


「らしくないな」


「うん、まあ、そうかもな」


と言いつつ、疑問はまだ湧き上がる。


「なぜエルゼパルと争うことになったの? あまりそういうキャラじゃなかったんじゃない?」


「そうな……彼らしくない」


「収入や、女だけが目的ではなかったんだろうな。好きな研究を続けるために……予算を得たり、塔の方針に意を唱える必要があったのかもしれない」


「そうなんだろうねえ」


アロニアがふと聞いてきた。


「リンクスの復讐を継ぐの?」


「それはわからない」


「おいらとしては、エルゼパルに対して復讐してほしい気もするけど、おまえはリンクス本人ではないし。……無理強いは、しない」


「前の体や前世にもう未練はない。だけど俺はこの世界を知らなすぎる。自分の能力を試してみたい。だけどこの体も能力もリンクス依存で……」


俺は両手を上げながら、お腹のあたりを見た。

俺は続けた。


「リンクスの親友だったヨアキムや、アロニアには、俺がこの体を、その、『大事に扱ってくれ』くらいは言う権利があると思うんだ。その……リンクスが愛した人がもしいるんなら……その人が、俺の手を握りたいって言うんなら、握らせてあげたい……というか」


「ふむ。では、リンクスの体への敬意はあると? だからこそ、リンクスの意思を継ぐ可能性はあるということだな」


「後者の可能性は低いけど」


手始めに俺の生き抜く力を養わないと。

まずはお金のことかな。


「……あの、アロニア、俺に今日は、町中で買える物の名前と、その値段を教えてくれ」


「教えても良いが……今のおいらの残りの金的には、たぶん冒険者登録して一稼ぎしないと」


驚いた。


「そんなカツカツなの!? じゃあ、この上に羽織る上着とか、セラフの着替えとか買えないのかな~」


「あのね、おいらは軍資金として、20万ロルは持っているの。衣服は1着1万ロルからだ。買えなくはないよ」


ふう、ジリ貧というわけではないな。

だが誰のお金だ?

借りたら、返せと言われるだろう?


「でも、そのお金ってヨアキムのお金じゃ?」


「そうだよ。厳密には、ヨアキムとリンクスの発明品の収入分。だから半分はおまえの持ち分だ」


特許料収入みたいなものか。

リンクスも発明者だったんだな。


「あのさ、死んだリンクスのお金って引き出せないの?」


「? リンクスなら自分で空間魔法の中に財産を隠してたよ」


「え……それが理由で殺されたんじゃ...…?」


そういう強盗殺人とかあり得るだろ、この世界なら。


「それはない、ない。恐らくおまえが空間魔法を使いこなせるようになれば、引き出せるとは思うが」


「ううーん、それはまだ先じゃないかな……」


生体認証式のストレージ魔法か。

まさか解錠できても、貧乏ですっからかん、なんてないよな?


期待しないでおこう。


「1食分、6人前をお店で頼んだらいくらになるんだ?」


「大衆食堂で、6000ルーナだ。0.6ロル相当だが、0.何ロルとはほとんど呼ばない。お酒をつければ倍だ」


「1ロル2000ルーナ」


「当たり。だけど自前で調達できたらもっと安いよ」


「だろうな。冒険者の依頼料は?」


「まあ、登録料から最初はかかるから……」


冒険者の仕組みは想像通りだ。最初の登録料は必要らしいが、以後は依頼を受けて達成すれば、適度に収入を得られる。


低いランクの依頼は、命をかけなくて良いし、装備も貸し出してもらえるような、掃除や土木作業や探し物の依頼だという。


ただ収入は1件当たり100ルーナから5,000ルーナだ。冒険者稼業の専業で生きるには、少々心許ない。

副業が必須だ。


それか、もっと危ない依頼に手を出すか。

いわゆる危険手当だ。


俺の治癒魔法頼みにパーティーで危険な依頼を引き受ける。

俺自身はゾクゾクするが、アロニアはどうか。


慎重な意見を言いそうだな。





「明後日には街に着く」


翌朝、ミラビリスが皆に言った。


おお、やっと再びの人里だ。


「その街は、都と比べるとどんな所で?」


「ただの辺境の拠点の一つだ」


なあんだ。ちょっとがっかり。


「ただ……我が従兄弟が治めているから、居心地は悪くないはずだぞ」


なかなかの血筋だな。従兄弟殿は譜代の大名みたいなものか?


ますますミラビリスが混血だというのが謎だ。


まあ、どこかに日本みたいな島国があり、和食の素材にありつけるかもという希望は抱けるが。


「買い物が楽しみだ」




道中では1度、オークに襲われた。


群れである。

ちょっと厄介だ。


だが一頭はミラビリスが剣を一閃。


「えいっ!」


しなやかな女性の体から放たれたとは思えない、膂力ある打撃であった。


先日見せてもらった型も一部分は含まれていそうだが、やや太い剣でぶつかると威力がすごい。


1拍遅れて、ドッとオークが地に倒れた。



「怜樹は後ろのオークジェネラルを」


「えっ」


殺気に気づくのが一瞬遅れた。

俺の経験不足感は否めない。


心の中でイメージを念じる。


(ミット・フラムモ! 高出力!)


俺の掌から、青白い火の玉が放たれ、まっすぐ飛んで、オークジェネラルの頭を貫いた。


「青い炎とはやるなあ……」


ミラビリスが呆然としている。


「しかも無詠唱? 本当に?」


アロニアは隣で楽しそうに、オークと殴り合いをしている。

おい、今日は細剣レイピアはどうした?


腰に差してある。


少年たちの剣との接触を避けたとか、いくらでも言い訳は立つが。


嬉々とした美しい横顔を見て、これ以上触れないほうが良いかな……とさえ思った。




今晩の自家発電は、このアロニアの横顔を思い出しておかずにしよう。


うん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ