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エリーの後悔

まだ夢と現実の区別がつかないまま真希は、

『エリー、エリー‼』

と、必死にテレパシーを送った。しかし何の返事もない。慌てて携帯電話に電話をかけたが繋がらない。ラインでも『大丈夫⁉』と送信したが、返信はこない。じっとしていられない真希は、さっさと身支度を整えて登校前にエリーの家へと向かった。

「一度起こしたのだけど、もう少し寝ていたいと言って起きて来ないの。昨日は疲れていたようだから今日は休ませるわね。わざわざ来てくれてありがとう。」

 穏やかな笑みを浮かべて話すホストマザーとは正反対に、心配で顔が強ばっている真希だったが、エリーは意識があり話もできることがわかったので、少し落ち着いて学校へと向かった。授業中もうわの空だった真希にエリーからラインが届いた。

〔ごめんなさい。私は大丈夫です。〕

「あぁ良かった。」

 真希は授業中だったが、一気に緊張が解けて声が出てしまった。

「高橋、何が良かったのだ?」

先生は真希の独り言を聞きのがさなかった。クラスメイト数人の笑い声の中、真希は顔を赤らめてうつむいた。ようやく放課後になり、真希は部活を休んでエリーのもとへと急いだ。顔を見るまでは落ち着かなかったからだ。英司とヒカルには、

〔エリーは大丈夫みたい。帰りにエリーの家へ寄るから、また報告するね〕

と、ラインを送っておいた。

 真希の顔を覚えたホストマザーは優しい笑みを浮かべて、エリーの部屋へと案内してくれた。

「エリー、お友達の真希さんが来られたわよ。」

 ホストマザーは部屋をノックしながら言った。すぐにエリーが驚いた顔をして戸を開けた。

「ゆっくりしてね。」

 ホストマザーは真希に向かって微笑みながらそう言うと、部屋の前から去って行った。

「心配をかけてしまいました。」

 エリーは暗い表情のまま、うつむきながら言った。

「大丈夫?まだどこか痛いの?」

 真希は元気の無いエリーが心配だった。

「やわらかい草の上だったので、体は大丈夫です。ただ・・・。エリックやシースーに『大丈夫』と伝える前にこちらに帰って来てしまったから、心配しているだろうなと思うと・・。」

 浮かない顔の原因がわかった真希は、ほっとした。

「もう一度アトランティスへ行って、大丈夫だと伝えたくて眠っていたのですが、やっぱり行く事はできませんでした。エリックの注意を忘れて手を離してしまった私が悪いのに、シースーが気にしていると思うと、つらいです。」

 目に涙を浮かべて話すエリーに真希は心から同情したが、笑みを浮かべて言った。

「エリーは本当にシースーのことが好きなのね。大丈夫、またすぐに会えるよ!」

 また会えると言う真希の明るさで、エリーに少し元気が戻ってきた。やっと笑顔になった二人はまた夢の中の話で盛り上がっていた。

「あ、英司とヒカルにも報告しないと!二人とも心配しているから。」

 真希は手短にラインを送った。

「そろそろ帰るね。」

 まだ六時前だというのに外は薄暗くなっていた。

「お邪魔しました。」

 優しいホストマザーにあいさつをして、『またね』と、エリーにテレパシーを送ってみた。真希の顔のゼスチャーを見て理解したエリーも『またね』と同じ仕草で返した。外に出ようとした瞬間、真希の携帯電話の着信音がなった。ヒカルからだった。

「近くに来ていると思うけど、エリーの家がわからなくて・・。」

ヒカルもエリーのことが心配で部活を休んで、エリーの家に向かっている最中だった。真希が家までの道を話し始めて間もなく、ヒカルの姿が見えた。塾へ行く時間が近づいていた真希は、ヒカルと交代するように帰った。

「中に入りますか?」

 エリーの元気そうな声に、ヒカルは安心した。

「すぐに帰るから、ここでいいよ。でも本当に無事で良かった。」

 ヒカルが心から安心している様子を見たエリーは、申し訳なさそうにうつむいて言った。

「ごめんなさい・・。」

「いや、謝らなくていいよ・・。僕が気になっていたのは、はじめてアトランティスへ行った時、木から下りてきた英司とぶつかった時の腕の痛みが現実世界に戻った時にも、しばらく残っていたんだ。夢の中だから大丈夫という訳ではない事を、みんなに伝えていなかったから・・。」

ヒカルは今回のエリーの事に少し責任を感じていた。ヒカルの話を聞いたエリーは少し日本語の表現で理解できないところもあったが、ヒカルの優しさに触れていっそう元気が出てきた。

「あら?中に入ってもらったら?」

 エリーが寒い玄関先に出たまま、なかなか入ってこないので様子を見に来たホストマザーは、真希ではなく男の子と話をしているエリーに少し驚きながら言った。

「いえ、ちょうど帰るところだったので・・。失礼します。」

 ホストマザーに軽く頭を下げて、ヒカルは足早に駅へと向かって歩き出した。

「素敵な男の子ね。同じ学校の子?」

 ホストマザーはヒカルの後姿を見送りながらエリーに聞いた。

「学校は違うけれど、部活の試合で・・。」

 エリーはヒカルと知り合って仲良くなった説明が難しくて言葉に詰まった。

「さあ、早く中に入りましょ。本当に寒いわね。」

 少し照れくさそうにしているエリーを見たホストマザーは微笑みながら言った。





「あの時はどうなるかと思ったよ。」

 元気そうなエリーを見て、ほっとした英司がつぶやいた。年末になり部活が休みになった四人は集まる事ができた。

「心配かけてごめんなさい。あれから一週間が過ぎましたが、まだアトランティスには行けません・・・。」

 エリーはずっとシースーの事が頭から離れない。三人はエリーを慰める言葉が見つからなかったので、同じようにうつむいた。

「そうだ、次にアトランティスへ行った時、エリックに聞きたい事をまとめておこう。」

 ヒカルはエリーに向かって明るい口調で言いながら、ノートとペンを取り出してテーブルに置いた。

「あの飛んでいた乗り物は、何で動いているのかな?」

 英司はあの乗り物が気になってしょうがない。ヒカルはノートに手早く書きとめた。

「アトランティスの人達の家は気にならない?家もこの世界とはかなり違っているかな?」

 真希は考え込むような口調で言った。

「家らしい建物は見かけなかったから外観は分からないけど、きっと家の中の設備もすごいだろうな。自動で料理が出来上がり、家中の温度や湿度も一定で、トイレや風呂など全ての掃除をしなくていいとか?」

 英司は思いつく限りの理想の家の様子を言った。他の三人も家の中で生活が便利になる事に想像力を働かせたが、高校生の四人には、今住んでいる家が十分快適であると感じていた。

「エリックが動物とも家族のような付き合いが出来ると言っていたけど、動物とはテレパシーで会話するのかな?」

 真希はシースーの事を考えながら言った。

「そんな気がするな。」

 ヒカルはエリックが遥か先にいるシースーを呼んだ時を思い出していた。

「絶対にテレパシーです。動作や顔の表情を見て判断している感じではなかったので。」

 エリーには確信があるようだった。

「でも動物にテレパシーを使われると、ちょっと困る時もあるだろうな・・。」

 英司が何かを思いついたように言った。

「どうして困るの?」

 真希が不思議そうに英司を見た。

「だって俺の家で飼っている犬は食いしん坊でいつも何か欲しそうにしているし、目が合うと、おやつをねだっている様に見えるよ。それをテレパシーで伝えられると今までのように無視できなくなるだろ?それと朝の散歩は俺の担当になっているけど、朝は眠くてなかなか動けない。でもいつもの時間になると犬がソワソワしだして、すごい視線を感じる。『早く行こうぜ、早く!』って。でもこれって、立派なテレパシーだよな?」

 英司はハッとした顔になり、皆を見た。

 三人は英司と飼い犬の様子がすぐに思い浮かび、笑い出した。

「確かに、良い事ばかりじゃないかもしれないな・・・。」

 ヒカルとエリーも飼い犬の事を思い出して、急に考え込んだ。

「僕の家の犬は家族みんなが外出してしまうと、しばらくの間吠えているんだ。しょうがないと思って出かけているけど、寂しい気持ちや怒りをテレパシーでずっと伝えてこられると、こっちもつらいなぁ。」

 ヒカルは困った顔をしながら言った。

「でも調子が悪い時はどこがどんな風に痛いかわかると思います。それに私はもっと動物達と深いコミュニケーションがとりたいです。」

 思い直したエリーは、きっぱりと言った。その言葉に皆は微笑んでうなずいた。

「町へ行った時はレストランのような店の中は見なかったけど、アトランティスではどんな食事なのかしら?美味しいお菓子もあるかな?」

 真希は目を輝かせて言ったが、急にヒカルが手を止めて言った。

「あ、そろそろ帰らないと。今夜から祖父母の家に帰省して、お正月は親戚一同が集まる事になっていて…。」

「楽しそうですね。」

 年末年始を家族と過ごせないエリーは、少し寂しそうな表情になった。それに気が付いた真希は明るい声で言った。

「そうだ!エリー、大晦日は私の家に泊まりに来ない?いとこも来るから騒がしくなるけど。」

「いいの?」

 今度はエリーが目を輝かせた。

「じゃあ、お正月はアトランティスで会おうぜ!」

 英司の素敵な提案に皆は最高の笑顔になった。


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