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シースーと町へ

 急にエリックが四人の後方、遥か遠くにいる動物の群れに手をふった。するとその動物たちは軽やかに、あっという間に五人のそばへやって来た。

『こいつらはシースーだ。性格は穏やかだから、背中に乗せてもらうといい。楽にこの辺りを見て回れるぞ。』

 姿はラマによく似ているが、背が三メートルほどはある。全身がふわふわの毛に覆われ、顔が小さいわりに耳は大きい。十頭以上のシースーが興味深そうに四人をじろじろ観察している。エリーは人懐っこそうなシースーに向かって微笑みながら、そっと胸の毛に触れてみた。シースーもキラキラとした大きな瞳で嬉しそうに、じっとエリーを見つめている。シースーの毛は見た目よりも柔らかく、くせのある純白の毛が太陽の光で輝いている。エリー以外の三人はシースーの大きさと数の多さに圧倒されて少し後ずさりした。

『怖がることはない。ここでは動物とも家族のように付き合うことが出来る。こいつらはもっと、お前たちと遊びたがっているぞ。背中に乗せてくれるそうだ。ただし、必ず両手でシースーの首の毛をつかんでおけよ。スピードが速いから振り落とされると大変だからな。』

 シースーの群れは皆、低い姿勢になり四人が背中に乗る時を待っていた。英司は思い切ってすぐそばにいるシースーに飛び乗った。ヒカルは優しそうに見えるシースーを見つけて慎重にまたがった。少し不安が残る真希はエリーに続いて、そばにいるシースーの背に乗った。そして四人を乗せたシースーだけが、ゆっくりと立ち上がった。その他のシースーはその場にしゃがんだまま、つまらなさそうに目の前にある草を食べ始めた。立ち上がったシースーは得意げな顔で他のシースーをチラッと見てから、はじめは馬が歩くほどのスピードで進み始めた。

『すごいぞ!乗り心地は最高だ。』

 シースーにすっかり慣れた英司は、もっと速く走ってほしくてしょうがなかった。他の三人も緊張がほぐれてきた頃にシースーはスピードを上げていった。シースーが始めに近寄ってきた時ほどのスピードが出ていたが、四人は高級車に乗っているような感覚で恐怖心は全くなくなっていた。

『気持ち良いわね~』

 四人はテレパシーを使いこなせるようになったので、大声を出さなくても気持ちを伝え合える。町に近づくにつれてシースーはスピードを落とし、四人がしっかりと観察出来るようにしてくれた。シースー四頭が町の中をウロウロしていても、人々の嫌がる様子はなく都会でも動物と人が調和している。町を見渡す限り動物たちの糞尿は見あたらず嫌な臭いも感じないのに、掃除をしている人は見あたらない。何かのシステムで清潔な環境を管理していると感じたヒカルは、見える範囲で調べてみたが手がかりはつかめなかった。

『シースー達は優しいし賢いわね。私たちの気持ちをわかっているみたい。』

 真希は横にいるエリーをチラッと見て言った。

『本当にかわいい。連れて帰りたいわ・・。』

 動物好きのエリーはシースーの事を心底好きになった。エリーを乗せているシースーも振り返り、嬉しそうにエリーを見つめた。

『ほとんどの人たちがテレパシーで会話をしているから雑音がないのね。とても穏やかな雰囲気だわ。』

 町には人が多いが、まるで大自然の中にいるような感覚も味わえる。高い建物がないので空も良く見え、風で木の葉が揺れる音や鳥のさえずりも聞こえてくる。

『移動する乗り物は空を飛んでいるし、歩く人や動物たちは安全だな。アスファルトで地面を覆う必要もないし・・。』

 町のシステムに感心したヒカルは、もっと詳しく知りたくなった。その気持ちを察したようにシースー達は町の中央あたりにある広場で足を止めた。そして四人が下りやすい様に、ゆっくりとしゃがみ込んだ。そして皆はシースーから下りて、歩いて町を見てまわる事にした。

『ちょっと待っていてね。』

 エリーが優しくシースーに話しかけた。シースーも理解したように、その場でじっとしていた。

『誰一人として俺たちには気が付いていないようだな。もう話しかける気にもならないよ。』

 英司はすぐそばにいる人々を眺めながら言った。町にいる人たちは皆、この場所で楽しいひと時を過ごしていた。

『いろいろなお店はあるけど、ショッピングを楽しんでいるような感じではないわね。仲の良い人たちが集まって話しをする事が楽しいのかな?』

 真希は周りの人々の行動を観察しながら言った。

『でも一人でいる人も楽しそうだわ。』

 エリーも周りを見渡しながら言った。

『確かにここは人が多いけど居心地がいいな。俺は人混みが苦手だけど、どうしてだろう?』

 英司が不思議そうに聞いた。

『この場所が良いところなのかな?風水で言う龍穴というエネルギーの高い場所に町が建てられているのかもしれない。あ、龍穴とはパワースポットと呼ばれているような所の事だよ。』

 ヒカルは町の心地良さを感じながら言った。

『ヒカルは物知りね。でも風水って難しそう。』

 真希が感心しながら言った。

『母が風水に凝っていた時があって、家の中のインテリアを方位によって変えたり、旅行に行った時は、その土地の龍穴を訪れたりしていたから自然と覚えたんだ。昔の都などは風水の知識を利用して建てられた所が多いらしいよ。今は気にする人は少ないと思うけど、昔は目に見えないエネルギーを利用して、より良く暮らしていたのかもしれない。だから、この町もパワースポットのような場所かなと思ったんだ。』

『きっとそうだわ。この辺のパワースポットなのよ。だってここの人たちは何かを買うために来ている感じでもないし、レストランのような店もあまり見かけないから、食事に来ている訳でもなさそう。』

 真希は心から納得したように言った。

『人だけじゃなくて動物達も集まって来るくらいだから、とてもエネルギーの高い場所なのよ。』

 エリーは気持ち良さそうに寝ている動物達に微笑みかけた。

『今度は、あの飛んでいる乗り物に乗りたいな。』

 英司は空に浮かんでいる乗り物を見てワクワクしている。広い町中を全て見たわけではなかったが、四人はまだまだエリックに聞きたいことがあったので、一度エリックのいる所へ戻ることにした。シースーの待っている広場に向かった四人は、リラックスして寝ているシースーを見つけホッとした。

『おまたせ』

エリーはシースーに駆け寄り、満面の笑みを浮かべながら、シースーの背をそっと撫でた。四頭のシースーも微笑んでいるような顔で四人を見つめた。そして各自がはじめに乗って来たシースーにまたがると、ゆっくりと立ち上がり、何も言わなくてもシースー達は元の場所に向けてスピードを上げていった。かなり離れていたが岩の上に座っているエリックを見つけたエリーは、

『おーい、エリック~』

 と言いながら手を振った。

『キャー!』

 シースーから片手を離してしまったエリーは、バランスを崩し地面に落下してしまった。他の三人は同時に、

『エリー!』

 と叫んだ瞬間、全てがぼやけていった。


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