アトランティスは過去?
『え!アトランティス?大昔にそのような大陸があったという話は聞いた事がありますが、空想かもしれないと言われています。本当にここが過去なのか・・・』
ヒカルは辺りを見回して驚いていた。そして、ここが大昔だという事が四人には信じられなかった。テクノロジーは現実世界よりも進歩していて原始的な様子は全く感じられない。ただ動物や植物、虫など全てが、かなり大きい。実っている果物の味も濃厚で栄養も十分に含まれているようだ。四人はここが過去だという事実を見つけるために、少しの間無言になって周りを見渡し頭の中で現実世界との比較していた。
『お前たちは未来からやってきたのか?この世界はどのように変わっていくのだ?』
エリックは、さほど驚いた様子ではなかった。みんなはエリックの質問に何と答えて良いのか分からずに沈黙がながれた。
『はっはっは。こんな年寄りが遠い未来の様子を知ったところで、しょうがないな。』
豪快に笑うエリックにつられて皆は自然と笑顔になっていた。
『実は・・。たぶん僕たちが住んでいる世界は未来だと思うのですが、ここよりもテクノロジーが進歩していないと思います。都会では人や車も多く賑やかですが、車から出る排ガスなどで空気も悪くて・・。この場所の方が未来のような感じもするのですが・・。』
ヒカルは何と説明すれば良いのかわからず、言葉に詰まりながら言った。
『そうか。ここのテクノロジーは急に進歩したからな。わしの子供の頃と今は大違いだ。きっとお前たちの世界も変わる時は、あっという間だぞ。』
エリックは遠くを見るような目をしながら話し続けた。
『わしは今まで様々な存在に会ってきたが未来から来た者に会ったのは初めてだな・・。どうやってここに来たのだ?』
『ここに来ている時は四人とも寝ている時間なの。はじめて来た時は、ただの夢だと思っていたけど、現実世界でも私達は会う事が出来たから夢じゃない事がわかったの。でも何かに乗ってきているわけじゃないし、自由に行き来はできないのよ・・。朝、目が覚める時間になったら急にここから消えると思うわ。そうね、私たちに共通している事と言えば、あの金属を持っている事くらいかな・・。』
エリーは誰もが理解しがたいような話を明るく手短に伝えた。
『この金属なのですが、ご存知ですか?』
ヒカルはポケットの中の金属を取り出しながら言った。
『おぉ。これはオリハルコンだ。太陽と同じ資質を持っていて、あらゆるエネルギーを高めてくれる。神殿の装飾などにも使われておるそうだ。』
エリックの少し興奮した様子から、この金属が貴重な物であることが伝わってくる。ただ、この金属を持っているとエネルギーが高まるといった感覚は四人にはなかった。
『そういえば、この輝きは太陽のようにも見えるわ。』
真希は自分のオリハルコンを手に乗せて、うっとりと眺めた。
『お前たちがここに来たのも、オリハルコンが関係しているのかもしれんな。しまっておきなさい。なくすと元の場所に戻れなくなるかもしれんぞ。』
真剣な口調のエリックに皆は素直に従った。現実世界に帰れなくなるかもしれないという恐怖心から、四人はポケットに入っているオリハルコンを大切に扱うようになった。
『そういえば、この前訪れた場所の壁面にもオリハルコンの輝きがあったような気がしない?』
真希は圧倒されるような美しい建物を思い出しながら言った。
『お前たちは、アトランティス神殿へ行ったのか?』
エリックは真希の心に浮かんだ美しい建物のイメージを読み取り、驚きが隠せない様子で四人を見回した。
『神殿かどうかはわかりませんが、二本の巨木の間に真っ直ぐな道が伸びていて、その先にはブルーグリーン色をした建物がありました。その中は・・・。』
ヒカルが前回訪れた場所の様子を簡潔に答えた。
『はぁ・・・間違いないな。そこはアトランティス神殿だ。わしはその場所を言い伝えで聞いた事があるだけで、実際に行った事がある者には会った事がない。わしは小さい頃からアトランティス神殿に憧れていて、いつか行きたいと、ずっと思っていたのだ。』
エリックは放心状態で空を見上げ、深い溜め息をついた。
『それで、どんな存在がいたのだ?』
急に真顔になり四人に問いただすように聞いた。
『それが、誰にも会わなかったの。でも建物の中で目には見えないけど、何かの気配を感じたわ。』
エリーの話を頷きながら聞いていたエリックは、少しうつむきながら考え込んでいた。
『建物に近づくまでの間は、すごい威圧感を感じました。あの場所を守っている龍がいるのではないかと思ったのですが・・。』
ヒカルはエリックの返答に期待したが、エリックはいっそう険しい顔になり何かを考えている様子だった。そして、ゆっくりと口を開いた。
『昔から龍は神殿を守る役割も担っていると言われている。そこには間違いなく龍がいるだろう。しかも格の高い龍が。わしの家の周りにたまに遊びに来る若い龍はやんちゃな奴や面白い奴もおるが、神殿を守っている龍となると恐ろしく感じるかもしれんな。そして神殿にはアトランティス中の神々が集まってくるらしい。人間の目には見えなくてあたり前だろうな。』
エリックは納得したように頷きながら話し続けた。
『わしの知っている限りの人間は、誰も神殿の場所は知らない。この辺の住民は、ただの昔話だと思っているようだ。妖精や精霊などに聞いても教えてくれんからな・・・。』
エリックは残念そうに言った。
『エリックは妖精が見えるの?』
エリーは驚いて立ち上がった。
『あぁ。妖精は花が多く咲いている場所や動物の側などによく見かける。森の奥の方へ行くと背の高い木の精霊にも会えるぞ。』
エリックにとっては普通の事のようだが、妖精を見た事がない四人は簡単には信じられなかった。
『そうだ、妖精は美味しい果物が生っている場所なども、よく教えてくれるのだ。』
付け加えるように言ったエリックの言葉に真希は素早く反応した。
『私も妖精を見る事が出来ますか?』
『もちろんだ。練習してみるか?まずは・・あれこれ考えず、ゆったりと花を見て少し視点をずらす様にする。あ、そこのイチゴがなっているところに、少し変わった妖精がいるぞ。』
真希はさっそく、エリックがおしえてくれたイチゴの株を見つめた。
『おい、真希・・。美味しい果物の在りかを見つけたいという野心が見え見えだぞ。』
その真希の顔を見ていた英司が小声で呆れたように言ったので、皆は一斉に笑い出した。しばらくイチゴを見つめていた真希は、
『ダメだわ・・。何も見えない。無心になる事が難しい・・。』
と、つぶやきながら残念そうに溜め息をついた。
『エリック、他にはどんな存在を見る事が出来るの?』
エリーがエリックの目を覗き込むようにして聞いた。
『そうだな・・。天使たちは強い光がチカっと光るように見える時もあるし、もっと格の高い大天使は様々な色の光線のように現れる時もある。人間のようにハッキリとした姿は見たことが無いが、わしは光の存在だと思っている。そうだ、雷を伴う嵐の時は龍の大群が空を移動している姿を何度も見たことがあるぞ。子供の頃は雷が聞こえると家の中でワクワクしながら空を見上げていたな・・。』
エリックが一呼吸おいて、嬉しそうに話し続けた。
『人間はあらゆる存在に守られて、助けられているのだ。わしは皆が見えない存在とも交流しているからよくわかる。それに目には見えなくても、何かの力によって、より良い道へ導かれていると感じる時が今までに数え切れないほどあった。人は素直に自分が心地良いと感じる方へと行けば良いのだ。簡単な事だろ?』
エリックは微笑んで四人を見た。
『俺も同じように感じる時があります!』
英司が目を輝かせて言った。
『そうね。私は妖精の姿は見えないけど、美味しい果物が食べたいと思ったら何かがそこへ導いてくれると思うわ。』
真希はそう言うと空を見上げて微笑んだ。そんな五人の周りには穏やかな優しい風がふいていた。