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エリックとの出会い

「あれは夢じゃなかったのか?」

 まだ笑顔になる余裕のない英司が三人を見つめながら言った。

「えぇ。私も最初の夢の次の日にエリーを見た時は本当にびっくりしたわ。それに私達はあの金属を持っているのよ。」

 真希が英司とは対照的に、にこやかに話した。

「これのこと?」

 ヒカルはポケットから夢の中でも持っていた金属を取り出しながら言った。四人の中で一番小さな金属を持っているヒカルは、お守りのようにいつも持ち歩いていた。

「あの夢はこの金属と何か関係があるのかな?あの場所のことは今でも鮮明に思い出すことが出来るよ。」

 ヒカルが遠くを見るようにして言った。そして四人は夢の中の出来事をさっき体験したことのように感じながら話し込んだ。

「あの場所で人々が乗っていた乗り物は何だろう?空を飛んでいたのに静かで、安全な乗り物に見えたな・・・。」

「UFОとは違うような気がしたけど、すごく速かったわね。」

「人が多い場所でも家のような建物がなかったです。」

「遠くに住んでいても、あの空飛ぶ乗り物があれば、あっという間に都心部に行けるからじゃないか?」

「あそこの人達は、どうして僕たちのことが見えないのだろう?」

「う~ん・・。」

 様々な疑問がわき上がる四人だったが、何もわからないまま話が続いていった。

「そうだ!夢の中で会えたという事は、あそこへ行っていた時間は、みんなが寝ている時間だと思うの。またあそこへ行くために、寝る時間をなるべく合わせておかない?」

 真希の提案で四人は毎晩十二時までには眠りにつく約束をした。

冬の日の入りは早い。まだ夕方の六時過ぎだというのに、周りは街灯がつくくらい暗くなっていた。

「私そろそろ帰ります。」

 エリーはホストファミリーが心配するといけないので、急いで帰り支度をはじめた。冬の薄暗い中でも日本の高校生ならばウロウロしている時間だが、皆はエリーに合わせて

「またね。」

と足早に帰った。



(ただの夢ではなかったんだな・・。)

 帰宅したヒカルは他の事は何も考えられず早めにベッドに入った。そして試合と四人での興奮した話し合いに疲れていたヒカルは、すぐに目を開けていられなくなった。



(ここは・・・。)

 心地よい眠りに落ちたヒカルの周りには、なだらかな丘が広がっていた。そして、またすぐそばに英司が立っていた。

「よ!」

 英司は、はじめて会った時と同じように笑みを浮かべながら言った。ヒカルも満面の笑みで英司を見た。

「さっそく会えたね!」

 英司とヒカルの姿を見つけた真希は二人に駆け寄って来た。

「おまたせしました~」

 エリーが変なダンスを踊りながら最後に現れた。美しい顔立ちにそぐわないお笑い芸人のような行動に三人は笑いがとまらなかった。そして夢の中の四人のポケットには、またあの金属が入っていた。

「よし!ただの夢じゃないとわかったから、今度はしっかりと見てまわるぞ。」

 記憶力の良いヒカルは意気込んでいた。

「それにしても俺たちは幽霊みたいだな。ここの人たちには見えていないみたいだ。」

 少し不服そうに英司が言った。四人が立っている丘には果物がなっている木がまばらに生えていた。その果物を採りに来ている人たちが数人いたが四人には全く目もくれなかった。

「気楽でいいじゃない。」

 真希はそう言いながら片手でやっと持てるほどの大きなサクランボをもぎ取り食べ始めた。

「すごく美味しいです。」

 エリーもサクランボを豪快に食べていたが男二人はサクランボには興味がなかった。

「あっちの川の方へ行ってみよう!」

 言い終わるとすぐにヒカルは走り出した。スポーツに関しては負けず嫌いの英司は、ダッシュしてヒカルを追い抜いた。競い合うように走って行く二人のことは気にせずに、真希とエリーは花々を眺めながらゆっくりと川のほうへ向かった。短距離走のように三百メートルほどの距離を走った二人の息は荒くなっていたが、美しい川を少し眺めているうちに落ち着いた。

「きれいな川だな。深いのに川底まで見えるし石や砂まで今まで見た事のない、きれいな色をしている・・。」

 ヒカルの観察は続いた。ヒカルの話しを聞いていた英司はふんふんと頷き、手で水をすくった。

「冷たくないな。」

 英司はそう言いながら靴を脱ぎ浅瀬に入っていった。日本で十二月といえば寒くて川に入ることはなかなか出来ない。快適な水の中で泳ぎたくなった英司だが女の子の前でパンツになって泳ぐことは、さすがに気が引けて浅瀬で我慢することにした。

「水が宝石みたい!こんな川は見たことがないわ・・・。」

 遅れて川辺に到着した真希とエリーは、あまりにも美しい川の流れに見入っていた。

「見て!魚がいるわ。鱗が黄金色に輝いている。」

 川もきれいだが、そこに住んでいる魚もとても美しい。熱帯魚の美しさとはまた違う輝きを放つ一匹の大きな魚が、ゆったりと尾ひれを動かして四人のそばまでやって来た。四人を全く怖がらない魚はまるで自分の美しさをひけらかしている様にも見えた。

『誰だ?』

 周りに人の気配はなかったが、振り向くといつの間にかすぐそばに皆の祖父ほどの年齢の男が立っていた。四人は驚きで何も答えられないままで固まっていた。しかめた顔で、しっかりと四人のことを見ていた男は、

『あぁ。』

 とだけ言って、ゆっくりと岩の上に腰を下ろした。服装や雰囲気から、この場所の住人であることはすぐに分かった。英司やヒカルよりは少し背が低くて恰幅が良い。皮膚は浅黒く深いしわが多くあり、一見少し怖そうな威厳のある顔をしている。

『僕たちが見えるのですか?』

 はっきりとした口調でヒカルが尋ねた。尋ねたといっても口を開いたわけではない。老人の声は心に響くように伝わってくる。しかも何かの言語という訳ではなく、言葉を超えた心の中のイメージを交換するような感覚だった。ヒカルも自然にテレパシーで会話をしていた。皆は心に直接伝わってくる様な会話に少し戸惑った。しかし言葉を選ばなくても感情に乗せて自分の考えを伝えられるテレパシーを、とても便利だと感じるようになっていった。

 老人の名前はエリック。昔から周りの人たちには見えないものが見聞きできたので変人扱いされてきた。皆はエリックのすぐ側にある岩に座った。

『お前たち、少し前にも来ていただろう?』

『えぇ。三度目なの。エリック、ここは何と言う所なの?』

 友好的なエリーはまるで自分の祖父と話をしているようだった。その上、テレパシーを使うと慣れていない日本語を使わなくても話が通じるので、テンポ良く会話が出来て楽しかった。

『ここはアトランティスだ。』

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