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現実世界で集合

何の抵抗も無く外に出た四人は振り向いて箱のような建物を見ながらホッとした溜め息をついた。すると突然、真希が笑い出して言った。

「目には見えない人たちが私たちの様子を見ていたら、面白かったでしょうね。だって、きょろきょろしながら楽しそうに歩き回っていたのに急に真顔になって隅のほうをこそこそ歩いて出て行ったのよ。」

他の皆もつられて笑い出した。笑いながら階段を降りている途中に、英司がハッとしたように言った。

「もしかして、この建物の外にも目に見えない存在がいっぱいいるんじゃないか・・・。」

 皆はまた真顔になり階段の端に寄った。そして来た道の端の方を二列になり、無言で進み始めた。今度はエリーが笑い出した。

「でも見えている人が私たちを避けてくれると思います。」

 また全員笑い出したが、そのまま広い道の端を歩き続けた。建物から離れるにつれて、四人は来た時と同じ鋭いような空気を感じ始めた。

「またこの感じ・・。」

 真希は顔をしかめながら言った。

「建物の中とは全然違うよな。でもここを通らないと帰れないし・・。」

 英司も少し声が暗くなった。

「神社や寺などの場所は、その場を守るために龍が住んでいると言われているし、ここにも龍のような存在がいるのかもしれないな。」

 ヒカルは、この威圧感を言葉にすると龍が当てはまるような気がして言った。

「龍か・・。かっこいいだろうな。」

 英司が言い終わると同時に四人の後ろから突風が吹いた。

「もしかして・・。今、龍が通り抜けたんじゃない?」

 あまりのタイミングの良さに、真希は目を見開いて言った。さっきまで見えない龍にわくわくしていた英司は少し怖くなり、うつむきがちに歩き続けた。二本の巨木に近づくにつれて、四人は足早になっていった。やっと二本の木の間を通り抜け、はじめに四人が集まったところまで戻ると大きな溜め息と同時に皆は座り込んだ。

「疲れたぁ。」

 英司はそう言うと、やわらかい草の上に寝転んで大の字になった。

「私にとって、疲れたという言葉は禁句なの。」

 真希は完全に力を抜いた英司に向かって微笑みながら優しく言った。

「どうして?」

 エリーが不思議そうに聞いた。

「日本には『ことだま』という言葉があって、言葉そのものに魂があるという考え方があるの。『つかれた』『できない』『いそがしい』この三つは特にネガティブな感じがするから私はなるべく使わないようにしているの。だから誰かがこの言葉を使うと、つい反応してしまって・・。」

 リラックスしていたのに起き上がって真剣に話を聞いている英司に、真希は少し申し訳ないように感じながら言った。

「つかれた、できない、いそがしい」

 エリーは復唱して、しっかりとその言葉を頭に入れていた。

「確かに、疲れたと言ったら余計に疲れる気がするな。」

 英司はいつも使っている言葉を思い出しながら言った。

「できないと言ってしまうと出来る可能性があっても、やる気がなくなってしまうし、忙しいという言葉もすぐに口に出してしまっているよ・・。」

 ヒカルにも思い当たる節が多かった。

「俺なんて、その言葉を使わない日なんてないな。使わずに生活するなんて無理無理・・無理って『できない』と同じだよな。はぁ・・。」

 英司は大きく溜め息をついた。

「『ことだま』は祖母の教えなの。少し意識するだけで習慣になると思うわ。『つかれた』をよく頑張った、『できない』を難しい、『いそがしい』を、する事が多いなどの言葉に代えて使うといいと思うの。」

 真希の言葉に皆は納得したように何度か頷いた。

「あ!忘れてた! 英司とヒカルに言いたい事があったのに、この場所の雰囲気に圧倒されてしまって・・。」

 そう言いながら真希は英司とヒカルに詰め寄った。

「実は私とエリーは同じ学校で・・。」

 真希が大切な事を伝えようとしていたが、その声は次第に薄れていき、皆の姿も見えなくなった。


「あぁ、もう少しで言えたのに・・。」

 真希はそう言うと小さな溜め息をつきながら、ゆっくりと起き上がった。





真希が入っている高校のバスケットボール部にエリーも加わった。背の高いエリーだが機敏ではないために、あまりバスケットボールが得意ではない。しかしムードメーカーとして部活でも人気者だ。

 冬のまだ薄暗い朝、日曜日だが自分たちの高校で行われる部活の練習試合のため、真希とエリーは早朝から準備におわれていた。三つの高校の女子だけではなく男子も隣のコートで試合が行われるので、かなりの人数が集まる予定だ。体育館は普段とは違う緊張感に包まれていた。エリーはレギュラーメンバーではなかったが、はじめて間近で見る試合が楽しみで、ずっと興奮していた。自分たちの順番は少し後になるため、真希とエリーは同じ高校の男子の応援をしていた。

「あ!」

 十二月も半ばが過ぎ、冷え込む体育館にエリーの声が響いた。しかし皆は試合に集中し声援も大きかったので、隣にいた真希しかその声が気にならなかった。エリーの視線の先を見た真希は驚きで声が出なかった。あの夢の中で一緒だったヒカルが対戦チームの中にいたのだ。背が高く幼い可愛さが残るヒカルは一見頼りなさそうに見えるが、試合ではチームメイトに指示を出し、計算された動きから知的な雰囲気が感じられる。夢の中でもヒカルは冷静な行動をしていた。真希とエリーは同じ高校の男子を応援する事を忘れ、真剣にプレーしているヒカルを、ずっと目で追っていた。

「あの人、間違いなくヒカルよね?」

「間違いないです。」

二人は顔を見合わせて微笑んだ。

「現実でも会えたわね!ヒカル、きっとびっくりするわよ~」

真希はわくわくして言った。

「やっぱり試合中は、こっちを見ません。」

エリーはヒカルに手を振ってみたが全く気が付く気配はなかった。しばらくの間ヒカルを応援するように見ていた真希が、ふと体育館の入り口から外の様子を見て驚いた。

「あぁ!」

今度はさっきのエリーよりも大きな声を出した。自分たちの順番が来るまで、外でアップしている男子の中に英司を見つけたのだ。エリーと真希は初めて会った時のように笑い出した。

「これで四人そろったわね。」

 偶然とは思えない出会いに二人は興奮していた。

「まだ二人は私たちに気が付いていないと思います。」

 エリーは驚く二人の顔が見たくて、早くこっちを見ないかな・・ と、ずっと二人に視線を送っていた。男子の試合が終わる前に真希たちの出番がきた。試合に出ている真希は、英司とヒカルに気を取られている余裕はなかったが、ベンチに座っているエリーは応援に集中できずに、英司とヒカルの姿を目で追っていた。

ヒカルは試合が終わり休憩しながら女子の試合を眺めていた。英司は試合の順番が近づいたので体育館の中に入ってきた。そして二人ともほぼ同時に試合に出ている真希を見つけた。細身で百五十二センチという小柄な真希は、背の高い人が多いバスケ部の中ではよく目立つ。声も出ないほどに驚いている英司に向かってエリーがオーバーに手をふった。嬉しそうなエリーの姿が英司とヒカルには、すぐに目に入った。ますます放心状態になっている英司を見つけたヒカルは、

(ぼくも、あいつと同じような顔をしているのだろうな・・。夢の中で英司のことを知っているような気がしたのは、バスケの試合で顔を合わせていたのかもな・・。)

 と、少し冷静に考える事ができた。

「試合が終わったら待っていてください。四人で話をしましょう。」

エリーはすばやく英司とヒカルに伝えに行った。外国人という事もあり目立つエリーとの会話はチームメイトには冷やかされたが、エリーとは初対面ではないので二人とも緊張する事はなく返事ができた。


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