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神々が集う場所

「今回はすごい所に来たみたい・・・。」

 真希は前回とは違う厳かな雰囲気に緊張していた。

「本当ですね。」

 すぐ横に立っていたエリーも同感して言った。少し離れた所にいた英司とヒカルは、真希とエリーを見つけて駆け寄ってきた。

「神社や寺と同じような感じがするな。」

 英司は気後れすることなく周りを見回しながら言った。四人の目の前には誰もが圧倒されるような二本の巨木が立っている。直径二十メートル以上はありそうだった。

「この木はセコイアだと思います。昨年アメリカへ旅行した時、カリフォルニア州にある国立公園で世界一高いセコイアを見ました。この木とは比べ物にはなりませんが・・。」

 エリーは巨木を見上げて言ったが、その木の高さは永遠に続いているようにも見える。二本の巨木の間には道があり、その遥か先にはブルーグリーンのような色をした美しい建物が見える。しかし四人は前方から漂ってくる重々しい空気を感じ、木の間に足を踏み入れる事をためらっていた。周りは静かな森が続いていて人の姿は見あたらない。

「せっかく来たから、あの建物に行こうぜ。」

 英司は元気な声で言ったが慎重に足を進めた。後の三人も同じように歩き始めた。

「何かに包まれているような気がするわ。怖くは無いけれど、優しいものでもないような・・。今まで味わった事がないわ。こんな感覚・・・。」

 真希は引き返したい思いを隠せずに後ろを振り返った。

「次元が違う・・という言葉がぴったりくるかな?ここはきっと、とても神聖な場所だと思う。」

 ヒカルははるか先にある建物を見ながら言った。

「誰もいませんね・・。」

 エリーはつぶやきながら後ろを振り返った。やっと巨木の間を通り抜けた四人は、少しずつこの場所の雰囲気にも慣れてきた。

「かなり歩いたような気がするけど、なかなか建物に近づかないな。」

 英司は建物へ走って行きたい気持ちもあったが、この場所では許されないような感じがしたので他の三人に歩調を合わせていた。

「この道はきれいな石で出来ているのね。」

 白い御影石のような石で出来ているように見える道は五十人以上が横に並んで歩けるほどの幅があり、真っ直ぐに建物へと続いている。

「かなり遠いけど道を間違えることはないな。ここまで来ると引き返す事が許されないような気もするよ・・。」

 先頭を歩いている英司が、はじめて後ろを振り返って言った。四人は二本の巨木に背中を押されているような威圧感を感じていた。

「進むしかないな。あの建物の中は居心地が良いかもしれないし。」

 ヒカルは皆を安心させるように笑顔で言った。ヒカルの言葉通り、建物に近づくにつれて四人は周りの雰囲気が柔らかくなってきたことに気が付いた。

「今までの威圧感は何だったのかしら?ここまで来ると、とても気楽になったような感じがするわ。」

 真希はいつもの笑みを浮かべる余裕が出てきた。他の三人も深呼吸をしながら周りを見回していた。やっと巨大な建物の前にたどり着いた四人は、その美しさに畏敬の念を抱いていた。

「天然石で出来ているのかな?翡翠かしら?」

 真希は下から見上げながらつぶやいた。皆にはブルーグリーン色をした石の種類はわからなかったが、太陽の光が当たっている壁面は光を反射せず吸収しているかのように一定の輝きを保っている。

「まだ中の様子は見えないけど、入り口に扉はなさそうね。入ってみる?」

 真希は建物に入る手前の、三十段ほどの階段の下で皆に確認するように聞いた。

「あたり前だよ。行こうぜ。」

 英司はまた先頭に立ち階段をゆっくり登り始めた。

「え・・?」

 入り口の前に立った英司は拍子抜けしたように立ちつくした。建物の中には何も見あたらない。

「石の箱みたいですね。でも、優しい風が流れてきます。この気持ちよさは何?」

 エリーは目を閉じて手を横に広げ、心地良い風を全身で感じていた。

「本当。懐かしいような優しい感じがするわ。」

 真希も目を閉じながら中から流れてくるエネルギーのようなものに感動していた。

「入ってみよう。」

 そう言うとヒカルは躊躇せず建物の中に足を踏み入れた。その瞬間、ヒカルの姿が消えた。驚いた三人は慌ててヒカルの名を呼んだが返事は無い。

「入るしかないな・・・。」

 英司は迷わずに建物の中に進んだ。消えた英司の姿を確認した真希とエリーは見つめ合い、同時にうなづいてから中へと入って行った。

「すごく広い・・・。」

 中に入る前でも、その建物は何百人という人が入れそうな大きさだったが一歩踏み入れると、もっと広い全く別の世界が広がっていた。さっきの箱のような建物とは違い、壁には宝石を散りばめたような美しい装飾がほどこされている。しかし派手で存在感がある宝石ではなく、それぞれが音楽を奏でるように調和しているように見える。建物の中はどの部分を見ても神々しさが感じられ、四人は美術館で鑑賞しているかのように無言で壁面や天井などを眺めていた。

「本当に素晴らしい所だ・・。でも中と外では世界が違うのかな?それとも別の場所に移動する仕組みになっているとか・・。」

 ヒカルは独り言のようにつぶやいた。

「どこでどうなったかはわからないけど、ここに入る前に感じていた優しい風はここから流れてきていたのね。本当に気持ちがいいわ。」

 真希は思い切り息を吸い込み、感動しながら言った。三人もつられて深呼吸するように、この場所に充満している穏やかで優しい空気を全身で味わった。

「誰かに話を聞きたいけど、ここにも人の姿は見あたらないな。」

 英司は広い室内を見回しながら言った。

「とても大きな教会のようですね。いろいろな大きさのイスが並んでいるから、多くの人が集まる場所でしょうか?」

 エリーは自分が通っていた教会を思い出し、神父様の立つ祭壇を探したが、ここには見当たらなかった。数多くあるイスの一つに触れたエリーは急に後ずさりした。

「どうしたの?何かあった?」

 エリーの驚いた様子を見た真希は近づきながら聞いた。

「見えないけれど、何かがいるような感じがしました。」

 エリーは真剣な顔でイスを見つめながら言った。

「もしかして・・。前の夢では、町にいる人々は僕たちの事が見えていない様子だっただろ?今、僕たちにはこの場所にいる人たちの事が見えないのかもしれないな。」

 ヒカルは並んでいるイスを見まわしながら言った。他の三人もヒカルの言葉にハッとなり、目を凝らしてイスを見回したが、相変わらず何も見えなかった。

「じゃあ、もっと壁の方へ・・。邪魔にならない場所へ行った方がいいわね。」

真希は四人だけに聞こえるほどの小さい声で言った。そして皆は遠慮するように建物の隅へと移動した。

「この建物を一周したら日が暮れそうだな。しかも見えない相手に気を使うのも変だから一度外に出ようぜ。」

 英司も小声で言った。皆も黙って頷き、入ってきた方へ向かって歩き始めた。


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