78話 その名前は?
「やあ! 調子はどうだい?」
「まあまあかな」
「素晴らしい。きっと君たちなら迷いの森を踏破するのもすぐさ」
「……そのことなんだが」
ペロリンはヒナタたちに期待の眼差しを向けている。わざわざまだあまり実績の無いヒナタたちに指名依頼をしてきたのだ。期待していないと言うのは嘘だろう。
それだけにこの結果を伝えるのは少しばかり抵抗を感じていた。しかし伝えない訳にもいかない。1つ大きく息を吸ってヒナタはペロリンに報告を始めた。
「……つまり、見つからなかった……と?」
「ああ、あそこには何も食べられるものは無かった」
「君たちが言うならきっとそうなんだろう。……残念だけど、諦めるしかないね」
「……あ! ちょっと待ってよ!」
やや気を落としながら去ろうとしたペロリンをアクアは呼び止めた。何かあるのだろうか。ペロリンもヒナタもアクアの顔をじっと見つめた。少しだけ悩む素振りを見せたアクアだが、ゆっくりと話を始めたのだ。
「その……、秘密の食材の名前って分かったりするかな?」
「名前かい? ……そういえば言ってなかったね。その食材の名前はかんじゅくモラード。甘くでものすごく美味しいバナナさ」
「ありがとう! もしかすると他の場所にもそのかんじゅくモラードがあるかもしれない。見つかったらすぐ連絡するよ!」
「本当かい‼︎ それはすごく楽しみだ」
アクアの言葉に満面の笑顔を見せたペロリンは今度こそ去っていった。その様子は先程少し気を落としていたとは到底思えないほどである。
しかし一方で心配なことがある。果たして見つかるかもしれないと軽々しく言って良かったのだろうか。アクアに何か算段があるのだろうか。
「……アクア、なぜあんなことを?」
「……あんなに落ち込んでるのが気になってね。出来る限り依頼には応えたいじゃない?」
「まあ、それはそうだが。……何か考えがあるのか?」
「前に僕が迷いの森はユグドラシルの樹へと続くっていう噂のダンジョンだって言ったのを覚えているかい?」
そこまで聞いてヒナタは納得の表情を浮かべた。
アクアは以前迷いの森についてユグドラシルの樹へと続く噂のあるダンジョンだと言っていた。もちろん噂でしかなく、かんじゅくモラード同様迷いの森にはそんなものは無いという可能性もある。
そして両方とも噂が正しいというパターンもある。それはつまりあの宝玉の間のさらに先にユグドラシルの樹やかんじゅくモラードのある場所があるのではないか。要するにアクアが言いたいのはこういうことである。
「……あの場所が最深部ではないと?」
「……可能性はある」
「なるほど、……俺もそう思う」
「……良かった、ヒナタに否定されたらどうしようかと思ってたんだ」
アクアはほっとした表情である。確かに勝手にペロリンに約束した上でヒナタにそれを否定されればアクアとしてはかなりショックだろう。
tips:
期限のある依頼を除けば、依頼はいつ達成しても構わない。