76話 龍の掌
「……ここが迷いの森の最深部ってこと?」
「そうだね、そうなるよ」
「ここに秘密の食材があるの? ……それにここが最深部だとすれば、転移ポータルはどこにあるんだい?」
アクアのその疑問はもっともである。そもそもヒナタたちは迷いの森の最深部にあるという誰も食べたことのない食材を求めてここまでやってきたのだ。だが今この場所にあるのはどこまでも奥へと続く道だけである。転移ポータルも食材もここにはないのだ。
「もちろんこの奥だ。転移ポータルはこの先にある」
そう言うとフラワは神殿の奥へと進んでいった。ヒナタたちも恐る恐るその後をついて歩いた。確かに転移ポータルは存在したらしい。神殿の奥へと歩くとすぐにヒナタたちの目に飛び込んできた。だがそれよりもヒナタはあるものに目を奪われていた。
「……龍の、……掌なのか?」
転移ポータルの後ろに祠のように建てられたその場所には、龍の掌だけが彫られた像が乱立していた。その個数は円を描くように6個と、中心に1個の合計7個である。
この龍の掌像が一体何を意味しているのかヒナタには分からなかった。ただひとつだけ分かることは、その掌には特定の何かが収まるのだろうということだけであった。それは中心のそれが緑色に輝く宝玉をその手に携えていた故である。
「……この宝玉はいったい?」
「その宝玉はグリーンオーブ。この世界に七つある宝玉のうちのひとつさ」
「七つある宝玉。……それじゃあ同じような宝玉があと六つあるってことか?」
「伝承が正しければね。……この場所は宝玉の間。迷いの森を踏破したものだけがたどり着ける秘密の場所。ここへたどり着けたものは皆この場所で自分たちのなすべきことに気が付くのさ」
フラワはそう言いながらゆっくりと龍の掌像へと歩み寄っていった。彼女の言うなすべきこととは何か。その問いへの答えは明白である。そしてそれはヒナタたちのなすべきこととも言える。なにせ迷いの森はユグドラシルの樹へと続くダンジョンなのだから。
「皆自分たちのなすべきことに気が付く……か。当然その皆の中にはあんたも含まれていると。……そして、果てなき森……だったか?」
「ああ、果てなき森だ。あのダンジョンを一目見て私はあの先にこそ宝玉が眠っているに違いないと確信した。だからこそ私はあのダンジョンの攻略を推し進めている。……そして今回の同行で、君たちにもまたその資格があると確信した」
そう言うとフラワは優しい微笑みを浮かべた。その微笑みは余裕と自信に満ちたものであった。ヒナタたち冒険隊ユグドラシルにとってフラワは、冒険隊アルラウネは格上の存在である。……今はまだ。
tips:
グリーンオーブ
宝玉の間におかれた鮮やかに緑色に輝く宝玉。取り外すことは出来ないようだ。




