301話 勝てども認められない
……ふぅ、倒せたか。色んな攻撃パターンがあって焦ったけど何とかなるものだね。さて、目の前にいるダクディアは……、あれ? ハートのおまもりが出てきてもないし、かといって消えたわけでもない。これどういう状況だ?
目の前のダクディアは肩で息をしており、ところどころから黒煙がたちのぼっていた。かなりのダメージを負っていることは間違いない。最早立つのもままならないほどに消耗しているようだが、そもそも戦闘で力尽きたためにこの程度でおさまっている方がすごいとも言える。
状況が掴めないままヒナタはじっとダクディアを見つめていた。
「……グォォ、…………。なるほど、少々腕は立つようだ」
「ありがとう、嬉しいよ」
「だが」
「……だが?」
不意にダクディアがその顔を上げた。力強い視線がヒナタへと注がれる。そこには敗北したものの目は無かった。むしろ何かに決意したかのような強い意志が感じられた。使命感といってもいいかもしれない。それが何を表しているのかヒナタには分からなかった。なにせそれを考える暇がなかったのだから。
「残念ながらその程度では届きはしない!」
「何⁉︎」
いきなり体当たりを仕掛けてきたダクディアに反応できずヒナタは強い衝撃とともに地面に叩きつけられた。戦闘に勝ったにも関わらずこのような扱いを受けることにやや不満気にヒナタはダクディアを睨みつけた。
だがダクディアはそんなヒナタのことなどお構いなしである。既に次の攻撃を仕掛ける準備と言わんばかりに大きな右腕を振りかぶっていた。
「私を倒すだけではあの方のもとへはたどり着けまい。ならばせめて諦めさせるのも私の役割なのだよ!」
こいつは何の話をしているんだ? いや、そもそもこのイベントは何だ? 戦闘に勝って始まるイベントには到底思えない。まさかこれ負けイベントだったのか? ……暗転⁈
「……やる前からできないと決めつけるのは良くない。そうは思わないかい?」
視界が明転する。聞こえてきた声には聞き覚えがある。背中を見たことはなかったがヒナタは目の前にいるのが誰なのかがはっきりと分かった。後ろにも誰かいることには残念ながら気がつかなかったが。
「……まったく冷静のように見えてその実態は全く異なる。もしお前たちが常夜の森に挑むならと私を連れて出られたトップのご判断は素晴らしいものですねぇ」
突然聞こえてきたその声に振り返ると満足そうな表情のヒショと目が合った。どうやらトップと一緒にこのダンジョンに来ていたようだ。……しかし彼らはどうしてこのダンジョンへ来たのだろうか? 見当もつかないヒナタは素直に聞いてみることにしたのである。
「……ヒショ? どうしてここに?」
「言っただろう? トップのご判断だ。お前たちはトップの寛大なお心遣いに感謝するんだな。危うく命を落とすところだったぞ?」
そう言うとヒショはトップをじっと見つめた。それにつられるようにヒナタたちも視線を送る。未だトップとダクディアは睨み合いを続けている。張りつめた空気が辺りを包んでいた。
tips:
どうやらトップとダクディアは面識があるようだ。




